第14話 マスターランク前のサンタクロース
サンタクロースは、一人では戦えない。サンタを志したものは、まず基本としてそう叩き込まれる。
サンタクロースは、よほどの例外を除いてチームを組んで活動するものだ。
チームの内容はそれぞれだが、最低でもトナカイのエンジニアであるコンポーザーと、メカニックであるチューナーの二名はつく。
場合によっては、そこにチーム専門のプレゼンターがつき、複数名のサンタクロースがチームに所属する。
そして、サンタクロースのチームは、クリスマスツリーとは別に、それぞれ活動の拠点となるオフィスを持っている。
クリスマスツリーとは独立したこの拠点のことを、チムニー、もしくはチムニー・オフィスなんて言う。
チムニー、つまりは煙突という言葉から、サンタの間ではこの拠点のことを『煙突』と呼び、チームを組んだサンタクロースは、クリスマスツリーとの繋ぎに使う。
クリスマスツリーは、トナカイの管理やサンタクロースに発注される依頼の管理を行う拠点だが、サンタクロース個々人の管理までを行なっている訳ではない。
また、サンタクロース自体もブラックサンタやホワイトサンタなど、その受注する仕事の種類に応じて複数の種類に分かれている。
言ってみれば、警察と消防隊と軍隊と土建屋と医者が、それぞれ同じ道具を使っているようなものだと言えば良いか。
当然ながら、そこまでバラバラな種類の職業を同じルールで、同じ場所で運営する訳にはいかない。
そこで、サンタクロースの総本山であるノースポールという組織は、クリスマスツリーと言う拠点を作り、そこでサンタの道具と依頼を管理し、各種サンタクロースの拠点は自由に設定できると言う体制をとった。
あえて言うなら、ナーロッパで言うところの冒険者ギルドがクリスマスツリー、冒険者のパーティがサンタクロースのチーム、そして各種パーティが拠点にしている宿がチムニー・オフィスってところだ。
さて、俺が今回ここまで長々とサンタクロース関連の物事について解説したのは理由がある。
多くのサンタクロースの例に漏れず、俺自身もサンタクロースのチームを作っている。
それが!チームEON!
トナカイの整備と修復を担当するチューナーのアリアと、トナカイの運用と性能調整を担当するカノンと、依頼の受注と獲得報酬をはじめとする諸々の交渉を担当するプレゼンターのエリーゼ。
そこにこの俺、ブラックサンタのマスターランクであるゾス・クリストロウの四人で構成されるチームだったが、ここに本日新たなチームメイトが加わることになった。
その名も、シャンドルール・ディオス。
それが、アレアレクレクレのガラガラくんと揉めていた少年の名前だった。
こうして改めて立ち会うと、ついさっきチームメンバーというのは、少し印象が違うな。
歳の頃は、十七、八歳ってところか。見てくれは黒髪に童顔だが、顔立ちは随分と美しい。涼やかな目元と怜悧な目鼻立ちと相まって、声を聴かなければ男か女か区別できないほどだ。
タッパに関しちゃ男にしては低く、全体的に華奢で線が細く見えるのも、外見の女性的な印象に拍車をかける。
ただ、さっき腕やら首やらを触った感じ、筋肉がないわけではなく、華奢って言うよりも、どうやら身体を絞っているって感じだろうな。実際にはかなり動けるんだろうな。
イジメられていた時には単に可哀想な逸れものって感じだったが、今こうして向き合っていると、薄幸の美少年って感じがするな。けっ!!
俺はそんな少年を前にして、最後のビーフジャーキーを噛み締めながら言った。
「なんか、覚えにくい名前だな。ジャンバラヤ・チーズで良くね?」
「良くないですよ!!人の名前を美味しそうな料理にしないでください!」
ほうほう。俺にツッコミを入れるとは、良い度胸だ。ご褒美に俺が食い尽くしたおやつのゴミを捨ててくる権利をやろう。
そう言って俺がビニール袋にまとめたゴミを投げつけると、ジャンバラヤ・チーズは嫌な顔をしながらもそのゴミ袋を大人しくゴミ箱に捨てに行った。
良い子じゃないか、ジャンバラヤ・チーズくん。君とは喧嘩もせずに上手くやれそうだよ。
「……なんて言うか、ゾスさんって、色々と最低ですよね」
「っんだ、コラぁ!!喧嘩売ってんだったら買ってやるよ!!表出ろやぁっ!!」
俺が思わず声を荒らげると、俺の後頭部にエリーゼがゴム弾を撃ち抜いた。
咄嗟に俺が怒鳴り声を上げると、エリーゼは俺に銃口を向けたまま無愛想な表情で眉尻を上げた。
「何すんだコラァ!!人にやって良いことと悪いことってあんだろうがっ!!」
「うるさいです。ただでさえバカのくせに、目下の人間ができるとなおさら頭悪くなるその性格を直してから言ってください」
そう言いながらも、エリーゼは俺にゴム弾を何度も撃ち込んでくる。お前!マジでやめろよ、それは!!
俺が本気でキレると、エリーゼは肩をすくめながら手にした銃をいい加減にしまった。
「そうですね。いい加減にディオス君の話を聞くべきですね。失礼しました」
「ふざけてんじゃねぇぞ!!テメェ、俺を害獣かなんかだと思ってんのか?!」
余りにも横暴なエリーゼにが怒りの声を上げると、エリーゼは不思議そうに小首を傾げながら言った。
「すぐに暴力に訴えかけるほど激情するのは、人間と呼びません。狂犬と言います。もしくは猿です。犬や猿を躾ようと思えば、ある程度は暴力は必要でしょう?」
「おい聞いたか?!チーズ君!!俺の上司こんな奴なんだけど!?ひどくない!?」
「僕はチーズじゃありません!急って言うか、に僕に話振らないでくださいよ!!大体、さっきまで喧嘩売ってた相手に助けを求めるのは、どうなんですか?!」
「はあ?!さっき喧嘩売ってんのはテメェの方だろうが!?喧嘩売ってんのかオメエ!!」
「ぎゃあ?!助けてください!!話通じないよ!!なんなんだよこの人!!!」
チーズ君が悲鳴を上げると同時に、俺の視界の端でエリーゼが再びゴム弾入りの銃を手にしたのが見えた。
チッ!今日はこのくらいにしてやらぁあ!!今日から夜道には気をつけるこったなぁ!!
まぁ、そろそろ本題に移ろうか。
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それゆけ、サンタクロース 嶺上 三元 @heven-and-heart00
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