4. いざ王宮へ




 歩き始めて早十数分。


 前を歩くアサヒさんの風で揺れる真っ白な髪に思わず見惚れながらも、必死に足を進めていた。


 それにしても、今まで見たことないくらい綺麗な顔──。

 見たところ身長も180cm近くありそうだし、なんだがおとぎ話から出てきた王子様みたい……。


 そう思い耽っている間に、数メートル離れたところでアサヒさんが立ち止まり私を待ってくれていた。


 「すまない、速かったか。」


 どうやら私の歩く速度が遅くなったことに気が付き、気遣ってくれているようだった。

 私はそれに大丈夫ですと笑顔で返し、再び2人で歩き始める。


 少し息が上がりそうになってきた頃。


 小さくはあるが、中世ヨーロッパのような街並みが見えてきた。


 「綺麗──。」


 思わず声が漏れる。


 アサヒさんは相変わらず、私の声を気にする様子もなく淡々と足を進める。


 街に近付き、だんだんと人の声が聞こえてきた頃。

 唐突に私の方へ振り返り、白い布を私に差し出した。


 「これを被るといい。君は少し目立つだろう。」


 ──目立つ?


 何のことかと疑問に思いながらも、大人しく差し出された布を受け取る。

 すると、どこから出したのかアサヒさんも白い布を頭に被り、また前を向いて歩き始めた。


 急いで同じように布を被り、また歩き始める。


 街に入ると見えてきたのは、美しいレンガ造りの建物に囲まれて多くの人で賑わう屋台。


 街を歩く人を見る限り、金や青や緑やピンク、薄茶色といったように様々な色の髪の人がいる。


 共通しているのは人々の洋服がみんな白で統一されているということ。

 だけど、アサヒさんのように真っ白な髪の人は1人もいないし、私のように真っ黒な髪の人もいない。


 ──だから目立つと言ったのかな。


 日本とは違ってここでは黒髪の人は少ないのかなと然程気にもせず、右肩に乗ったままのフクロウの頭を撫でる。


 それから10分ほど歩くと大きな塀と門の前に着いた。

 立ち止まったアサヒさんは、独り言だろうか、小さな声でぶつぶつと何か言っている。

 すると突然辺りが淡い光に包まれ、思わず目を細める。


「お待たせ致しました、アサヒ殿下。」


 瞬きをした間に突然アサヒさんの隣に緑青色の瞳をした赤髪の美しい女性が現れた。


 腰まである長い赤髪を三つ編みにして後ろで一つにまとめている彼女は、アサヒさんの横に並んでも見劣りしないほど端麗な顔立ちをしている。


 ──赤髪も街には1人もいなかった。


 すごく綺麗だけど、それにしてもこの人は一体どこから……。


 呆然としている間に、2人の会話は進んでいく。


 「私とそちらの女性を応接間へ頼む。」

 「──承知いたしました。」


 私の方に目をやり、一瞬驚いた表情をしたと思えば、またすぐに無表情に戻る。


 「アヤ殿、手を。」


 アサヒさんが私の前に手を差し出す。

 ──握れと言うことなのか?

 戸惑いながらも差し出された右手を軽く握った。


 「ネシティ」


 赤髪の女性がそう唱えると次は私たちが淡い光に包まれた。

 ひかりが消えてから恐る恐る目を開けると、その先には写真でしか見たことのないような宮殿の煌びやかな一室が広がっていた。

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