六日目 チョークの匂いと月曜日(4)
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帰り道、祖父のところに寄ると、なんと母親が料理を取りに来たという。病んでからというものもう三年以上外に出ていないのに何が起きたのだろうか……。
怖い。なにが起きているというのだろうか。
戦々恐々としながら家に帰って「ただいま」と言うと返事はなかった。忍び足で廊下を進んでいると、姉さんが『大丈夫だよ』と言った。
台所に行くと、もう母親は夕食を食べていた。白黒に見えるから色味まではわからないけど、母親の血色はいいように思えた。俺の方をチラッと見るだけ見て、また自分の食事に目線を落とした。
いつもの「ああ」とかうめき声を上げないし、「おかえり」とも言わない。ただただ、もくもくとひとりで食事をしている。
「ただいま」
一応、声を掛けてみる。
今度はチラッとも見ずに無視された。
祖父が作った刺身の盛り合わせを真ん中から食べている。食い散らかされた刺身の盛り合わせが俺の夕食になりそうだ。
「いつも端切れから食べてたのになあ……」
そんなことをつぶやきながら部屋に帰って姉さんに聞いてみた。母親がまるで別人と化しているって。
「これってどういうことなの?」
スライム姉さんは目をつむってからだを左右に揺らすだけだった。やっぱり言えないらしい。
スマホを取り出して夢崎にメッセージを送る。
母親の様子を説明してふたりで考えたかった。
「あしたが、七日目か……」
あしたは何が起きるのだろうか。
薫子さんの情報を検索しても目新しい情報は得られなかった。
もしこのまま母親の調子が快復に進むのであれば、俺が死んでも大丈夫なんじゃないだろうか。このまま俺への興味を失ったようならなおさら大丈夫なんじゃないだろうか。
夢崎からメッセージが返ってきた。
「あ、そうか。次は夢崎が悲しむか……」
もしかすると悲しむとか自意識過剰なだけかもしれないけれど、きっと夢崎は泣くんだろうなと思った。
「少しでも、あがきたいな」
そう思ってしまった。
薫子さんが失敗している手前、可能性があるかわからない。が、俺ができることは一縷の望みを掛けて、この〝能力〟のなぞを解くしかないのだ。
ゆりか【興味を失っているって感じなんだよね?】
かずや【返事もろくになかったからな。ひとりでメシ食ってるし】
ゆりか【空気って感じなの?】
かずや【いや存在は認知しているんだけど、ホント他人って感じ】
ゆりか【そいつは俺の子じゃない!】
かずや【認知してくれるって言ったじゃない! ってなんだよ】
ゆりか【w】
ふたりで何か見つかりそうになっていたときだった。
別グループのメッセージ通知数がどんどん増えていく。
嫌な予感がした。
ふたりでメッセージを送り合っているときに違和感はあった。
夢崎の返信は尋常じゃなく早い。なにそれ自動応答なのってくらい早い。
しかし、きょうはひとつの返信に数秒、長いときには数分かかることもあった。
おそるおそるグループLINE(つの高一年一組)を開くと最悪なことが起きていた。
夢崎を断罪する会話が繰り広げられていた。
ゆりか【ちょっとやめてよ~】
ゆりか【そんなんじゃないって】
ゆりか【そろそろ怒るよ】
夢崎は必死に止めようとしていた。しかし激流のような悪意はせき止めることはできそうになかった。
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