ポンコツ女子高生大俵結衣の食い倒れ日誌

絶対に怯ませたいトゲキッス

第1話豚骨ラーメン


大俵結衣は土曜日のお昼時に疲れた風貌のサラリーマンと混ざって、とんこつラーメン屋の行列に並んでいた。騒がしい繁華街のはずれにある、少し寂れた風貌の、前々から味が好きで通っていた店だったが、どうやらどこからの誰かさんの有名なブログに乗ってしまい以前より混雑しているようだった。だが、幸運にも結衣はこの時間が何よりも好きである。香ばしい匂いを嗅ぎながらメニューを見て、自分のために運ばれてくる料理を想像する。幸せな時間ではないか。混雑をしているときに、文句を言ったりする自称食通もいるようだが、そんな奴は家で自分のまずい飯でも食っていればいいと結衣は思う。

「うひゃー。もう20分も待ったのに、全然進んでなーい。あと何分待てばいいのー。」

で、そういうやつが隣にいるわけだが。

「だーかーらー!!!!!!それが嫌なら、家で食ってろっつーの!!!!!」

つい、声を荒げてしまった。周りの視線がこちらに集まってくるのを感じる。

こほん、と咳払いをした。

「と、とにかく。この時間も、慣れれば楽しいから。」

「わかった、わかった。さすが結衣ね。こだわりが違うわ。こだわりが。」

いつもは一人で来るのだが、今回はなぜだが友達がついてくることになってしまった。

「でも、すっごい並ぶよっていったよね?」

友達ー杉浦茜はそれに対して不満そうに反論する。

「すっごいって言ったって、まあ40分ぐらいかなあって思うじゃない?このままのペースだったら優に一時間は並ぶわよ!!!」

う。何も反論できない。正直、私もこれだけ並ぶとは思わなかった。いつもの土曜日のお昼時も、今回よりは空いている。

大体、何でついてきたんだろう。どう考えても、華の女子高生に脂たっぷり、ニンニクがっぷりのとんこつラーメンは似合わないのに。ほら、また周りの人からちらり、と見られた。

「うーん、夢のとんこつラーメンまであと一歩なんだけどなあ。あと一歩が長い。」

茜はそういい、彼女の大きな胸を張って伸びをした。

「夢の?」

「そう夢の。」

小さくうなずいた。

「私、こう見えてお嬢様、とまではいかないけどかなり厳しい家で生まれたのよね。だから、なかなかこういうものを食べる機会がなくて。」

確かに、こう見えて、だ。まったくそういう雰囲気がない。

「あ、今そういう雰囲気ないなーって思ったね。心の声が聞こえたわよ。」

聞こえてたか。其れでわかった。だから、とんこつラーメンを食べに行く、といったときにやけに一緒に行きたがったのか。

「こういう店って、女子高生一人では入りにくいでしょ?」

私はいつもそうだけれど。なんの引け目も感じないぞ。

「だから、だれかと行きたかったんだけど誰も行きたいって人がいなかったから。」

「あーなるほど。じゃあ、もしかして普通のとんこつラーメンも食べたことはない?」

茜は、その言葉に不思議そうに頭を傾げて衝撃的な言葉をはいた。

「普通の?というのがなにをあらわしているのかわかんないけど、とんこつラーメン自体は一回も食べたことはないわよ。」

その言葉が出てきた時点で、結衣は頭を抱えた。隣の男子高生も信じられないといったような目でこちらを見つめてくる。

「あれ、なんか悪いこと言っちゃった?」

出た言葉を押し戻すかのように口に手を当てている。いや、もう遅いな。さて、どうしようか。とんこつラーメン初心者にこの店のラーメンは重すぎる。とんこつラーメン上級者であった状態の過去の私でさえも吐きそうになったくらいなのだから。この体験で彼女がとんこつラーメンを嫌いになるのはあまりにもったいない。

「いい!!!!絶対に、ニンニク脂少なめで、っていうのよ。」

少なめでも十分大変な量があるが、普通よりはましだろう。

「あぶらにんにくすくなめ?それが結衣のおすすめなの?」

見知らぬ外国語を聞いた時のように、結衣は首をひねって言葉を繰り返した。おすすめはやっぱり脂ニンニクマシマシなのだが、まあまず食えない。

「うん、絶対そういってね。」


脂汗がハンカチに滲んできて喉もからからに乾いてきたころ、店の最前列が私たちに回ってきた。

「次の二名のお客様ー。お入りくださーい。」

一応もう一回確認しておこう。

「いい!!?ニンニク脂少なめだからね。注文の時に絶対言うんだよ!!!」

「わかってる、わかってる。」

つんと鼻につく、脂と肉のにおい。冷房と換気扇がとにかく猛スピードで回っているはずなのに、暑い店内。こんなに暑いにもかかわらず、視界にラーメンしか入っておらず、一心不乱にラーメンをすする客たち。ああ、ここが私の聖地だ!!!そういってしまいそうだ。

「お客さん、注文は?」

もはや顔馴染みである、タオルを鉢巻にしてまいた太った店主がにかっと笑った。

「とんこつラーメンニンニク脂マシマシで。」

周りの客が、ぎょっと私に視線を集めるのを感じた。同時に店主も持っていた鍋を落としそうになった。

その視線を気にしないようにして、怠慢な動作で椅子に座る。

やはり、ニンニクアブラマシマシを食べてこそ、この店のラーメンを食べたと言えるのではないか。そう思った私はそのために、私は月に2回足繁くここに通った。そして、今。今日なら行けると判断したのだ。すべては、今この時のために。

「隣のお客さんは?」

「えっーと、豚骨ラーメンの。ニンニクアブラ?少なめで。」

茜は私の言った通りの注文をしてくれたようだ。だけど、

「ねえねえ、なんで結衣はニンニクアブラマシマシなの?一番多いんだよ?」

と、怪訝な顔で聞いてきた。

「私は食べれるからいいの。」

多分。初めてだけど。

「じゃあ、私もそっち食べればよかった。」

この店のとんこつラーメンを舐めないでほしい。



「「いただきます!」」

小10分ほど配膳を待った後、ついに待望の豚骨ラーメンがはこばれてきた。さて、さっきまでごにょごにょ言っていたやつは実物を見てもうすっかり静かにしているので放っておくことにして。目の前のラーメン、いやもはや一般的なラーメンとは明らかに並外れた、新種の食べ物と形容しても良いその物体は異様なにおいを周囲に解き放っていた。

「こ、これがとんこつラーメンニンニク脂マシマシ。」

ニンニク脂普通などとはくらべものにならない存在感を周囲に放っている。私は、こいつを食えるだろうか?いや、食わなくてはならない。そのために今日は来たのだから。

すーっと、脂が多いとんこつスープにレンゲを入れた。ゆっくりとレンゲを口に近づける。

「!!!!!」

おいしい。濃厚な味がさらにパワーアップしている。これだけでも、わざわざ脂とニンニクをマシマシにした意義があるというものだ。

次に食べる順番は麺だろう。スープに絡みやすいと言われているストレート麺。その細い麺は、素早く食べないとスープを吸ってしまう。そばにいた野菜を一緒に絡めとり、麺を自分の口元へと運ぶ。

ふむ。ことのほか、スープの味が野菜に強く染み込んでいる気がする。早く食べなくては悲惨な状態になりそうだ。

「ごほっ、ごほっ。」

隣の茜は早速むせていた。どうやら、張り切りすぎたらしい。水スペースから水を持ってくる。

「ラーメン食べながら、適当に水も飲まないと気持ち悪くなっちゃうよ。飲み過ぎも気持ち悪くなるけど。」

「あ、ありがとう。できれば、先に言って欲しかったけど。」

茜は水を少し飲んで、落ち着いたようだった。

さて、私も食べなければ。

豚骨ラーメンはいまだ、半分ほどしか食べていなかった。

柔らかいということで有名なこの店のチャーシューは相変わらずうまかったが、なんせ腹にたまる。私の胃に45のダメージ。

お嬢ちゃん、それでおしまいかい?とでも言いたげな視線がいったん箸をおいた瞬間に襲ってくる。うるさい、水を飲むだけだ。

「ふー。」

ニンニク脂マシマシ。それを私はなめていたといわざるをえない。ほぼ二分の一だけで私の胃は瀕死のダメージを負っている。かくなるうえは、、、


「「ごちそうさまでした・・・」」

結衣はお腹が膨れてかすれ声だ。ラーメンのどんぶりはどちらも空っぽだが、結衣は悔しさを覚えていた。

「おいしかったねー。」

茜はとんこつラーメンを食べても意外とケロッとしている。本当に初めてなのだろうか?私は茜の胃袋が怖いよ。

「う、うん。」

「途中で麺とチャーシュー分けてもらってありがとうね。」

「うん。」

私はあれを食べ終わったあとすぐに私の手が止まってるのを見て、分けてほしいといった茜の顔が思い浮かんだ。

「また、おいしい店一緒に行こうね。」

「う、うん。」

茜ならなんでも食えそうなんですよね。というか、まだ私はしゃべれないほどお腹が苦しいし。


とりあえず、ここから私、いや私たちの飲食店の食い倒れが始まったのだ。















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ポンコツ女子高生大俵結衣の食い倒れ日誌 絶対に怯ませたいトゲキッス @yukat0703

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