第31話 還る日
「まだ手紙に続きがあるぞ」
”せっかく目が醒めたから、僕もしばらく世界を旅してみることにするよ。君達みたいに面白い子に会えるかもしれないし”
「……私達もしかしてとんでもないやつ解き放っちゃった?」
”やだなぁ。僕は世界征服とか世界に混乱をもたらすとか、妖精王の座とか、そういうの全然興味無いから安心してよ”
「何で手紙にいちいち僕達が聞きたいことが書いてあるんだよ」
「どこかから見てるんでしょうか……?」
ありえる、と全員思ったが、どうしようもない。
「ま、とりあえず任務は終わったし、ゆっくり戻れば良いわ」
「そうですね」
この旅が終わればマイアは還る。それが分かっているから残りはのんびりと4人は山道歩いていく。爽やかな高原の風に吹かれながら歩くのも気持ちが良かった。
もうすぐ還れると思うと何もかも感慨深い。離れがたい気持ちもどこかにある。
思えば不思議な冒険だったわ。戻れると思うのに変な感じ。
とうとう小屋まで辿り着いたが、やはり別れるのは名残惜しい。
「せっかくなら、食料も残ってるしさ。一日くらい泊まっていかない?」
マイアの提案に3人は頷いた。4人で食事の準備をし、火を囲んで他愛もないことを話し、夜には寝転がりながら満点の星空を見上げる。迫る別れを感じながら、4人は眠った。
そしてとうとう朝が来て小径を経由し、ミミの家に戻る。3人が見守る中、ミミは床に魔法陣を描いていく。
「出来ました」
ミミは立ち上がり、小さく頷いた。
「いよいよ、還れるのね……何だか寂しい気がするわ」
マイアはそう呟いて魔法陣の上に立った。その顔には微笑むようでいて泣き出しそうな表情が浮かんでいる。
「イライアスもレオも元気でね」
「お前もな」
イライアスはそれだけ言うとぷいっと素っ気なく横を向いた。その様子にレオが苦笑いする。こんな時でも素直になれないのが、彼らしい。
「あ、そうだ。レオ、これ」
そう言ってマイアはレオに手に持っていた鎚を渡す。
「向こうに持って行ってもしょうがないしね。誰か他の人に使ってもらって」
「……分かった。預かっておこう」
レオは大事そうにその鎚を受け取る。
「君に会えて良かった。元の世界でも健勝でいてくれ」
レオが切なさを抑えて、柔らかく微笑む。
「もーレオ、そういうのやめてよ……」
美形に微笑まれると恥ずかしいやらドキドキするやら、まったく。
この胸の高鳴りはそれだけなのか、マイアは深く考えないようにした。
「あの、マイア……その、ありがとう。それにごめんなさい」
ミミが涙を堪えながら言う。
「ねぇ、ミミ。大魔女目指すのよ。あなたは立派な魔女なんだから。私との約束、良いわね?」
「はい」
マイアが敢えて明るく言う。
その約束がここにマイアがいた証。ミミとマイアの絆。
「さ、名残惜しくなる前にやってちょうだい」
マイアは上を向く、涙が零れないように。ミミが呪文を唱え始めた。魔法陣が白く光る。
「何か色々はちゃめちゃだったけど、楽しかったわ。ミミ、レオ、イライアス、さよなら」
ここに来て2週間くらい経ってるけど、今戻ったらどんな騒ぎになるかしら? 何て言い訳しようか……やっぱり記憶喪失で押し通すのが良いのかなぁ。
そしてマイアは消えた。
次の瞬間、マイアはグラウンドの隅に立っていた。
「ちょっと、マイア何ぼーっとしてるの」
チームメイトが声を掛ける。
「え?」
「これから試合でしょ。しっかりしなよ。やっぱり緊張してるんじゃないの?」
マイアは何度か目を瞬かせた。手にはフィールドホッケーのスティックに、ちゃんと揃いのユニフォームを着ている。
試合 ? ……あっ、もしかして召喚直前に戻って来たってこと?
とりあえず戻ってくる直前の心配は杞憂だったようだ。
試合勘鈍ってないと良いけど……。
「えーと、なんでもない。行こ行こっ」
マイアはチームメイトに見られないように涙を拭いて走り出した。
その後。
イライアスは賢人になることは一先ず諦めたが、魔法使いの修行もそこそこに哲学者のクランに移り、学者としても名を残した。
レオはマイアの助言に従い、仮面で素顔を隠しながら戦い、最終的には仮面の騎士団長(グランドマスター)として騎士達から篤い信頼を寄せられる存在となった。
ミミはその後も様々な騒動や冒険に巻き込まれ揉まれた結果、大魔女となり魔女達の頂点に立った。
3人は常に協力し合い、クランと世界の均衡を保つことに注力した。その変わらぬ友情に1人の少女が関わっていることを知る者は少ない。
女子高生マイアの異世界冒険譚~魔女っ娘に召喚されたけど特別なスキルは全く付与されていないので部活で培った根性だけで渡り合います~ 巡月 こより @YuzukiYowa
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