5. 一体ここは




 (しゅ、瞬間移動した…!?)


 驚きのあまり声が出ない。

 どうやら赤髪の女性はここには来ていないようだ。


 はっとして、右肩を確認する。


 フクロウは一緒に移動してきたみたいで、首を傾げて大人しく私の肩に乗っていた。


 「スヴァルト、応接間へ来てくれて。ヴィーが見つかった。」


 アサヒさんが耳に手を添えながら、恐らくこの白いフクロウの飼い主であろうスヴァルトという人物に呼びかけた。


 耳にはダイヤモンドのような無色透明の宝石のピアスが付けられている。


 あのピアスで連絡を取っている──?


 理解できない出来事の連続に、何が起こっているのか全く理解が出来ないまま、ただ目の前に広がる光景を唖然として見ていることしかできない。

 すると、私2人分程の高さがありそうな扉の奥からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。


 「ヴィー!!」


 勢い良く扉が開けられる音と共に響く大きな声。


 現れたのは、これまた美しい顔立ちの淡黄の瞳を持つ深緑色の髪の男性だった。


 走ってきたからなのだろうか。

 一つに束ねられた腰の下まである長い髪が少しだけ乱れている。


 彼の姿を見ると、ずっと私の肩に乗っていたフクロウが彼の元へと飛んで行った。


 「──っああ、よかった…!」


 探しましたよ、ヴィー……。


 消え入りそうな声でフクロウに頬を寄せる。

 本当に大切にしているということが一目でわかるほど、壊物を触るように優しくフクロウを撫でていた。


 「スヴァルト。こちらの女性がヴィーを見つけてくれた方、アヤ殿だ。」


 アサヒさんが咳払いをした後、落ち着いた声で彼に呼びかける。

 その声に反応して、涙で潤んだ瞳がゆっくりとこちらを見た。

 

 彼はフクロウを肩に乗せると、駆け足で寄ってきたかと思えば私の手を両手で強く握った。


 「貴女がヴィーを──?」

 「は、はい……。」


 淡黄色の瞳が小さく揺れた。


 「本当にありがとうございます!感謝してもしきれません──!」


 両手を握られ、上下にぶんぶんと振られる。


 「そんな、私はただ見つけただけなので……。」

 「いいえ、あなたは私の恩人です!どうかお礼をさせて下さい。アヤ様はどこか貴族令嬢でしょうか?」


 ──貴族令嬢?


 ここではまだ貴族制が残っているのか、と少し驚きながらも、やっぱり私は日本ではないどこか遠くへ来てしまったのか、と今更になって小さな焦りを感じた。


 「わ、私は貴族など、そんな大層な人間ではありません!……えっと、少し道に迷ってしまって。」

 「──道に?君はどこから来たんだ。」


 少し離れた所に立っていたアサヒさんが、唐突に尋ねる。


 「えっと、私は日本という国から来ました。目が覚めたら花畑にある小屋に居て、白いフクロウさんに会ったんです。」

 「ニホン……?聞いたことがないな。スヴァルトは?」

 「いえ、私も存じ上げませんね……。」


 スヴァルトさんが彼の右肩に乗ったフクロウを撫でながら、難しい顔をした。


 「ここはなんという国ですか?フランス…とか?」

 「いいや違う。フランスという国は知らないが、ここはノウムディーネだ。」


 ──ノウムディーネ?


 聞いたことのない国名に思わず固まる。


 通信機器が発展したこの時代に、日本はともかく、フランスさえしらない。

 更にはここに来るまでに携帯を持っている人も1人もいなかった。


 そしてこの一面に広がる白。


 スヴァルトさんも他と同じように、全身真っ白の洋服を着ている。


 もしかすると私は────


 私がいた世界とは違う、異世界に来てしまったのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る