四日目 ハイカロリーな土曜日(4)
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あんなことがあった直後に初瀬さんから自宅に案内すると言われたとき、再び警戒がピークに達した。いつでも刻んでやる、そう思いながら睨むように初瀬さんを見ていたんだと思う。
自宅に招き、「なにかあったの?」という言葉と、あたたかい飲み物を出してくれた初瀬さんの言葉に少しほっとして、さきほどの事件を説明した。
「そうやったんやね……それはたいへんやったね」
初瀬さんは目を丸くしていた。
初瀬さんはひとり暮らしをしているようで、ひと悶着あったような俺たちの様子を見て、家に案内してくれたそうだ。察しのよい初瀬さんは、倒れたりして汚れていた衣類を洗濯までしてくれた。このころには警戒はすでに解けていた。
次は初瀬さんのことを聞く番になった。
中学生の可能性もあると思っていた初瀬さんは、意外にも大学生だった。何度も聞き返した俺たちに、初瀬さんは学生証を見せてくれた。ここから近所にある公立大学の一年生。あたまいいじゃん……ってなった。
「あらためて聞きますけど、初瀬さんは彩失症候群――〝能力〟が使えるってことでいいんですよね?」
そうよー、と初瀬さんは軽い感じで答えて、キッチンで淹れたお茶をベッド横のテーブルに置いてくれた。何のお茶かは色味ではわからない。啜ってみると紅茶だった。
「あの、初瀬さんは人に向けて〝能力〟を使ったことってありますか?」
「薫子でよかよ」
紅茶のカップを置いて俺に笑顔を向ける初瀬さん。
「薫子さん、ですか?」
「えー。私、中本くんに名前呼びされたことないのに」
むくれる夢崎を見て薫子さんは笑う。
「よかよか。初々しくて。ウチは、まあいろいろあって、名字が三つあるんよ。だから名字で呼ばれるとアイデンティティを感じないんよね」
あけっぴろげな人だなあと思うが、それが薫子さんのキャラだと納得してしまった。
ショートカットに大きめのTシャツに短パンと、薫子さんはこどもっぽくも見える格好だし、大学生と聞いた今は大人っぽくもみえなくもない。
「中本くん、オルコさんのことじろじろ見過ぎ」
「見てないし」
脇腹をつんとつつかれた。
「くすぐったいからやめろ」
「あはは。イチャイチャせんとよ。独り身の私がさみしくなるやん」
――そういえば〝能力〟を人に使ったことはあるか、やったね。
そう薫子さんは切り出した。
「あるよ」
ストレートに薫子さんは告げる。
こんな人知の超えた力を、易々と、人に向けたことがある、と薫子さんは言ったのだ。
ごくりと生唾を飲んで聞いた。
「ちなみに、薫子さんの〝能力〟ってなんなんですか?」
発火とか、電流とか、物を撃ち出すとか、殺傷能力が高い能力だったらどうしよう、そんなことを考えた瞬間、薫子さんは答えた。
「ウチの能力は、見えない糸を飛ばす力。こう、手首から、シューって出るんよ」
「スパイダーマンじゃないっすか」
「スパイダーマン言うなし!」
「いや、シューって自分で言ったら確定でしょ」
「スパイダーマン言うなし!」
薫子さんはテーブルをガンガン叩いて、スパイダーマンを否定する。
すると夢崎が、
「その糸って、人の首とか締めたり、切ったりできるんですか?」
とスパイダーマンから必殺仕事人の可能性を探り出した。
「いやそこまで強度がある糸やないけ」
「今、その糸、出せますか?」
「見てて」
薫子さんは手では届かないところにあるリモコンに手首を向けて、「シュー」と息を吐いた。
すると、薫子さんの手首から糸の束が見えて、リモコンを捉えたと思ったら、薫子さんのところに引き寄せられていった。
「めちゃめちゃスパイダーマンっすね」
「はぁ……もうスパイダーマンでいい」
薫子さんは嘆息してテレビのチャンネルを変える。
「私には空中を飛んでるようにしか見えなかったけど……」と夢崎。
「俺には糸が見えましたよ」
「うそ!」
薫子さんがテーブル越しに顔を近づけてきた。近い近い。
「それは新しい発見やね!」
薫子さんはノートに、「能力者同士であれば糸が見える」とメモを書き出した。
「オルコさん」
「ん?」
夢崎が本題に入った。
「〝能力〟には隠された力があるって。アレ、教えて欲しいんですけど」
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