三日目 星降る夜と金曜日(3)
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夢崎の話を要約すると、〝能力〟には本当の力があって、その力に目覚めるかが、死を迎える運命を変える鍵となるらしい。
「夢崎はなんでそんなに〝能力〟に詳しいんだ? それもさっきの人にDMで聞いたのか?」
「まあ、それだけじゃないんだけどね」
そう言いながら夢崎は、窓から見える枝を指して陽気な声を出した。
「ねえ、あれ切ってみてよ」
俺はその場から枝の根元に指を重ね、『切れろ』と念じながらスライドさせると、枝はバサッと落ちた。
「すごい……本当に〝能力〟が使えるんじゃん」
「……疑っていたのかよ」
「そういう訳じゃないよ。半信半疑だったっていうか」
「そういうのを疑っているっていうんだよ」
唇を突き出して下手くそな口笛で誤魔化そうとする夢崎である。結局、口笛は吹けなかった。
私ね、と夢崎は落ちついたトーンでこんなことを言い出した。
「昔、〝能力〟が使える人に会ったことがあるの」
唐突なカミングアウトに驚いてしまう。しかし、よくよく考えてみると、先ほど無視された質問に答えようとしてくれていることはなんとなくわかった。
「正確にはお兄ちゃんが会ったことある、だけど。その人に命を救ってもらったんだ」
「お兄ちゃんの命の恩人に興味が湧いて、いろいろ調べたと? だから〝能力〟について詳しいんだ」
こくん、と夢崎はうなずいた。夢崎の表情には陰りがあった。
「どうした?」
「中本くん、引かない?」
「〝能力〟に関して調べたことか? そんなことなら」
「いや……そうじゃなくって。兄のこと」
? 兄のこと、と言った夢崎から、その後の言葉はなかった。
なにか俺に言いにくいことでもあるのだろうか。夢崎がここまで言葉に詰まることはめずらしいと感じた。
「あとで見てもらおうかな」
夢崎は無理に笑って〝能力〟に関して知りうる限りのことを教えくれた。
〝能力〟は七日で死ぬ運命のこどもに与えるラストチャンスのようなものらしい。〝能力〟には本来の力があり、その力に気づけるか気づけないかが、生き残る鍵となるそうだ。
「私が調べた限りのことだから、不確かなことかもしれないけど」
「いや、ここまで知っている人が協力してくれてありがたい」
世話になるばかりだと不公平だと思って、俺にできることがあったら言ってみたいなことを言うと、夢崎は「じゃあ協力してもらおうかな」と俺を庭先に連れ出した。
「ねえ、あそこ、切ってよ」
夢崎家の庭には、ひとつのプレハブでできた小屋があった。プレハブと言っても、室外機がついていて、テレビのアンテナも設置されていて、電気が送られているようにも見えた。あきらかにだれか住んでいる。
「ここは?」
「ここまで来て躊躇するのも違うと思うんだけど……引かないでね」
夢崎はそう言ってうつむく。
「恥ずかしい話だけど、うちのお兄ちゃん、引きこもりなの」
すっと冷めた目をして夢崎はプレハブをじっと見ている。
くっそ! こんなのチートだろ! 殺すぞ!
プレハブから野太い声がした。ドンドン、と壁を叩く音がする。
なるほど。
――中本くん、引かない?
さっきから様子がおかしかったことは、これだったのか。
身内が引きこもって学校にもいかない。そんな身内がいることを恥ずかしいと思っている。恥ずかしいけど、俺の〝能力〟でどうにかできる、もしくは事態を進展させられる、そんなことを考えて、恥を忍んで俺をこのプレハブに連れてきたのか。
俺は言葉を選んだ。
「なかなかアグレッシブなお兄ちゃんだね」
演技として笑ってみせる。
すると夢崎は目を見開いて、そして腹を抱えて笑った。
「やさしいんだね、中本くん。うん。君はいい人だ」
「やめろ」
「恥ずかしがらなくていいじゃん」
夢崎はニヤニヤし続ける。
「引かないでね、って言われたから、引かないだけだよ」
そう口にしてみると、顔から火が出そうになった。俺が夢崎のために言葉を選んだみたいじゃないか。……実際、言葉を選んだのだが。
夢崎は「ありがと」と言って、そしてシニカルに嘆息した。
「きっとゲームで負けたんだよ。家族として恥ずかしい限りだよ」
「まあ、どんまい」
「すごいね。これをどんまいって」
「俺んちにはこれよりすごいのがいるから」
気にするな、と言えばよかった。しかし気にしていることを他人から気にするなと言われることはけっこうムカつく、だから俺は自虐的な母親ネタで笑ってみることにした。
結果は、夢崎は顔を引きつらせて「ごめん」って言った。
「引かれると困るんだけど」
「いや、ごめん……」
姉さんは『あーあ』とかあたまの上から俺を責めてくる。いや俺が悪いんじゃないし。
「で、どこを切れって?」
夢崎に聞くと、夢崎は「あ、ああ」と指をさした。
そこは、プレハブに引いている電線だった。
「さすがに自分で切ろうとすると感電しちゃうからさ」
そう言って夢崎はニッと笑った。
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