第145話エピローグ「北の大地へ……ひとり旅で行くはずなんだけど」

「お、俺の行き先は! ステファニー様には、ぜ、絶対内緒にしてくださ~いっ!」


「OK! あはははは、達者でな~~っ!」


そのような、クリストフ・シャレット伯爵とのやりとりがあり……

 

手早く旅の荷物をまとめ、出国手続きをしたディーノは、

その日のうちに、速攻で荷馬車へ乗り、既に北の大地へと向かっている。


御者台で手綱をとるディーノは、ふとフォルスを出発した事を思い出す。

あの時と、状況は似ていると苦笑する。


さてさて!


この荷馬車は、ディーノが先日山賊退治の際にも使った荷馬車である。

某大手商会が考案した旅人には使い勝手の良い、馬1頭が付いた、

便利なレンタル荷馬車なのである。


各国各都市に営業所があるその商会は、レンタル時に馬車の保証金を余分に預かり、返却時に保証金を返すというシステムを思い付き、採用していた。


全ての営業所にて、乗り捨て、乗り換え自由な荷馬車は、

旅人の間で口コミにより、あっという間に広がり、大ヒット。

今やその商会の基幹商売として、誰もが知る存在となっている。


その荷馬車をディーノは昨日のうちに、確保していた。


ガタゴト、ガタゴト、車輪をきしませながら、

北への街道を荷馬車は走る。


ふと思う。

馬車に揺られると、旅に出たという実感が湧いて来ると。

 

この荷馬車には……

王都の正門を出てから召喚された第一形態のケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟、そしてジャンも黒猫の姿で同乗してしいた。


3人の戦友は、笑っている。

ステファニーの一件を聞いたからだ。

特にジャンは身もだえし、腹を抱えて爆笑していた。


『呆れたを通り越して、マジで傑作な話だな』

『おう! 兄貴、その通りだ!』


『ぎゃ~っははははははははははっ! サイコ~、可笑し過ぎてもう死ぬ~っ!』


『んだよ……そんなに可笑しいかよ?』


と、渋い表情でディーノが3人へ尋ねれば……

ケルベロスとオルトロスは、


『はっ! あの女、やっぱり壊れている。発想がぶっ飛んでる』

『おうよ! 兄貴の言う通りだ。どこの世界に結婚相手を捕獲ほかくして、オーガ用の檻に入れ、連れ帰る女が居る? 絶対他には居ねぇ!』


そして、ジャンに至っては「ざまぁ」がさく裂している。


『ディーノぉ! この前、俺様の事をあの猛女のペットにするだのなんだの言って、大笑いしただろ? そのむくいにバチがガーンと当たったんだよぉ! ぎゃ~はははははははははっ!』


結局は、呆れ顔のケルベロスに諭される。


『まあ、いろんな奴に言われてて、ディーノ、お前も自覚と言うか、骨身にしみているだろう……しかし、大事な事だから、敢えて念押しし、再び強調しておくぞ』


『念押し? 再び強調?』


『いくら美人でも、あの女だけ・・はやめとけ! 絶対、地獄が待ってる!』


『りょ、了解っ!!!』


戦友の忠告を聞き、大いに納得したディーノは、

首を「ぶんぶん」縦に動かしていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ロドニアへの道中は、途中まで、魔物や山賊など、外敵の襲撃もなく……

荷馬車は順調に走り続けた。


ポミエ村へ入る村道を通り過ぎ、ディーノは「ほう」と軽く息を吐いた。

少し迷ったが、結局村長セザール以下村民達には顔を見せないと決めた。


あの激戦から2週間が経ち、村がどうなっているか……気にはなった。


だが、村民達から『オレリアとの仲』を突っ込まれると、

かえって良くないと思ったからだ。


何故ひとりで旅をしているのとか?


里帰りでオレリアを連れて来ないのとか?


いよいよ結婚するのか? 等々……


まさか『冷却期間』を置くと宣言し、離れているとは言えない。

村民達の間にあらぬ誤解を生み、話がややこしくなる。


前向きに生きる決意をした者達へ、いたずらに水を差したくはない。


しかし……

もうまもなく陽が落ちる。


ディーノはポケットから王都で買った地図を取り出し、眺めた。

ざっくりと計算する。

……ポミエ村から先の村までは、馬車でも2時間以上かかると。


となれば、今夜は……『野宿』が確定である。


地球の中世西洋期同様に、この世界の旅は大きな危険を伴う。

魔物、山賊等害を為す者が跋扈ばっこしていた。

商隊は屈強な護衛を伴うのが通常であった。


ひとり旅で野宿など、常識外れ以外の何ものでもない。


しかし今のディーノには『頼もしい戦友』が3人も居る。

ゴーレムを呼び出す地の究極魔法、悪魔をも倒す2属性の魔法剣など、

身を護るすべも充分ある。


襲って来る敵にもよるが、魔族の最高位たる悪魔とも渡り合ったディーノだ。

不安は殆ど無い。


今や、この世界で唯一怖いのはステファニーのみ?


と、まあ冗談はさておき……


「とりあえず、早めに良い場所を確保し、キャンプを張ろうかな」


荷馬車の御者台で、馬を巧みに導きながら、

解放感に満ち、うきうき気分のディーノは、そう決めていたのだったが……


その時!


好事魔多し!

油断大敵!


ぱからっ! ぱからっ! ぱからっ! ぱからっ! ぱからっ!


と馬のひずめの音が鳴り響き、一頭の駿馬がディーノ達の馬車の真横に止まった。


馬上には何と何と!!


ステファニーが居る!!


「ディーノ! 追いついたわよ! 言ったでしょ? 『ラスボス』からは絶対に逃げられないってね! さあ! 楽しい、楽しい、修行兼、愛の婚前旅行の開始よっ! 」


と、大きな声で叫んだ。


何という執念!


この人は、そこまで、自分を愛しているのか……

本当にステファニー様は、俺にとって人生の『ラスボス』かもしれないなあ……


ポミエ村で、初めてステファニーの『本音』を聞く事が出来た。


自分が「覚醒した」「変わった」と言われたが……

ステファニーも変わって来たと思う。


言葉は相変わらず乱暴できつかった。

だが……

先頭に立って、戦い、村民を守り抜いたのは見事だ。


そして、ニーナ、オレリア、

鋼鉄の処女団アイアンメイデンからなる大勢の女子達を、

ディーノの妻として、ルサージュ辺境伯家の家臣として、全員の面倒を見る!

と、言い切ったのも、器が大きくて素敵だ。


「ここまで、ひとりで追いかけて来るとは……負けましたよ、ステファニー様」


覚悟を決め、苦笑するディーノへ向かい、ステファニーは真剣な表情で、


「私、ステファニー・ルサージュはルサージュ家を継ぐわ! そして、ディーノ・ジェラルディ! 貴方に当主になって欲しい! 私は良き妻として貴方を一生支え、添い遂げる!」


と言い放ち、更に更に、


「私は約束する! もっと素直な女になる! 貴方を愛し続ける! 貴方の妻となる王都の女子達の面倒も、まとめてみる! そして今度こそ! ディーノ! 大好きな貴方を、最高にときめかせてみせる!」


と、愛の約束宣言とともに、勝利のVサインを突き出したのであった。


※今回のエピソードが本作の最終話です。

ご愛読ありがとうございました。

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気が付いたら下僕!隙あらば支配!追放大歓迎!実は脱出!マウントポジション大好きな悪役令嬢よ、さようなら!の俺が幸せになるまでの大冒険物語! 東導 号 @todogo

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