第3話 昼の桃
綺羅が紫条の離宮で目覚めてから六日が過ぎた。
六日の内、三日は高熱と体調不良にうなされて朦朧としていたから、実際にこの離宮で生活していると言えるのは三日である。
今は六日目の朝、もう日の照りはじめた頃。
綺羅は目を覚ましたがすぐには起き上がる気になれず、ぼんやりと帳の隙間から明るい日差しの差し込む天蓋を見上げていた。
離宮で目覚めてからしばらくの間、綺羅は荒れ狂う感情の嵐にただ翻弄されていた。
怒りや悲しみ、悔しさ、焦り、猜疑、戸惑い、不安……、様々な感情が渦を巻き、綺羅の小さな胸の中で嵐となって轟々と吹き荒れた。
綺羅は自分の胸が感情の嵐によって突き破られ、粉々になってしまうのではないかと怖くなり、横たえた体を赤子のように丸めてただ震えていた。
しばらくして嵐が少し収まると、今度は何もかもが吹き飛ばされた虚しい空洞だけが胸にぽっかりと残り、綺羅は無力感で一杯になって死ぬことばかりを考えるようになった。
しかしわずかに残った理性が、もしかしたら紫条は本当に先夜脅した通り、綺羅の死を他の誰かに償わせるかもしれないと自分を説得し、自死することを踏みとどまらせた。
そうして無理矢理押さえ込んでいると、感情は再び綺羅の胸で渦を巻き、また抑え切れないほどに荒れ狂って胸の内を暴れ回った。それを朝に昼に晩に、一日中繰り返すのだ。
食事も喉を通らず、水も受け付けず、眠ることもできなくなって、自分はこのまま衰弱して死ぬのかもしれないと、綺羅は密かに期待した。
しかし、人間の体というのは実に強欲なものだ。上がりきった熱が下がりはじめ、侍女たちに甲斐甲斐しく世話をされ、翡翠に無理矢理薬と粥を流し込まれて人心地が着くと、体は途端に生を求めて死に物狂いで足掻きはじめた。感情の嵐に翻弄されてぼろぼろになった心のことなどお構い無しである。
それでも不思議なもので、体が回復すると、ほんの少しだが心の傷も癒されたような気がした。
到底、全てを消化しきれた訳ではないが、さらに熱が下がって二日ほど経つと、最初に感じた激しい感情の高まりは時とともに薄れ、綺羅は次第に冷静さを取り戻した。
少なくとも震えは止まり、水も飲めるようになって、自分の置かれた状況について考えを巡らせられる程度には回復したのである。
そうして泣けなしの冷静さを振り絞って自分の置かれた状況について考えを巡らせていると、今度は別の混乱が綺羅を苦しめた。
先夜、紫条が語ったことも、翡翠が説明したことも、彼らの振る舞いも、何一つとして真実だと信じられることがなかったのである。
そもそも燦という祖国が既に滅んでしまったというのも、彼らがそう言っているだけでこの目で確かめた訳ではない。ただ単に自分は叔父の計略に嵌り、あの男に売り払われただけというのも十分にありうることだった。むしろ叔父の性格や、これまで出来事を振り返れば、その可能性の方がずっともっともらしく思えた。
翡翠や瑪瑙も自分たちが生き残るために都合のいい嘘をついているだけかもしれないし、紫条が言い出した交換条件だって守られる保証などない。
自分にとって都合のいい事だけを信じてしまいたい自分と、それを否定する理性的な自分がせめぎ合い、綺羅の心をさらにすり減らした。
綺羅は自分の手を見る。
節が目立ち、肌はささくれ、肉刺もある、少しも女性らしくはない手を。
全てが不確かなこの状況で、しかし唯一確かなのは、自分がまだ息をする温かい体を持っていて、柔らかな絹の寝台に横たわっているということだけだ。
性別も曖昧で、名前も無く、自分の生死すらも自由にできない、脆弱で非力な自分を思い知らされるだけの日々。
それでも……。
──人は死ぬ時も、死んでからも、それなりに利用価値があるものです。利用せずに死ぬなどなんと勿体ない──
かつて、戦に追われる日々に疲れ果て、死にたいと呟いた自分にそう諭したのは翡翠だったか。
その時は自分の死の価値など色々と考えているうちに忘れてしまったが、今になってその言葉を強く思い出す。
綺羅はゆっくりと寝台の上に半身を起こすと、枕に寄りかかった。
いつか翡翠に諭されたことが正しいのなら、ただ生きているということにも利用価値はあるらしい。死すら自由できない自分にも、それでもまだ少しはできることもあるのかも知れないと思えると、綺羅は少しだけ息をするのが楽になった。
もし祖国が滅びたというのが本当ならば、共に戦った将や兵達は一体どんな扱いを受けていることだろうか。荒れ果てた国に残してきた民たちは飢えて苦しんでいるのではないか。
まずはそのことを、事実を確かめなくては。
綺羅は布団の上でそっと手を握る。
自分の死にも、そして死後の骸にさえも、ほんのわずかでも利用価値があるのならば惜しむつもりはない。そもそもあの戦よりも後、生きているつもりなど無かったのだから。
ならば、利用できるものは髪の毛一筋でも利用して、そして少しでも彼らに何かを残してから逝きたい。
意図せずとは言え敵前で逃亡し、身分も何もかも失った自分には、もはやそのようなことは案ずるのも烏滸がましいと分かりながら、それでも綺羅にとっては、彼らのためを思うことがただ唯一、今この状況で自分に生きることを許せる理由なのだった。
綺羅が大きく一つ息を吐くと、すぐに綺羅の目覚めた気配を察して侍女頭の
「おはようございます綺羅様。お加減はいかがでしょうか?」
寝台の帳が開かれると、細く開けられた窓の向こうから秋の花の甘い香りを含んだ爽やかな風が流れ込む。燦とは違う乾いたそれを、綺羅は胸の深くに吸い込んだ。花に罪はない。草花はいつどんな時でも綺羅に優しく寄り添ってささやかな癒しを与えてくれる。
帳の先、窓の向こうに広がるのは秋の花々が咲き乱れる中庭。この雅な中庭を望む一角が、紫条の住まう
「……今日は、大分良いようです」
綺羅は眩しさに目を細めながら小さな声で答えた。
「それはようございました。あら、少し寝汗をかかれていますね。軽く汗を流してからお食事にいたしましょうか」
綺羅は小さく頷いて手を伸ばす。
「かしこまりました。さあ湯殿に参りましょう。ご朝食の後に翡翠先生が様子を見に来られるそうですよ」
秀帆はそっとその手をとると、綺羅が寝台から降りるのを手伝ってくれる。
綺羅は半月の間寝たきりだったにしては、思いの外、体の状態が悪く無かった。翡翠が余程細やかに気を使って面倒を見てくれていたらしい。
ゆっくりと歩む足取りは、確かに半月前の記憶の中にある自分よりは重く、関節の動きもぎこちない。わずかの差が生死を分ける戦場では致命的だろう。しかしここは紫条の離宮で戦場ではない。主に囲われた愛妾として日常生活を送るのであれば、全く問題のない範囲だった。
秋帆に手を引かれて寝室を出る。
綺羅が紫条に与えられたのは、紫条の住まう瑠璃宮の最奥にある一角だ。小間を兼ねた寝室、寝室から続き部屋となった広い居間、居間から続く食堂、厨、湯殿、厠、そして寝室と居間の南側に広がる中庭、それが綺羅が自由に使う事を許された全てだった。
居間には廊下やさらにその先の他の部屋へとつながる出入り口があるが、綺羅は居間より先へは一切の出入りを禁じられている。
一方で翡翠や琥珀はというと、二人は紫条の定めなど完全に無視をして好き勝手に行き来していた。
翡翠は綺羅の主治医ということもあり、日に一度は往診も兼ねてこの居間を訪れている。
琥珀はというと、そもそも彼にとっては出入りの制限など何の意味もない。いつ何時、何処であれ、彼は自分の入りたい場所に入りたいように入る。ただそれだけだけだ。紫条もとっくに諦めていることだろう。
裏切られておきながらも、綺羅はやはり二人を憎むことは出来なかった。二人も以前と全く変わりのない態度で接するので、綺羅は戸惑いつつも、結局は以前とほとんど同じように接することになった。
居間の南側には大きな窓があり、綺羅の居室と一続きの大きな中庭が広がっている。
中庭はよく手入れされ、秋にも関わらずまだ鮮やかな緑が豊かに繁り、秋の花々が咲き乱れて甘い香りを漂わせている。
その中庭のさらに奥に視線を向けると、背の高い木々に隠されるようにして、ぐるりとそびえる白壁が垣間見える。それはこの離宮を守ると同時に、これから先の生涯に渡って、綺羅をこの離宮に閉じ込めるための檻である。
綺羅はあれほど悲壮に死ぬ覚悟をしていたのにと、自分の覚悟の甘さを笑いつつも、もう二度とこの離宮を出ることも、あれほど好きだった森を訪れることもできず、時折の慰みにこの限られた中庭を散策するのだけを唯一の楽しみとして、一生をこの離宮に閉じ込められて生きていかなければならないと考えると、心臓を誰かに鷲掴みにされたように胸が苦しくなるのだった。
それでも客観的に見れば、囚われた敵国の王族でありながら、何不自由もない暮らしを与えられ、中庭とはいえ外の空気に触れる機会さえある自分は、信じれないほど破格の待遇を与えられているということは綺羅にも十分に分かっていた。
それは綺羅に与えられた加護を人為的に利用したいという、あの男の突拍子も無い愚かな目的のためであり、綺羅を加護する精霊たちの不興をできるだけ買わないようにするという策略の一部だろう。
だからこの厚遇も、気紛れで自分勝手でそして残酷な、人知を超えた存在である精霊を意のままに操しようなどということの無謀さに、あの男が気付くまでのそう長くはない間のことである。
紫条とて、いずれ精霊の本当の無慈悲さを思い知れば、綺羅などというお荷物は早々に処分したくなるに違いない。かつての叔父のように、一日でも早く綺羅が死ぬことを願うようになるだろう。
そうなる前に、まだあの男が綺羅に少しでも関心を持っている間に、兵のために民のために、少しでも何かをしておなければ……。
「今年は特に花が美しく咲いてございますよ。私は子供の頃からこの離宮に仕えておりますが、この時期にこれほどの花々が咲くのを見たのははじめてでございます」
「きっと、庭の花々も綺羅様のお越しを歓迎しているのですわ」
「まあ、まだ蝶もあんなに。午後に暖かくなるようでしたら、お庭でお茶を召し上がっても良いかもしれませんね」
侍女達は口々に慰めの言葉をくれる。
綺羅はわずかに口元をほころばせると、そうね、と同意するように小さく頷いた。
ふと、綺羅の視線が広い居間の向かい側にあるもう一つの扉に視線が移る。それを見た秀帆が、ふふふとわずかに艶めいた声を零した。
「殿下はお忙しいと、よく執務室にお泊りになるのですよ。一月近くこちらの寝室に戻られないこともありますから、あまりお気になさらずとも大丈夫でございます」
「そう……、ご多忙なのですね」
綺羅は勤めて平坦な声で答えた。
紫条は綺羅がはじめてこの離宮で目を覚ました時に目見えて以降、綺羅の前に姿を表していなかった。
「ええ。今回の戦は戦地が遠方でしたから、その戦後処理に奔走されていらっしゃるようです」
秋帆は控えめながら、それでも得意そうに自分たちの主の近況を教えてくれる。
綺羅は紫条が侍女など近しい者達に、一体自分のことをどう説明しているのか不思議に思っていた。突然、何処の馬の骨とも知れない綺羅を連れて来て、側におきたいなどという危険なことは周囲がとても許さないだろうと思うからだ。
しかし秀帆を筆頭に 綺羅に付けられた三人の侍女たちには特に綺羅を警戒している様子がなかった。それどころか常に甲斐甲斐しく世話を焼き、具合の悪いところはないか、困っていることはないかと尋ねては、綺羅が一日も早く個々の生活に慣れるようにと心を配ってくれている。
綺羅が彼女達からの断片的な情報を繋ぎ合わせて分かったのは、綺羅は今回の戦の遠征の途中に討伐した幾つもの部族、そのどこかで紫条が見初めて攫うように連れ帰ってきた娘、という設定になっているらしいということだった。
あまりにも荒唐無稽な話だと綺羅は思うのだが、それが彼女たちの心の琴線にはいたく触れたようだ。まるで絵物語から飛び出してきた恋の話だと、頬を染め瞳を煌めかせて何度も綺羅に語ってくれる。
紫条が綺羅の正確な身元について明言を避けているのも彼女たちの想像力をさらに刺激するようだった。綺羅の容姿も、洗練された立ち居振る舞いも、切り落とすことになった髪も、馬車の事故も、何もかもが丁度いい小道具となって、この荒唐無稽な作り話に花を添えている。
話は尾鰭をつけて人から人へ広まり、侍女達も含めて離宮の者はみなすっかりと、綺羅が何処か辺境の小国の姫であると実しやかに信じていた。
しかし、この設定の最大の問題点は、綺羅の性別である。
紫条は未だ綺羅を皇子と思っているはずだから、綺羅を男と知った上で愛妾として離宮に囲うという設定にしたはずだ。
綺羅にも男色という知識はある。しかし十を幾つか過ぎたばかりの歳から戦場を駆け回っていた綺羅に色恋沙汰を経験する暇はなく、その知識はただの伝聞の域を出ない。
その辺りの禁忌は国によってかなり違うはずだが、果たしてそれがこの国でどの程度の問題になりうる、あるいは全く問題にならないことなのか、綺羅には皆目見当がつかなかった。
さらに事態を複雑にしているのは、紫条は綺羅を皇子だと思っているが、実際の綺羅は女性だということである。
そのような事態に陥ったのは多分に自分たち燦国の事情の所為ではあるのだが、複雑な設定がさらに重層的に入り乱れ、さらには自分の本来の「綺羅」の名で呼ばれることになった今、よくよく注意を払わなければ、綺羅自身もしばしば認識が混乱し、自分の存在も、住まう国も場所も、より一層あやふやになってしまうのだった。
──勝手な勘違いはそのまま利用すればいいんです。わざわざ教えてやる必要などありません。生涯隠し通すことは無理でも、多少心の整理を付けるぐらいの時間稼ぎにはなるでしょう?切り札は一つでも多いほうがいいんですよ──
紫条が本当のことを知ったら激怒するのでは、状況を悪化させるのではないかと綺羅が案ずると、翡翠は鼻で笑って否定した。綺羅が本当は女と知って怒り出すような男など居るわけがないと言う。
それに実際、生活上の問題もある。当然、着替えや入浴の介助をする侍女達には裸を見られることになり、すぐに女性であることは知れてしまうからだ。体調が戻れば、いずれは月の訪れも再開するだろう。
しかしそのことに関しても、翡翠は心配する必要はないと綺羅を諭した。人というのは自分の都合の良いように解釈するものだから、何も言わずに自然の流れに任せればいい、それで問題ないという。
綺羅は内心ではかなり半信半疑だったが、他に方法も相談相手もない。仕方なく翡翠の指示に従った。
そして確かに、少なくとも現段階では翡翠の言う通り全くの対応で全く問題はないのだった。
侍女達は紫条から余程厳しく言い含められているらしく、決して自分たちから仔細を詮索するようなことはしなかった。綺羅もあえて否定するようなことも自分から語るようなこともしない。紫条と侍女達の勘違いか続くところまでは、そっとそのままにしておくしかない。
一体このような設定をしておいて、もしも自分が本当に噂通りの、全身の皮膚が爛れた二目と見られぬ姿であったらどうするつもりだったのかと、綺羅は疑問に思う。
しかし紫条のような男であれば、その時はその時で全く別の、そしてもっともらしい理由を捻りだしたのだろう。
「殿下のご寵愛は、今は綺羅様お一人のものなのですから、何もご心配なさることはございませんよ」
綺羅の顔を覗き込むようにして秋帆が優しく声をかけてくれる。ぼんやりとしていたわずかの隙をしっかりと見られてたようだ。
綺羅は曖昧な表情で応える。
「綺羅様の元で憂いなくお過ごしになられるように、必死にお仕事を片付けていらっしゃるのですわ」
そうそう、と同意しながら他の二人もころころと鈴のような笑い声を上げる。
何処の馬の骨とも知れない綺羅がここまで彼女たちに歓待されているのは、紫条側の事情もある。
侍女達の話によれば、紫条は第三皇子という立場にも関わらず、二十も半ばの年になっても奥方どころか一人の側室も愛妾も囲わず、よほど好みが厳しいのか縁談の話も潰してばかりいるという。
いい加減心配した側近達は、もはや彼が気に入るのならば市井の娘だろうが妓女だろうが誰でも構わないと頭を痛めていたらしい。
そこに現れたのが綺羅である。
紫条本人がどうしても側に置きたいと攫ってまで連れ帰り、すぐに離宮の最奥に匿って側近にも姿さえ見せない熱の入れようだ。侍女達から伝え聞くところによれば、連れ帰ったのは年頃の大層愛らしい姫だという。
綺羅の登場に、紫条の身近な者達は多少の外交問題には目をつぶってもお釣りがくるほど喜んでいるのだ。
綺羅は手を引く秀帆に気取られぬよう、胸の中で小さく息をはいた。密かに敵国の皇子を捉えておきながら、紫条自身も側近達の勘違いを相当自分のいいように利用してるものだ。
秀帆が湯殿の扉を開けると、ふわりを暖かい湯気が広がる。
「さあ、お手を広げてくだいませ」
侍女達に促されるまま帯を解かれ、夜着を脱がされていく。湯殿には綺羅のために揃えられた香油や化粧の道具が並べられ、今日はどの香りにしようかこれを塗ってみようかと、侍女達が楽しそうな声を上げる。それらは全て紫条が綺羅のために揃えたものだ。それだけではなく、替えの衣装や飾り、菓子などが毎日のように贈られてくる。
綺羅は秀帆に手を取られながら湯船の階段を降りるとゆっくりと体を湯の中に沈めた。
ゆったりと湯に浸かってから上がると、侍女の一人が衛兵に呼び出された。届け物があると言う。
しばらくして侍女が捧げるように持ち帰ったのは、瑞々しく張りのあるずっしりと重い桃。
「まあまあ、素晴らしい桃ですこと。殿下が今朝採れたものをわざわざ届けさせたのですって」
添えられていた短い手紙を綺羅に手渡す。
「食欲のない綺羅様をご心配なさっているのですわ。早速、食後にいただきましょう」
「あの殿下が、毎日のように贈り物をなさるなんて、綺羅様はとても大切にされているのですわ」
侍女たちはくすくす、うふふと笑うと、止める間も無く桃を持って厨に消えていく。
桃を持った侍女の通った後にも甘く胸のすっとするような爽やかな香りが広がる。
今頃の季節、よく森で木に登っては桃や葡萄などを食べていた。自然に実るものはもっと小ぶりで、身も固く酸味も強いが、それでも香りは変わらない。懐かしい森の、燦の香りがするようだった。
綺羅はしばらく、視線を手元の短い手紙を見つめていた。
「秀帆、言伝を頼めますか」
「お返事でございますね。食事の後にすぐにご用意いたしましょう」
綺羅は顔を上げる。
一度、紫条と話をしなければならない。
今のうちに、できる限りのことをしなければ。
食後の桃を食べながら、綺羅は紫条に短い手紙を書いた。
瑠璃宮の囚われ人 石田彗 @ishda-viu
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