第144話「超!危機回避の旅立ち②」

北の地へ向かうという、ディーノのプランを聞き、

騎士隊隊長クリストフ・シャレット伯爵は満足そうに頷いた。


「成る程、良いかもしれん、ロドニアは力を信奉する国だ。今のお前なら、赴いても問題はなかろう」


「そうですか」


ディーノが答えると、何故かクリストフは「にやっ」と笑う。


「だがディーノ、ロドニアは男も女も熱い! とても熱いぞ!」


「ロドニアが? 熱い?」


「うむ、はっきり言って、ロドニアは我が王国より遥かに激しい国民性だ。おどおどなよなよしていると、完全に舐められるぞ」


亡き父からも、ロドニア王国に関しては、同じような話を聞いた事がある。

ディーノは少し緊張し、噛みながらも返事をした。


「りょ、了解です」


「ロドニアへ行くのなら、我が王国騎士隊の食客というよりも、ランクAの若き才長けた冒険者、という肩書きで行く方がベストだ。国絡みとか、ややこしくなくて良い!」


「はい」


「お前は亡き父から聞いて知っているだろうが、冒険者ギルドの支部は世界各国の主要都市には必ずある」


「確かに……」


「ロドニアの王都ロフスキの支部でランクAの登録証を見せれば、お前には、すぐオファーがあるだろう」


「お話、いちいち参考になります」


「はは、気を付けて行って来い!」


「はい!」


と話が終わりかけたところで、ディーノはまだ気になる事があった。

ステファニーの現状である。


「あ、あの……」


「何だ?」


「あれから2週間経ちましたが、ステファニー様はどうなりました? 公爵閣下に謁見するとの事でしたが」


「む、ステフィか?」


「はい」


と、ディーノが答えれば、クリストフは破顔した。


「おお! 気になるか? そうかそうか、ふふふ、愛する婚約者だものなっ!」


クリストフは悪戯っぽく笑っている。


最初に話した時と違い、

ディーノとステファニーの微妙な関係を認識しているからだろう。


「いや! 違いますって! ステファニー様が、公爵閣下へお願いした結果が知りたいだけですよ」


クリストフは完全に面白がっていると、ディーノは感じる。


まあ、良い。


もうステファニーへは2回目の「ざまぁ」をして、縁切りしたのだから。


さあ、伯爵の話を聞こう。

それで、全ては終わりだ!


「ははははは! 安心しろ、ディーノ。ベルリオーズ公爵閣下は基本、ステフィの願いをご了承された」


「おお! 公爵閣下がOKされましたか? 良かったですね」


「うむ、お前のお陰だぞ」


「俺のお陰……なのですか?」


「ああ、お前の思惑通り、今回の了承はポミエ村における功績が大きかった。閣下も、とてもお喜びになっていたぞ」


「やっぱり……という感じですね」


「うむ! そもそも辺境伯は王国の外敵と戦う頻度が高い。父クロードより遥かに強いステフィなら文句なしだと仰られた」


「な、成る程!」


「……後は、陛下の弟君でいらっしゃる宰相ジェルヴェ様へお伝えし、更に国王陛下が最終決定されると、確定だ。まあいろいろと準備に時間を要するから、正式にステフィが跡を継ぐのは3年後くらいにはなるがな」


「おお、それは、良かったです! ……じゃあ、伯爵! ステファニー様は、決定が出たら、大人しくフォルスへ帰りますよね?」


「うむ、決定が下りればさっさと帰るだろう。だが……」


「え? だがって……」


「うむ、ステフィはこうも言った」


「え? ステファニー様が、い、一体! な、何を言ったのですか?」


「ああ、こう言ったぞ! 絶対、ディーノ・ジェラルディを自分のムコにすると!」


「な!?」


「そう公爵閣下の前で、息巻いきまいた」


「げげっ! 息巻いた? 公爵閣下の前で!?」


「おお! 公爵閣下も怒らず笑顔で了解されたぞ。ポミエ村でのお前の大活躍を、私やステフィからお聞きになったからだ。それほどの強者なら、平民でもぜひルサージュ家のムコに取れと仰った」


「なななななっ!? お、俺をルサージュ家のムコに!? ス、ステファニー様の!?」


「そうだ! 他に誰が居るというのだ」


「…………」


「残念だが、公爵閣下のOKがあれば、私は介入出来ない。父親のクロードもお前とステフィの結婚に反対出来ないだろうよ」


「えええええっ!?」


やはりステファニーは、超が付く負けず嫌いだった。


「クリスおじさんが駄目」ならばと、上席の公爵へ直訴したのだ。

そして、いろいろな約束をなし崩しにして、寝技へと持ち込む。

超が付く策士である。 


「とまあ、このような話の流れにはなったが……公爵閣下は、ステフィのムコは絶対にディーノだと厳命はしておらぬ、そこだけは安心しろ」


え?

俺指定じゃなく?

他の誰かでもOKって事?


ディーノは、安堵した。

それならば、何とかなると!


大きな喜びが、ディーノの心身に満ちあふれる。


「よ、良かったぁ~」


「だが!」


「え? また、だがですか?」


「うむ! また、だがだ! 安心するのはまだ早いぞ」


「え? 安心するのはまだ早いって? どういう事ですか、伯爵!」


「お前、相変わらず、この話は察しが悪いな」


「えええっ? 察しが悪い?」


「おう! 以上の話でさすがに分かるだろう? ステフィはお前をあきらめてはおらぬ。かえって真逆まぎゃくなのだ」


「か、却って、真逆う!?」


「例えれば! ステフィのお前への恋心は、まるでマグマのように! ますます、どろどろと煮えたぎっておる!」


「うっわ!! マ、マ、マグマのように、ますますどろどろとぉ!? そ、その表現は怨念みたいで、すっごく嫌です!」


「うむ! このままお前が王都に居れば、許可が下り次第、必ず捕獲ほかくしに来る!」


「か、必ず!? ほ、ほ、捕獲う!? お、俺をですかっ!?」


「ああ! 100%間違いない!」


「100%……間違いない!?」


「うむ! ステフィは某商会へ、大至急作れと命じ、発注していた」


「大至急作れって? な、な、何をですか?」


「大型オーガが大暴れしたって、びくともしない、壊れない、超頑丈な特製魔法檻とくせいまほうおりをさ!」


「げっ、ま、まさか!」


「おう、そのまさかだ! この特製魔法檻とくせいまほうおりは間違いなく、ディーノ、お前用だぞ」


「お、お、俺用!?」


「お前をその檻に入れ、絶対に逃げられないよう閉じ込め、フォルスへ連れ帰ると笑っていたぞ」


「げげげっ!」


「だから、ステフィに捕まらないうちに、早く旅立った方が良い! ははははははっ」


はあ!?

大型オーガ用の特製魔法檻とくせいまほうおり!!

それに入れられて、フォルスまで、ドナドナ!?


ヤバイ!!

じょ、冗談じゃないっ!!

さっさと旅立とう!!!


ディーノは盛大に噛みながら、大声で挨拶する。


「じゃ、じゃ、じゃあ、俺!! そ、そ、そろそろ!! ししし、失礼しま~っす!!!」


「おう、もうくのかじゃなくて、くのか?」


「は、はいっ、行きますっ! は、伯爵様! もうひとつだけお願いします」


「もうひとつだけ? おう、何だい?」


「お、俺の行き先は! ステファニー様には、ぜ、絶対内緒にしてくださ~いっ!」


「OK! あはははは、達者でな~~っ!」


そのような、やりとりがあり……

超が付く危険な情報をゲットしたディーノは、

命からがら回避し、その日のうちにすぐ王都を脱出したのである。

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