七日目 雨ふる火曜日(2)

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 それから祖父の小屋で夢崎が落ちつくまで待った。夢崎は体育座りして膝に顔を埋めている。


 雨脚はまだ強くて小屋のトタン屋根を激しく叩いている。


「きょう学校行くのやめるか?」


 ふるふると夢崎はあたまを横に振る。


「平常心じゃいられないだろ。だいじなもんを壊されて……」

「私さ」


 夢崎が顔を上げる。外へ強い目線を送っていた。


「人に死ねって言うの、ホントに嫌いなんだよね」

「口にすべきではない言葉だとは思うよ」

「人が死んだらさ、死んだ人の人生以外にさ、いろんな人の人生を壊しちゃうんだよ」


 雨が海面に落ちていくつもの波紋を広げていた。それをじっと見ながら夢崎の声を聞いた。


「言う方は気軽な二文字かもしれないけど、それこそひと家族分の人生を狂わす覚悟があんのかって思うんだよね」


 それは姉さんが死んだ俺だから痛いほどわかった。


 死は本人のものだけではない。


 関わる人間に広く作用する。望まれぬ死はまるで毒のように広がっていく。


「まるで経験者のように言うんだな」


 そう聞くと夢崎は間を置いてそして鼻をすすって答えた。雨はいちだんと強くなった。


「そうだね」

「溜めて、それだけ?」

「もう、茶化さないでよ」


 夢崎がようやくこっちを見てきた。大きな瞳を細め八重歯が見えるほど口を大きくして笑う。


「きっと、きょうはヤバいよ」

「教科書とかバリバリに破られてるかな」

「たとえば虫を教科書に挟むとか」

「中本くん、教科書交換してよ」

「いやだよ。ってか俺に押しつけんなよ」

「いいじゃーん」

「夢崎って強いんだな……俺ならマジで凹むけど」


 本気で感心していると夢崎は微笑んできた。


「ひとりじゃ無理だよ。味方がいるから」

「ばっ!」


 馬鹿を言うなって言いかけて止める。顔が熱くなっていることを悟られたくなかった。


「ねえ、作戦、考えよっか。きっと私の机に花とか飾ってあるよ」

「そんなマメないじめするかな」

「マメないじめって」


 バシバシと夢崎は笑いながら肩を叩いてくる。


 俺が青木に目をつけられたとき、こんな風にだれかと話そうなんて思ってもみなかった。


「あのね、あのね。中本くんの〝能力〟で――」


 はしゃぎだした夢崎。あのね、あのねといつもよりあのねが多い。夢崎の口癖なのだろうか。この局面をどうやってくぐり抜けるか楽しそうに相談してくる。


 その姿はまぶしくて、頼もしくも思えてくる。


 ――ひとりじゃ無理だよ。味方がいるから。


 その言葉は、ほんとうに俺の方こそ夢崎に言いたい言葉でもあった。


 あれだけ強かった雨脚は、通り雨だったのだろう、小雨に変わっていた。


「行こう」


 握った夢崎の手はあたたかかった。

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