黒い影
きと
黒い影
よう、マスター。
久しぶり……っていうほど時間
そうだなぁ。まずはいつもの通り、ウオッカリッキーでももらおうかな。
ん? なんだか、
……まぁ、そりゃそうだろうな。
なんせ、もうマスターとこうして顔を突き合わせて、酒を楽しむことができなくなるからな。
いいや、仕事で遠くに引っ越すとかじゃないんだ。
これで最後だしな。マスターには、話しておこうかな。
いいか、誰にも言わないでくれよ?
……実は、俺、もうすぐ死んでしまう人が分かるんだ。
ハハッ、鳩が
そりゃそうだよな。こんなこと言われて、信じる人なんてまずいないだろうしな。信じる人は、よほどの変わり者だ。
でも、本当なんだよ。決して、酒で
……どうして、分かるのかって?いや、直感でピーンとくるとかじゃないんだ、マスター。
俺は、死に近い人の周りに、黒い人影が見えるんだ。
演劇とかで見るような黒子の姿とかじゃなくて、なんかモヤがかかったような、ぼんやりとした
ちなみに、この人影は死に近くなるほど多くなるんだよ。なんでかは知らないけどな。
この黒い人影は、俺が二十歳くらいの時から見え始めてな。
でも、最初は、なんだろうこれ、くらいにしか思わなかったよ。
誰にも言わなかったしな。人に話しても、信じてもらえないだろうし、友達も離れていくってもんだ。
加えていえば、この人影がついた人が近々死んでしまうことに気づいたのは、ここ数年の話だからな。
いや、勘違いとかじゃないんだ。実際にこの人影がどんどん増えて亡くなった人を俺は見ているんだよ。
ほら、何年か前、俺のおふくろが亡くなったのをマスターも知っているだろう?
……
おふくろは、病気でだんだんと弱っていって死んじまったんだ。その時、弱っていくのにつれて、人影がどんどんと増えていったことに気づいたんだ。
当時の俺は、なんで黒い人影がおふくろについているのか、なんで増えていくのか、分からなかったよ。
でも、なんとなく嫌な予感がしてたんだ。あの黒いのは、いいものなんかじゃないって気がしていたからな。
その予感は、結果として当たってたんだ。
実際におふくろの死の
そして、おふくろが死んだ瞬間。黒い人影は、フッと
そこで、俺はなんとなく思ったね。
ああ、あれは死神かその使いだったんじゃないかってね。
そのすぐ後だよ。町で買い物していた時、十二人ぐらいの黒い人影につかれた人が交通事故で死んでしまったのを目撃したんだよ。
その時に確信したよ。
この力は、本物なんだと。
え? 黒い人影が見えることをその当人には話さないのかって?
何言ってんだよ、マスター。マスターが町でいきなり見ず知らずの人間から、あなたもうすぐ死にますよ、なんて言われて信じるか? そういうことだよ、言ったって無駄なのさ。黙って見ることしかできない。
で、だよマスター。なんでこんな話をマスターにしたかってところなんだが……、ああいや違う、心配しなくてもいい。
マスターの周りに黒い人影は見えないよ。
黒い人影にとりつかれてるのは、…………………………俺、だよ。
何週間か前のことだったかな。後ろを振り返ると、見えたんだ。
ここのところ、どんどん増えていて、今は十二人見えている。
……もうすぐ、ってところだろうな。うん。
いいや、マスター。どうにかできるなら、俺もいろいろと
……いや、違うな。俺はもう受け入れてるのかもしれないな、この先の未来を。
でも、それでもいいかと思ってるよ。
胸を張っていい人生だったと言えるかは疑問に思うが、まぁ、うん。悪くはなかったとは言えるんじゃないかな。
満足しているよ、俺の人生ってやつに。
……そんな
難しいよな。もう会えなくなる人と、笑顔でお別れなんて。
たぶん、逆の立場だったらって考えると、さ。
……さて、俺はそろそろ帰るよ。もしかしたら、帰り道で死んでしまうかもしれないけどな。
最期に、マスターにこの話をできてよかったよ。
なんだか、胸につかっえていたものが取れた気分だ。
これなら、気分良く
じゃあな、マスター。
もしも、また
黒い影 きと @kito72
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