あの時、君が指を絡めてきたから。
黒嶋珱玻
あの時、君が指を絡めてきたから。
とかくこの世は生きにくい。
何の台詞だったかは皆目覚えちゃいないが、今の俺の脳内を占めているのは正にこれだけである。
「ああ………疲れたな………」
そう、俺は疲れ切っているのだ。仕事に、生活に、人生に。
俺の名前は
ごく普通の三流私立大学の文系を出て、ごく普通の中小商社の事務部に配属された、ごく普通の一般人。
特に人生の目標もなく、運良くたまたま拾ってくれたこの会社に、何も考えずに勤め続けて三年目。
だんだんと増えてきた仕事や責任に襲われ続け、ようやく気がついたことがある。
「あれ?この会社、もしかしなくてもブラック企業とかいうあれじゃね?」
俺の所属は経理事務。通常であれば、一日オフィスでパソコンや書類と仲良くしているのが業務である…はずだ。
「じゃあなんで俺は、こんなトコで販売員さんをやっているんだ?」
昨日はまともな昼休憩も取れずに終電ギリギリまでパソコンのキーボードを叩き続け、今日は何故かいきなり弊社の支店舗まで出向く羽目になり、一日中立ちっぱなしでお客様や慣れないレジマシンのお相手だ。
せっかくの土曜日なのに。本来休日のはずなのに。
「ああ……身体中が悲鳴を上げている……」
日頃のデスクワーク続きで肩や首が凝り固まっていると思っていたら、今日は立ちっぱなしで足も腰も痛い。つまりは身体中がガタガタだ。
「癒し……癒しをくれ………」
店舗での仕事をなんとか終えた頃には、貴重な俺の休日はあと四時間で終わりを迎えることとなっていた。
「なんとか明日は休みを取れたが……終わっていない書類も溜まっているし、やっぱ自主休日出勤か……?」
家路を辿っているはずなのに俺の心は重い。このまま家に帰って床に着いたところで、ゆっくりと安眠できる気もしない。
「終わっていない仕事やら何やら……考えねばならん事もやらねばならん事も大量なんだが……無理だ、頭が回らん。」
嫌みのように明るく輝く駅前を脱出して、俺は自らの安アパートへ向かう。この徒歩二十分が辛い。
土嚢袋のように重たい足を、どう動かして歩いているのかすらもよく分からなくなってきた。
「ダメだ……何とかして癒しを得てから帰らねば……」
「こんばんは、ご来店誠にありがとうございます。今日ははじめてのご利用ですよね?60分コースでお間違いありませんか?」
「え?は??」
ハッと気がついた時には、俺は見知らぬ場所に居た。
グレーの壁紙とシックで落ち着いたデザインの椅子やテーブルで纏められた妙に小綺麗な小部屋に、具体的な名前は知らないが何やらいい匂いのするアロマ。
そして立ちつくす俺の前にて優しい笑顔を向けてくれている、小鹿のような小柄で可愛らしい若い女性。
「はっ?何ここ??俺どうしちゃったの?」
状況がさっぱり読めねぇ。もしや既に夢の中か?
「え?いえお客様、うちの外の看板を熱心に見てたじゃないですか。すっごいお疲れのようでしたし、気になってお声を掛けさせて頂いたんです。覚えてませんか……?」
「んー……?」
顎に手を当て考えてみるが何にも覚えちゃいない。
『疲れた、疲れた、癒しが欲しい……』そんな考えばかりにぐるぐると支配されていたことしか覚えちゃいない。
「すまん……よく覚えてない……」
「そうですか……」
ああ、そんなあからさまにがっかりとした顔をしないで欲しい。か弱い小鹿のような女性にそんな顔をされちゃあ、まるで俺がいじめたみたいじゃないか。
「そもそも、ここは何の店なんだ?妙に洒落てて暗いんだが……」
「えっと、ここは至高の睡眠を得られる場所です。」
「は?至高の睡眠……?」
人気のないシックな暗い部屋に、体のラインが分かる黒いワンピースを着た可愛らしい女性と、俺の二人きり。
ごくり。
「当店はヘッドスパ専門店でございます。」
「っへっ?!へっどすぱ??!」
決して変な想像なんてしてませんよ。してませんとも。声が上ずってもいませんとも。
俺は気まずさを隠す為……だけでなく単に興味本位で、もう一度部屋をきょろきょろ見回した。
「へぇ……最近の美容院ってのは、随分と洒落てるもんだなぁ……俺は千円カットしか行かないが……」
「ああいえ、どちらかと言うと当店はエステですね。水やクリームを使わない、ドライヘッドスパの専門店です。女性様にはフェイシャルのコースのご用意もございますが。」
「はぁ……エステねぇ……」
当然ながら俺にゃエステの経験なんかゼロだ。60分3,800円の、値段も技量もそこそこのツボ押しマッサージ屋に、少し通っていた程度だ。
「あー…店に入っといて申し訳ないんだが、やっぱり止めておくよ。俺にゃあエステなんか似合わないし、早く帰って休まなきゃならないんでな。冷やかしですまなかった。」
まったく、数分前の俺はなんでこんな柄にもない場所に迷い込んでしまったんだ。一刻も早く帰って布団に入った方が、よっぽどマシだというのに。
俺は軽く片手を上げて、踵を返しかけた。
その俺の上げた手を、女性が両手で包み込んだ。
「はっ?!何?」
「でもお客様、お疲れなんですよね?肩も首も腰も足も全部ガタガタだって、毎晩疲れ果ててなかなか安眠できないって、仰ってたじゃないですか!!当店ならそのお悩みにピッタリですよ!」
「あ……いや俺は……」
情けなくなるほど言葉が出てこない。
「騙されたと思って、試してみませんか?初回割引もありますし!プロとして、そんなに疲弊し切ったお体や頭を、放置したくないんです!!」
女性はとうとう、俺の指の間に自らの指を絡めてきた。これはいわゆる、恋人繋ぎというやつじゃないのか?なんだこれは!?詐欺か、詐欺なのか??!
「当店のヘッドスパはとにかく『瞬間安眠』に拘ってます!施術中に思わず寝てしまうと評判なんです!おうちに帰る前にちょっと居眠りしていくくらいの感覚で、如何ですか?!」
ああもう、痛いほどに力の込められた指先にしか、意識がいかないじゃないか。
「……分かった……宜しく頼むよ……」
とうとう俺は圧しに負けて、未知の領域に足を踏み入れる返答をしてしまった。果たして俺の意思が弱いのか、はたまた大人しそうに見えて強引な彼女のパワーのせいなのか。両方な気がする。
「はい!私、頑張ります!宜しくお願いします!!」
女性は未だに俺の手を握り締めたまま、心底嬉しそうに明るく笑いかけてきた。
……可愛いな。
……うん、まぁいいか。我ながら実に単純だ。
「ではこちらのお部屋になります。お荷物や上着はこちらのロッカーをご利用ください。ご準備が出来ましたら、こちらのチェアに座ってお待ちくださいね。」
「ああ……分かった。」
あれよあれよと言う間に、俺は奥にあった個室まで連行された。
先ほどの部屋と同じくグレーの壁紙と、先ほどよりも暗くなった間接照明に支配された個室の内装は、実にシンプルでつつましいものだった。
一番目につくのは、部屋の中央を陣取っている黒い革張りの一人掛けソファーだ。これが施術台ってことなんだろう。もしくは実験台か?
あとは壁沿いに小振りなロッカーが一つと、姿見が一つ。それと小さな椅子が一つ。以上だ。
必要最低限の物しか置かれていないようだ。
準備があるという女性が出ていってから、俺はとにかく言われるがまま動き身支度を整え、中央の椅子に腰かけた。
「うお、なんだこれ超ふっかふかじゃんか……」
椅子が柔らかすぎて体が勝手に沈んでいく。一日立ちっぱなしでヒリヒリと痛んでいた腰や足が楽になるのが分かる。
ああ、仕事場のデスクもこの椅子だったら仕事が捗るだろうか…?いや逆に眠くなって仕事にならなさそうだな……
「失礼します。ご準備は宜しいですか?」
「……ああ、大丈夫だ。」
俺をダメにする椅子のせいで既に眠くなってきた。まだ何にも始まってないのにな。
「では改めまして、本日担当させて頂きます、清水と申します。先程は熱くなってしまい申し訳ありませんでした。宜しくお願い致しますね。」
「ああ……宜しく。」
俺が座り彼女が立っているので、必然的に彼女を見上げる格好になっている。可愛らしい小顔の彼女に真っ直ぐと見下ろされている。
俺は何故かそれが気恥ずかしくて、つい目線を下に逸らしてしまった。社会人失格だな。
「今回は60分コースということで、頭皮と目の回り、それと腕を中心に施術しますね。お客様が本日最後で他に誰もおりませんので、是非ごゆっくり寛いで下さいね。しっかりと施術して欲しい箇所や、何処か触ってほしくない箇所はございますか?」
「あ、いや……特にないな。俺はよく分からんし、プロに全部任せるよ。」
「畏まりました。では宜しくお願いします。」
終始斜め下を眺めて終わった質疑応答の後、清水さんは椅子の下で何やらごそごそし始めた。
「ではお椅子倒しますね。体勢お辛くないですか?」
「……ああ、問題ない。」
俺が座るこの椅子はどうやらただのソファーではなく、リクライニングチェアだったらしい。ガッツリと背もたれを倒され、足元にはこれまたふかふかな足置きが用意され、気づけば俺の体はすっかり仰向けに寝かされている状態になっていた。
うん、真上のグレーの天井しか見えないな。
「お目元にタオルを失礼します。」
そうして目元にまたまたふかふかなタオルをそっと置かれ、俺の視界は完全にシャットダウンされた。
もはや何にも見えないな。仕方ないしこのまま目を瞑ってしまおう。
「では始めます。力加減の調節等はいつでも仰ってくださいね。」
急に清水さんが小声になった。さっきまでの圧しの強さは何処へやら。
「………ああ………」
視界まで奪われ、俺の体は完全に睡眠体制に入ってしまったようだ。いよいよもって返答が面倒くさい。
はてさて、ヘッドスパとは初体験な訳だが、一体何をされるのやら。
「失礼します。」
視界を奪われた俺の耳元で静かに囁いた彼女は、俺の頭皮に直接触れてきた。思わず背筋がビクッと反応してしまった。
「あ、痛かったですか?」
「あ、いや……少し驚いただけだ。」
「そうですか。何かありましたらすぐに仰って下さい。」
「ああ……」
それから清水さんは無言で施術に集中し始めた。
慣れない現状になかなか落ち着かず手持ち無沙汰な俺は、感触で彼女の動きを追うことにする。まな板の上の自分が何をされるのかも興味があるしな。
つむじをそっと押したかと思えば、こめかみを押し、そこから上昇方向に頭皮を引っ張り伸ばしていく。
伸ばした後は、ぐいっと手を大きく開いて広範囲の頭皮に圧を加えていく。
時おりタオルの上から額や目の回りも優しく指圧される。
ツボ押しとストレッチを混ぜたような動きなんだな。
「うわぁ……ほんとにすごいお疲れですね……」
清水さんの会話とも一人言とも取れる呟きが、俺の耳をくすぐる。やめてくれ、可愛らしい女性の囁き声が耳元に来るのは、なんだか照れ臭い。
「肩回りも失礼しますね。」
頭皮から離れた彼女の腕が、俺の背中と椅子の背もたれの間にするりと入り込んできた。半袖の下の細い腕の感触が、俺の背中越しに伝わってくる。
そのまま肩甲骨の辺りをグーっと引っ張り上げて伸ばされた。そして上に伸ばしたり回したり、時に指圧したりと、様々な動きで肩を刺激される。この細い腕のどこに、こんな力があるのだろうか。
バキッ!!
「あ……なんかすげぇ音が……」
さすが日頃から痛めつけられている我が肩だ。数分のストレッチだけで、なんかえげつない悲鳴を上げた。
「ええ、凝ってますねぇ。もしかして普段猫背でパソコン仕事してたりしますか?」
「……たしかに姿勢は悪いかもな……」
「姿勢を正すだけでも、首肩のお疲れが軽減されますよ。日頃から、意識してみて下さい。」
何分が経過しただろうか。再び頭皮や目の回りを集中的に攻められ、俺はゆったりと流れる時間と心地よい刺激を堪能していた。
「じゃあ次、腕回りいきますね。」
相変わらず刺激的な彼女の囁きを聞いたと同時に、肘下の骨回りをゆっくりと押された。
「ああ、そこも痛かったんだよなぁ……」
「ここも、デスクワークの方は疲れやすい箇所ですね。デスクの高さが合ってなかったり、キーボードと体の距離が遠すぎるのが原因だったりしますね。」
さっきまではあんなに照れ臭かったボリュームを落とした彼女の声すらもが、今では心地よくなってきた。
「へぇ……」
ああ、マジで気持ちいいな。彼女の言う通り、このままここで熟睡してしまいそうだ。
「……!!」
すっかり油断していた時だった。
徐に、再び彼女が手を握って恋人繋ぎをしてきたのだ。今度は一体何なんだ?!エステってのは、そんなに何度も恋人繋ぎをするものなのか?!!
唐突に与えられた柔らかい感触にどぎまぎしつつ、なんとかそれを表に出さぬよう全神経を集中させた。目元が隠れてて助かったぜ…
何をされるかと思ったら、清水さんは絡ませた俺の指をグッと引っ張った。引っ張って、また指を絡めて、伸ばして、手のひらを押して。
彼女の小さく柔らかい手が、俺の右手の上を動き回る。どうやら指先と手のひらの施術だったらしい。
そりゃそうだよな……何を一丁前に青春のようにときめいてたんだ、俺は……
それから左腕、左手、再び額……と細かく施術箇所を変えながら、引っ張ったり伸ばしたり押したりと繰り返していく清水さんの動きを、俺は薄らいで行く意識の中で追いかけていた。
ああ、ここに来るまで俺の脳内を占めていた事柄がどんどんと抜け落ちていくようだ。だんだんと、思考も鈍ってきた。
こんなのは、あんなに恋い焦がれた家の布団ですら味わったことがないな………
「お疲れ様でしたー。タオル外しますね。」
自分でも気づかぬ内に、すっかり眠っていたらしい。
ハッと意識を取り戻した時、そこはもう現実だった。
再び合間見えたグレーの天井と、俺の左側に立っている清水さんが俺を出迎えてくれた。
ん?いつの間に60分も経ったんだ??んで、俺はいつの間に寝てたんだ??
「どうですか?ゆっくり休めましたか?」
「ああ……とても……良かったよ……」
現実と夢の区別も付かないほどにはリラックスしていたようだ。俺は自分の頭をそっと手で押さえた。
なんだかすごく頭がボーッとする。しかしとても、心地よいぼんやり具合だ。
「お椅子戻しますね。お飲み物、こちらからお好きな物をお選びください。」
対して清水さんは60分の疲労も全く見せずに、ハキハキと椅子の角度を戻し、俺に何か紙を見せてきた。
再び着席状態になった俺は、のっそりとそれを受け取ってマジマジと見てみると、そこにはお茶やらコーヒーやらのドリンクメニューが書かれていた。いや、喫茶店かよ。
「あー……じゃあホットのほうじ茶で。」
「畏まりました。ちょっとお待ち下さい。」
俺がずっとぼんやりとしている間に、一度退室した清水さんが何処からかサイドテーブルとマグカップを持ってきてくれた。
俺はふっかふかの椅子に座ったままカップを受け取り、溢さぬように気を付けつつ有り難く戴いた。
……お、適温で美味い。
清水さんも隅にあった小さな椅子を持ってきて、俺の横に座る。
「いつもは次のお客様の為にお部屋をすぐ空けなきゃいけないんですけど。今日はもう誰もいませんし、ここでゆっくりとアフターカウンセリングをしちゃいましょう。施術は如何でしたか?痛いところとかありませんか?」
「大丈夫だ。…とても気持ち良かったよ。」
「やったあ!良かったです!!頑張った甲斐がありました!!」
清水さんは自らの胸の前でパンっと手を合わせ、実に嬉しそうに上体をぴょこぴょこ揺らし始めた。
さっきまでの落ち着いたトーンは何処へやら、だ。
「施術した感じですと、やっぱり全体的にお疲れでした。首肩も、腕も、サービスで少し触りました膝下も。しかし一番お疲れなのは、ここと、ここですね。いつも色々と考え事してて脳が休まっていない証拠です。」
清水さんは右手で自分の額、左手で目の真下を押さえて見せた。たしかに、施術中一際よく押された気がするな、その辺り。覚えている限りだが。
「意外だな……自分じゃ、肩や腕の疲れの方が辛いと思ってたんだが。」
「あ、そこも酷かったです。どこもかしこもカチコチでした。おうちでちゃんと湯船に浸かってますか?」
「いや……忙しくてそんな暇は……」
「ですよね。そんな感じのお体でしたもん。でも、休日だけでもお湯に浸かると、大分変わってきますよ。体を温めてから寝ると、より熟睡できますからね。」
「ふむ……」
以前までの仕事に追われる俺ならこんな助言など当てにせず、一刻も早く布団に潜り込む生活を選んでいただろう。
しかし、俺は知ってしまったんだ。
如何に自分の体がボロボロなのか、そして如何に癒しの効果が絶大なのかを。
「一日二十分でもいいですから、ゆっくりお湯に浸かって、寝る前にはスマホやパソコンは出来るだけ見ないようにして、頭を空っぽにして寝るんです。そうしたら熟睡できる時間も延びますし、朝すっきりと起きられますよ。」
「空っぽって言ったってなぁ……」
飲み終えたマグカップをテーブルに置きながら、俺は考え込んでしまう。
終わらない書類の山や売らなければいけない大量の商品など、俺の脳内に潜む悩みの種が尽きることはないだろう。それらを追い出すなんて、そんな簡単に上手くいくとは思えない。
考え込む俺の姿を見て、清水さんは三度俺の手をぎゅっと握り締めてきた。三度目ともなればもう驚かないぞ。ビクッとしたりしてないからな!
「お仕事について考えるのは、お仕事の時だけでいいんです。お休みの時まで、頭を忙しく働かせる必要はないんですよ。お仕事のパフォーマンスを上げる為にも、休む時はとことん休みましょう?ね?」
「清水さん……!」
彼女の無償の優しさが、疲れ切った俺にひしひしと沁みてきてなんだか泣けてきた。
「お体を触れば分かります。いつもお仕事に一生懸命なんですよね。本当にお疲れ様です。でもお仕事で頑張って疲れたら、好きな事をして好きな物を食べて、ゆっくりお風呂入って、ひたすらにリラックスしていいんですよ。そうやって心とお体をほぐしてあげて下さい。あ、もし余裕があれば、また当店にもお越し下さい。回数を重ねれば重ねるほど、よりお体が楽になりますよ。」
「清水さん……」
無償の優しさかと思ったら全く違ったぜ!バリバリ下心ありだったぜ!!
「しかしたしかに、今日一回だけでもなんか頭が軽くなった気がするし……何よりめっちゃ気持ち良かったからな……また来るよ。」
「ありがとうございます!!是非、お待ちしてますね!!」
未だに俺の手を握ったままの清水さんは、今日一番の眩しい笑顔でこちらを見てきた。曇りのない笑顔というのはこういうのを言うのか。……マジで可愛いな。
「こちらこそありがとう。来てよかった。おかげで今夜はゆっくり寝れそうだ。」
ここに迷い込んでくれた一時間と数分前の俺、マジで感謝だ。おかげで素晴らしい癒し達に出逢えたぜ。
「んじゃあそろそろ帰るよ。」
名残惜しいが清水さんと繋いでいた手を離した。ああ、柔らかくて気持ち良い手だったな……
あまりに名残惜し過ぎるから、早速次の休みにまた来るとしよう。次の休みがいつか定かじゃないが。
「はい!あ、ではお会計6,860円でございます!」
……前言撤回だ。金に余裕が出来たら、また癒されに来るとしようか。
あの時、君が指を絡めてきたから。 黒嶋珱玻 @krshimaeiha
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