七日目 雨ふる火曜日(3)
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ふたりで教室に向かうと、案の定というか、お前らそれ以外にアイディアないの? って感じで夢崎の机に花瓶が飾られていた。
え。なんでふたりで来てるの? まじかよあのふたり。
ひそひそ話が聞こえてきたが無視する。
それよりもこれから始める作戦がうまくいくようにと深呼吸をした。
「あれ友里花、生きていたんだ」
小夜――夢崎の友達……だったはずの大森がニヤニヤしながら夢崎に声をかける。
クラスのカースト上位集団が薄ら笑いを浮かべていた。そしてクラスの多数が自分に矛先が向かないようにびくびくしながら様子をうかがっている。
花瓶にはだるま菊が飾られていた。道ばたで摘んだのだろう。まだつぼみのものも多かった。
「おはよう。私が死ぬわけないじゃん」
にっこりと微笑む夢崎は軽やかに机へ歩を進める。
そして机の前に立つと、キッと目線をカースト上位集団に向けた。
「こういうこと最低だって気づかないかな」
夢崎のにらみに数名がひるんだ瞬間だった。
夢崎は、ガン! と両手で机を思いっきり叩く。
それに合わせて俺は、
『切れろ』
〝能力〟で花瓶を真っ二つに切ってやった。
ゴン、と花瓶が倒れ、机の上は水浸しになる。
クラスは当然、突然割れた花瓶を見て騒然となった。
え、なんでなんで。やばくない、やばくない。そんな声が聞こえてくる。
夢崎と考えた作戦はこうだ。
――私を怒らせたら怖いんだぞ、略してビビらせてやろう作戦。
何を略したのかまったくわからなかったけど、一定の効果があったのだろう、クラスはなぞの怪奇現象におののいている。
「私さ、こういうの大っ嫌いなんだよね。花なんか飾るんじゃねえよ!」
夢崎のガチギレ演技はエスカレートしていく。
そこらにあった椅子をバンと蹴った。がしゃがしゃん、と大きな音を立てながら他の椅子を巻き込んでいく。
一度ビビらせたらこっちの勝ちだった。
夢崎はキレたら手がつけられないヤバいやつだと印象づけられている。
なかなかの役者だなと思った。
『友達? いなくなってもいいよ、中本くんがいるもん』
作戦会議中に口にした言葉を思い出した。
こうやって縁を切ることであえて孤立する。
腫れ物に触れないよう夢崎は扱われる。
それが回避策だとふたりで話した。それしか思いつかなかった。
机をぶん投げそうになっている夢崎に大森がおそるおそる声を掛ける。
「マジでキレないでよ、冗談じゃん」
は?
「昔あったでしょ? 自殺しろってマジでビビらせて冗談でしたーってやつ」
まじなに言ってんの大森のやつ。
冗談でしたーって許されると思ってるの?
何もかも冗談ですませるつもりなのだろうか。俺が切りつけて冗談でしたって笑ったら許してくれるのかな。人の心を切りつけて冗談ですませる女だ。きっと切っても許すのだろう。
「冗談で人のパワーサーフ壊すの?」
夢崎は大森に詰め寄る。
「は? 意味わかんない。それはウチらじゃないって」
白々しい。
「そういうの卑怯だって、だれかが壊したでしょ」
「いややマジでウチらじゃないって!」
俺までキレそうになった。この後に及んで罪を逃れようとする姿は見ていられない。
「っていうかさ、友里花さ」
青木が夢崎に言う。
「なんで中本と仲良くしてんの? マジ意味わかんないんだけど」
「それ、青木くんに関係あるのかな?」
夢崎が怒りのこもった笑顔で青木に返したとき、青木は俺を見下しながら言った。
「同情で友達ごっこしてるなら見てらんねーって話」
は? なに同情って。
お前に口出しされたくねえし。
あたまがカッと熱くなって視界が点滅した。これはあれだ。自分が気にしていたことを人から言われてあたまに血がのぼるやつだ。怒りに手が震える。震える手で青木の首筋に指を重ね念じる。
『切れ』
首をはねそうになって寸前で止まった。止めることができた。けど怒りは収まらない。
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