6. 異世界の住人




 「──つまり、君はこの国はおろかこの世界の住人ですらないと?」

 「はい、恐らく……。」


 応接間の豪華な椅子に腰をかけ、2人にこれまでの経緯を話した。


 私がいた世界では民族衣装が白の国はあっても、国民全員が全身真っ白な洋服を着ている国はなかった。そのことも、辿々しくではあるが2人にわかりやすいよう説明する。


 まぁ、自分が真っ白のワンピースを着ているせいで説得力はないが致し方ない。


 2人は私の顔を見て、また考え込むように下を向く。

 少し時間が経つと、アサヒさんが長い足をゆっくりと優美に組み直した。


 「俄かに信じ難いな。」


 信じられないと言われても無理はない。

 最初からそう言われると予想していたが、改めて口にされると少しくるものがある。


 私だって状況を全て把握できたわけでも、受け入れることができたわけでもないのだ。

 正直、ここに来たばかりの時とは違い今は不安に押し潰されそうだった。


 「しかし、この国の者ではないということは確かだな。その髪と瞳を持つ者であれば、王宮の者どころか国民ですら君を周知しているはずだ。」


 ────髪と瞳?


 反射的に自分の黒い髪を触る。


 「そうですね。漆黒の髪に白い瞳だなんて今まで見たことも聞いたこともありません。」


 二人が話すのを聞くに、どうやらこの国では黒髪の人も白い瞳の人も全くいないということだった。


 「なにより、私はこれ程までに美しい人を見たのは生まれて初めてだ。」


 唐突に言われた言葉に耳を疑う。


 美しい白い髪の、美しい黒い瞳を持った美しい人に、私は今美しいと言われた……?

 しかも生まれて初めて見た、と。


 「わ、私なんかよりお二人の方が何十倍も美しいですよ!」


 お世辞ではなく本心で。

 アサヒさんはもちろん、スヴァルトさんも日常では滅多にお目にかかれないほどの美形。

 正直、私が知っている俳優やモデルと比べる必要がないほど、この2人の方が眉目秀麗だ。


 私の言葉に、2人は大きな目をさらに大きく見開き私を凝視した。


 ──何かまずいことでも言ってしまったのかな。


 小さな焦りを覚えたところで、信じられないというようにスヴァルトさんが口を開いた。


 「アヤ様……、あなたは本当にこの世界の者ではないようですね。」

 「──え?」


 先程まで全く信じられないという様子だったのに、今になって何故か唐突に私を異世界の者であると理解したようだった。


 「この国だけではなくこの世界では、白と黒を持つ者は最も美しく高貴で気高い存在として崇拝されております。そして中でも黒は白よりも価値のあるものとされている。そしてあなたはアサヒ殿下と同じように白と黒の両方を持つ者。誰もが見惚れ崇拝することでしょう。」


 ──正直、私も惚れ惚れしております。


 最後ににこりと効果音が聞こえてきそうな程、綺麗に笑うスヴァルトさんに苦笑いを浮かべながらも話の内容を整理しようと努力するが、真剣な表情で語られたそれらは、元いた世界の常識や価値観とは全く違い、私は上手くその言葉を飲み込めずにいた。


 どんな言葉を返せばいいのかもわからず、助けを求めるようにアサヒさんの方に目をやる。


 「私のように両方を持つ者がいないだけで、私と同じ白い髪や黒い瞳を持つ者は僕の他にも少数だが存在している。」


 私の目をじっと見つめながら、淡々と話す。

 私は大人しく彼の話に耳を傾けた。


 「しかし、君と同じ黒い髪や白い瞳の人間など聞いたことがない。ましてやそれを両方持っている者など……」


 真剣だった表情がより真剣なものに変わるのがわかった。


 「──君、狙われるぞ。」


 静かに告げられたそれは、私を震え上がらせるには十分な、恐ろしい言葉だった。

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白と黒が崇拝される異世界で公爵令嬢(仮)を名乗りますが、引く手数多で困ってます。 @sumiiii

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