第13話 姫騎士の語り部(プリンセス・テラー)


「とりあえず、落ち着いたようなので、まずは自己紹介をしておきましょう。私はサンタクロースチーム「Eonイオン」にて、プレゼンターを務めているベルガー・エリーゼです。以後のこの問題に関しては私が責任を持ちます」


 そう言うと、エリーゼはガラガラくんに向けて、ホログラムでできた名刺を空中に呼び出した。

 すると、今まで不服そうな顔をしていたガラガラくんは、名刺を見るなり目の色をを変えて俺を睨みつけた。


「イオン……?ってことはまさか?!アンタは、姫騎士の語り部プリンセス・テラーのゾスか?!」


「そのあだ名、やめてくれねぇかなぁ。まるで俺がスケコマシか、女たらしみたいじゃねぇか」


 俺の名前を知った途端に目の色を変えたガラガラくんに、俺は思わず嘆息した。

 いやまあ、確かにいつも冗談半分に俺は愛機を姫様呼びしてるがよ。かと言って、そこまで言われるほど、特別愛着を持っている訳ではねぇんだよ、アレ。

 そんな俺の内心を知るわけもなく、ガラガラくんは


「……こうしてみると、二人ともプリンセスって柄じゃねえな。なんでそんなファンシーなあだ名つけられてるんだよ?」


「いや、ガラガラくんよぉ。そりゃお前に言われた義理じゃねえだろ。テメェみたいに顔立ち整って、金髪キラキラさせて、身長高くて、マスターランクなんて言う結構高い地位にあるヤツなんてよ……。お前みたいな完璧超人はクソ漏らしてくたばればいいと思う」


「急に罵倒された!?いや、アンタの方こそ腹立つな本当によ?!」


 言ってて悲しくなってくる。なんでお前がプリンセスなんちゃらじゃねえんだよ!!

 畜生が?!つーか、なんで俺わざわざイケメンが起こした問題に首つっこんでんだよ。


「そもそもガラガラって誰だよ!俺の名前はエースだ。ガロリオ・エース!これでもマスターランクの大達人アデプタス・メジャーの位に就いているんだよ!!」


 はぁ?!大達人アデプタス・メジャーだと?こいつが?!

 ふざけやがって、仕事ができるイケメンとか、全男子の敵じゃねえか!!

 あーあ。なんでさっきエリーゼは、こいつの頭に銃弾ぶち込まなかったんだよ。こいつをやっても俺が無罪を証言したのによ。

 そんな俺の文句を聞いて、エリーゼは心底呆れ返った目で俺を見返すと、やれやれと言わんばかりに肩をすくめて、ガラガラくんに向き直った。

 そして。


「そう言うわけで、よろしいですね?そこの少年は暫く、私たちの方で預かります。この件は後日改めてこちらから連絡いたします。では、その時まで」


 出し抜けに、さっきまでガラガラくんに責められていた少年の方を向き直って、そう言った。

 その言葉に、一瞬その場の空気が何言ってんだ、こいつ?と言わんばかりの白けたものになったが、俺はそのガキの首根っこを引っ掴んでその場を立ち去ろうとした。

 すると、そのガキは咄嗟に俺の手を振り払って、顔の前で手を振った。


「ま、待ってください!!僕は別に、その!!」


「いいから行くぞ、ガキ。事情は後で聞いてやる。とにかく今は、お前を連れてここから消えるのが俺の仕事だ」


 めんどくさいがそう言う事だ。俺はそのガキの手を取って、その場を立ち去ろうとした。

 すると。


「待てよ。そいつ勝手に連れていくな」


 ガラガラくんが、少年を連れて行こうとする俺の腕を掴んで、俺の行動を引き止めた。 

 俺の腕を掴む力は随分と力強く、中々に鍛え上げられていることが見てとれた。

 そんなガラガラくんの腕を振り払い、俺はため息と共に呆れた表情を浮かべた。


「ガラガラくんよぉ。さっきはお前さん、このガキのことを追っ払おうとしてたじゃねえか。じゃあ、わざわざこいつの去就を気にしてもしょうがねぇだろ。追い払おうとする相手にかける時間ほど、無駄なものはねぇぞ?」


「ガロリオだ。それはそれ、これはこれだ。こいつには、ウチのチームにかけた迷惑を償ってもらって、サンタクロースを引退してもらう。っつー、ケジメつけてもらわなきゃならねぇんだ。それを差し置いて、勝手に横槍入れてんじゃねえ」


 どうやら、ガラガラくんはあくまでも自分の手で、この少年にケジメをつけさせたいらしい。

 だが、悪いがそう言う話なら、むしろこっちの方に分があるんだわ。


「そうかい。じゃあ、なおさら俺らに任せた方が良いな」


 俺の返しに怪訝な表情を浮かべたガラガラくんに対して、俺はエリーゼを顎でしゃくって示した。

 本当はこんなこと言うのあんまり好きじゃないんだけどな。


「ウチのプレゼンター様は、エックスライセンスを取得している。……マスターランクのお前なら、この意味分かるだろう?」


 その言葉に、ガラガラくんだけでなく、ガラガラくんのチームメイトや、今俺に首根っこを抑えられている少年も目を見開いて驚いた。

 それはそうだろうな。そんだけ強力な代物だからな。


 エックスライセンス。正式名称を処刑執行人免状エグゼキューショーナー・ライセンス

 なんでそんな物騒な名前をしているかと言えば、この免状を持っている人間は、

 はっ。処刑とは随分と言い得て妙な名前だと思うよ。この命名をした奴は、随分とセンスのある奴だぜ。

 正直、なんでこんなイカれた女に、こんなヤバい権限を付与しているか分からないが、こう言う時には使えるから便利だ。


「お前の言う通りにこのガキがクソなら、二度と人間社会を出歩けねぇようにする。安心しろよ。二度とサンタだなんて言葉を口にできねぇくらい、キツいお仕置き喰らわせてやるから。場合によっちゃぁ、二度と出られない監獄にぶち込むことも可能だ。お前にしてみりゃ、願ったり叶ったりだろう?」


「……イカれた連中だな。とにかく、何がなんでもそいつをお前らに渡すわけにはいかない。いいから、お前らは帰れよ!」


「おいおい。連中じゃないだろ??イカれているのは、エリーゼだけだ。何で俺も入れた」


 流石にイライラして来たな。もうどうでもいいや。とりあえず、目の前のイケメンを病院送りにしてから、後のことは考えよう。

 引っ込む気のないガラガラくんを相手に、いい加減に相手をするのも疲れた時だった。


「ゾスさん。それ以上は余計な口を叩かないでください。私の権限を使えば、今あなたが口にした全ての事柄を、あなた自身に行うことができるんですよ?」


 エリーゼのその言葉が、俺とガラガラくんの頭を急速に冷やした。

 これは、その言葉通りに俺自身を好きに処分することができると言う意味であり、同時に同じことを、ガラガラくんにもすることができると言う脅しでもある。


 まあ、つまりは最後通牒だ。これ以上は、どっちに取っても、意味も、価値もない。

 エリーゼのその言葉に、俺は舌打ちとともに握りかけた拳を開き、ガラガラくんも「覚えてろよ」と言う、安い捨て台詞を残してその場を立ち去った。





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