第3話 知らない

マサヨシがお使いをこなした次の日のことである。今度は帽子がいるのだと言われシロと共に人混みを歩いていると明らかに人間ではない雰囲気を纏った女性がベンチに座っていた。金髪に黒い着物という街を歩くにしては少々奇抜な姿ではあるが誰も見向きをしていない。マサヨシがぼんやり見ているとシロが舌打ちをした。

「キイロ。お前何しに来たんだ。」

シロが苛立ちながら話しかけるとキイロと呼ばれた女性はゆっくり微笑んだ。

「アオが懲りずにお使いしてるんだって聞いて。」

「あいつの満足するまでさせてやれよ。」

「いつ終わるのよ。これから何年掛けるつもり?こいつは49日以内に頑張って全部見つけて貰えるっていうの?」

「だから俺がいるんだろ。」

マサヨシは戸惑いながらも二人に割って入る。

「あの...事情は分かりませんけど。俺達急いでるので...。」

「あら失礼。シロ、早く見つけてやりなさいよ。私知らないから。」

キイロはそれだけを言い残すと人混みに消えていった。シロはマサヨシに小さい声で謝る。

「悪い。あいつとは仲悪いんだ。俺とアオは一緒に暮らしてたから知ってるんだが...キイロはたまにうちに来てた嫌いな奴だ。」

「嫌いなのにうちにあげてたんですか?」

「あいつは考え無しに勝手にうちに入ってくるんだよ。そういや帽子だったよな。探してるの。」

「あ、はい。帽子です。なんか写真貰ったんですけど少年用ですか?」

「あー、これか。売ってねえだろうな。古いヤツだし。」

煙草の時のようなものだとマサヨシは察した。死んでからというもの勘が冴えている。余計なことを考えなくていいと思うと頭が澄むような感覚がするのだ。何故生きている時にこの感覚を掴めなかったのかと少しばかり後悔した。

「俺なら何となく匂いで場所は分かるんだが。後はお前次第だ。」

シロに言われるが侭ついて行くと古い雑居ビルに辿り着いた。

「探します!」

マサヨシは気合いをいれてビルを見て回るが中々直ぐには見つからない。一時間経つと心が折れそうになる。

「はぁ...ビルが広すぎて。ん?」

埃を被った段ボールを退かすとそこに帽子は合った。そしてその帽子を拾おうと触れた瞬間に声が頭に流れ込む。


『やめろ!俺はこいつらを...』


「マサヨシ!」

「はっ!」

シロが心配そうにマサヨシの顔を覗き込む。マサヨシは誤魔化そうと立ち上がるが手が震えていた。シロは静かにマサヨシに問う。

「お前、見えたのか?」

マサヨシが意味を聞き返そうとするとシロは無理やり言葉を遮った。

「いや!何でもねえや!行こう、この前の墓近いんだ。」


言われた通り歩くと煙草の時に見た墓が合った。もしやお使いで頼まれたものはこの近辺に有るものなのではと思いながら墓の前に行くと景色は見慣れた地獄へと戻った。

「マサヨシ!ありがと!」

「アオ、これを拾った時に声が聞こえた。お前何か知ってるのか。」

「...全部、拾ってくれたら教えてあげる。」

そう言ったアオの目は悲しみを抱いていた。

「アオ...。」

マサヨシは何故かつられて泣きそうになった。

「次もよろしくね!」

その言葉と同時にアオの目からは悲しみが跡形もなく見えなくなっていたのだった。

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受刑代行サービスです。 南雲 @nagu27nagu9

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