第143話「超!危機回避の旅立ち①」

「俺は旅に出て、またこの王都へ戻って来ます。必ず!」


「よし! 行って来い! そして必ず戻って来い! 約束だぞ!」


「はいっ! 約束しますっ!」


大きな声で、返事をしたディーノは、

次のステップへ踏み出そうとしていた。

 

約2週間、思い悩んでいた分、決断したらディーノの行動は素早かった。

 

翌朝……

仕入れの為に赴いた市場から戻った、朝食の席で……

ニーナとオレリアを含めた飛竜亭スタッフへ王都を旅立つ事を告げた。

生まれ育った王都へ、いずれ必ず戻って来る事も……

 

ディーノの突然の決意を聞いたニーナとオレリアは、

とてもびっくりしていたが、「飛竜亭で待つ」と返してくれた。

ただ、聞いたところによれば、オレリアは故郷のポミエ村を懐かしんでいるようだ。

彼女は、故郷で暮らした方が良いかもしれないとディーノは思った。

しかし今は『その話』をするタイミングではない。


次にディーノは、冒険者ギルドへ向かった……

向かう道すがら、ジャンへ連絡を入れる事を忘れない。

午後早めに隠れ家で落ち合おうと伝えた。


ギルドへ到着後、ミルヴァ、ブランシュ、そしてネリーと続けて会い、

旅立つ事を告げておく。


3人とも、突然の旅立ちに驚いていたが……

結局はディーノを熱く励まし、力付けてくれた。


さてさて、長旅には相応の支度が必要となる。

ディーノは必要な買い物をする為に、ギルドへ預けておいた『報奨金』を引き出す。


その際ネリーへ、お願いした。


クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンメンバー宛に、旅立ちの伝言を託し、

更に金貨を100枚ずつ、彼女達の口座へ振り込むようにして欲しいと。


そもそもディーノから、ステファニー達へ金を払うのは筋違いである。

オレリアの祖父、ポミエ村長のセザールから受け取るべきである。

だが、戦役の『ご苦労様代』の報奨金として、渡さずにはいられなかった。


そんなこんなで、冒険者ギルドを出たディーノは、ジャンの隠れ家へ向かう。

ジャンから渡された合鍵で中へ入り、ケルベロスとオルトロスを召喚し、いろいろと事情を説明し、待機する。

やがてジャンが現れると、4人はいろいろと話し込む。

 

戦友3人は、基本的に旅は大賛成。

ディーノの決意に賛同してくれた。

 

否!

賛同どころか、大賛成し、血沸き肉、心も躍ると大喜びしてくれたのである。


その後、ディーノは、ラバン商会や各商店で買い物をする。

ラバン商会にはディーノと共に、

フォルスから旅をして来たブノワ・アングラードが居た。

なので、彼にも王都から旅立つ事を告げておく。

 

ブノワは笑顔で旅立つ事に賛成してくれた。

そして、「何か珍しい魔道具等を買ったら、高値で買い上げる」

と言われたので、ディーノも笑顔で了解しておいた。


最後に訪れたのは……

王都騎士隊の本部である。

幸い、先日話した隊長のクリストフ・シャレット伯爵は隊長執務室に在室。

たまりにたまった事務作業を処理していた。


当然、警備は厳重であったが……

楓村戦役の件で、ディーノは多くの騎士に顔を知られていた。

簡単な確認のみで、あっさり執務室へ通された。


警備の騎士が執務室の扉をノックし、用件を伝えると、部屋の中からは、

即座に入室OKの声が戻って来る。


「伯爵様、失礼致します」  


返事から間を置かず、入室を告げる騎士により扉が開けられ、

中には重厚な造りの事務用の机で作業をしているクリストフの姿があった。

 

警護の騎士は、クリストフからすぐ下がるように命じられ、廊下へ去って行く。


ディーノが部屋へ入り、扉を閉めると、クリストフは作業を中断し、

顔を上げた。


「おう、ディーノか、どうした?」


「伯爵様、こんにちは! 先日は、ギルドへお口添え頂きありがとうございます」


ディーノが礼を告げると、クリストフは手を「ひらひら」と横に振った。


「なんのなんの。どちらにしても、ギルドへ報告は入れないといけなかった。……そういえばミルヴァからは聞いたぞ、ランクAになったそうだな、おめでとう!」


「はい! 何とかランクAになりました」


「あはははは! 彼女に対し、互角……いや優勢に戦ったと聞いた。やはりな、私が見込んだ通りだ」


「そんな……ランクアップしたのは伯爵様のお陰です。深く感謝致します。実は、今日、お伺いしたのは、思うところがありまして……」


と言う会話から始まり、ディーノは用件を伝えた。

クリストフは納得し、笑顔で頷く。


「……成る程、早速旅に出るのか? 冒険者としての武者修行か?」


「まあ、そんなところです」


「ふむ、行くあてはあるのか?」


「いえ、特には……でも、とりあえず北へ向かい、世界でも有数の大国と呼ばれるロドニアでも見てみようかと思います」


「そうか……ロドニアか……良いかもしれんな」


北の地へ向かうという、ディーノのプランを聞き、

クリストフは満足そうに頷いたのである。

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