「エピローグ:あなたに会えた」
翌日起きてみたら新しく事件が起こっていた──ということもなく、到着した地元の警察に千崎を引き渡して、俺たちの事件は終わった。
千崎は逮捕され連行され、俺たちは警察が手配してくれたらしい船に乗り込んだ。
俺は甲板を避けて船内の壁に背中をあずけてたたずんでいたところを、ニーナに話しかけられる。
「浮かない顔をしてるのね。あなたの活躍でおじい様の仇が捕まったのに、何だか落ち込んでるみたい」
「ごめん」
気をつかわなきゃいけない相手に心配されてしまったのは不覚だ。
「事件を解決できても未然に防ぐことはできない。探偵の限界だなと思ってな」
解決したところでニーナが家族を失ったことに変わりはない。
「……そんな完璧を求めなくてもいいじゃない。自分を責めないで。少なくともあたしは感謝してるんだから」
とニーナはちょっと怒った顔でにらんでくる。
「そうか」
彼女らしいかもしれないと思い、俺は表情をとりつくろう。
「光彦は何だか自分の仕事が好きじゃないみたい」
とニーナはずばり俺の本心を言い当てる。
……もしかして俺、わかりやすいのか?
「好きじゃないよ」
バレてるなら仕方がないと即答した。
「探偵なんていいことばかりじゃない。むしろいやなことのほうが多いしね」
と肩をすくめる。
「じゃあどうして探偵をやっているの?」
「他に取り柄がないからだ」
次の彼女の質問にも即答した。
何でもできる千歳と違い、俺は生計を立てる手段が他にない。
「でもおかげであたしはあなたと会えたわ」
とニーナは言ってまたじっとこっちを見てくる。
「……素晴らしいことじゃない?」
「そうだな」
彼女の期待に応えられたらしく、彼女は目を輝かせた。
「おじい様の件は悲しいし忘れられないけど、あなたのおかげで区切りをつけて歩いて行けそう。これも素敵なことだと思うの」
「……だといいんだけど」
ニーナが今後の人生で前を向いて歩く助けになれたのならうれしい。
「もう、フォローのし甲斐がないわね」
とニーナは言うとそっとつま先立ちをして、俺の頬にキスをする。
「特別♡ 初めてなんだから、感謝してよね」
なんて言った彼女は真っ赤になっているけど、たぶん俺も同じだろう。
「じゃあね」
ニーナは近くにひかえている静江さんの手を取って逃げるように立ち去る。
「……たまにはいいこともあるんだな」
と俺はつぶやいた。
「可愛い女の子にキスされることですか?」
近くで待機していた千歳が微笑みながら訊いてくる。
からかわれているのはわかってるので、ムキになったりしない。
「誰かが歩き出すためのきっかけを作れたことだよ。おかげで探偵業も捨てたもんじゃないなと思えた」
だからまだ探偵業をやめる気にはなれなかった。
「ニーナ、これからどうするんだろうな」
本当はそれとなく訊きたかったんだけど、訊けるような空気じゃなくなってしまったからな。
「何ならそれとなく静江さんに訊いてみましょうか。連絡先を交換しておいたので」
と言って彼女はスマホをちらつかせる。
「いつの間に」
千歳の抜かりのなさはさすがだけど、いつも驚かされる。
「この程度はできないと光彦さんの助手ではいられませんから」
「そんなことないと思うけどなぁ」
むしろハイスペックすぎる助手だと思う。
「戻ったらしばらくはのんびりしたいな」
慰安旅行の予定が吹っ飛んで少しもリフレッシュできなかったのだ。
「残念ながら次の依頼が来ているようです」
千歳はなぐさめるように微笑する。
「なら仕方ない」
助けを求める人がいるなら、可能なかぎりは応えたい。
休みはひとまず諦めるとしよう。
バイト探偵の異能無双 相野仁 @AINO-JIN
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