第5話

時々あらぬ方向を見てはため息を吐く。

周りの社員達は、

愛する夫に先立たれたショックは相当だと思っている。


彼女の心は、

虚無の旅人、

それだけである。


そんな彼女を見て、

いつか電子書籍を紹介した同僚が声を掛ける。


同僚が何かしらと尋ねてみると、

結構好きな作家を見つけたと彼女が答える。


どこが素敵なのかと尋ねられると、

まとまりの無い文章の中に、

言葉では伝え切れない思いが溢れていると答える。


ならば応援すればいい、

応援などするとコメントを送ることができる、

と同僚が教えてくれる。


会員登録もしていないのにメッセージなどが送れるのか!

目から鱗が落ちた様な思いだった。


仕事から帰って着替えを済ませ、

軽くシャワーを浴びてから、

昨日作った残りのホワイトシチューを温め直し、

シチューとフランスパンで食事を済ませ、

スマホを開くと虚無の旅人へ移動する。


伝え切れない溢れるばかりの愛、

その散文詩を目の前にして、

伝え切れない思いを言葉にしてメッセージの送信を試みる。

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