第4話 リアリストときむちちゃん。タヲ・タガヤスナァ!


「あなたは……どうして……」


エチルが、熱く語る彼を悲しそうに見た。


「今は、無い、『街』に僕は居たんだ。

ロマンチストの執拗な

『ラブコール』で住民が殲滅した街。

僕だけが生きた。生きさせられた、僕はリアリストの素質があったから。彼らの押し付ける夢が、偽善に満ちた『愛』が、僕は受け入れられなかった、理解が出来ず、一人だけ、吐いた。耳を塞いだ! 『気持ちが悪いからどこかに消えてくれ』 と、僕は、訴えた。


なぜ『僕だけだった』のかはわからないが、とにかく、彼らから逃れた。


しかし今度は洗脳が聞かないとなると激昂した。ロマンチストがじゃないぞ。

当時の市長や、この国の、政治家! 今でいう、擁護派だ!


生き延びたあと、街が支配されていたことを、僕は知った。


周りの生きた人間もみな、僕を罵り、執拗なまでに迫害しはじめた。

街に居場所はなく、街のお偉方や関係者からも付きまとわれる!

その真相は秘密裏に人間を宝石に変える計画が彼らの資金源となっていたから! そして、僕のいた街は『予算』!

僕が死ななかったせいで『予算』は欠けた!!!


知らなくて良い事実だけが密かに知られた。


 その復讐ってわけだ。


生き延びても、どこも歓迎しなかったよ。


資金源と関わりを持つと、うっかりボロがでてバレてしまうかもしれないから、やましいところがあるやつは無視を決めているらしい。そしてこの街の半数以上がやましいというわけだ!そのあとは、わずかにいる『やましくない』人探しだった。


街や、街に根強く知り合いがいる人たちは政治家なんかと繋がりがあったり、金をもらっているから当たりがきつい。

みんな金さえあれば黙るから、簡単なことだ。


それでも存在した、わずかな人間は『リアリスト』を築いた」



彼はリアリストという生きざまに人生を賭けている。

その姿に、なんだか私は胸を締め付けられるようだった。


「あの。その武器は」


私は恐る恐る、今シリアスから出来そうになっていた沈黙を破った。


「このマジカトラリーナイフは、『幻想』を『斬る』

リアリスト『炎たる意思』!!」

どんっと彼が胸を張る。


「これは、寄生物を倒すべく、リアリストの技術の粋を集めて独自開発したものだ。

ロマンチストが嫌う周波の音や、彼らが触れた際に身体を溶かす光を出す性質を持っている」


「おおおっ、すごい!」


私たちは三人パチパチと拍手を送る。


「ただし、救護対象が、寄生されている場合はまれに人間の精神にまでナイフが触れてしまう諸刃の剣でね。今回は運がよかったよ」


「ううん、私たちの方こそ」


エチルが首を横に振った。

短剣、を戻したスプーンをそっと前へ向ける。


「このマジカトラリースプーンは『救いの意思』博士がつくったのよ。いつも、これで、この街を守っている。

催眠を増幅させ、望む夢を見させるためのもの。


ただあまりに強い憎しみには曲がることがある」


「なるほど。夢を見させ、夢の中から救うためのスプーンでは、夢自体を切ることはできなかったわけか……ところで、博士といったか」



2019 4月15日23:40


「そうだよ、あたしたちの博士!」


アリンが少し強気な口調で答える。それから悲しげな顔をした。


「いっとくが……あたしは、博士が化け物にしたなんて、思っちゃいないからな、ちょっと強い、特別な学生になった」


エチルは何か言うでもなく、アリンを見ていた。

それは暗示でしかない。

本当に心から感謝しかないのだったら悲しい顔をしなくていいのだ。

だけど、誰も、言わなかった。言ってもどうしようもない。


「あぁ、わかった。君たちの博士に無礼な真似はしない」


ちらっと彼はアリンが腕に巻き付けている包帯を見た。


 私も、気にはなっていた。

普段は武器や拘束などに自在に操るそれだけど、もしかするとそれは『別の具現』だということなのだろうか。

エチルのあのサイミンも。


「……なぁ、ところで」


と、彼、は口にした。

『私』を指差して。


「お前たち、コレは、切っていいのか?」0:07

エチルとアリンが目を丸くして見た先には、一人の少女が居た。

身体は透けている。


「……あら」


「まあ」


二人はそれぞれぽかんとした反応をする。


「これは、リセちゃん?」



「え?」


少女が首をかしげるとアリンは困ったように私を見た。


「まあ、でも、似てるな」


 理性、というのは私の家族の口癖だった。だから、とっさに口をついて出た。

知らない人に名乗っちゃいけないっていうし。


「知り合いか」


目の前の少年が二人に確認をとる。


「えぇ、たぶん」


エチルはポケットから、あの針の無い注射器を取り出す。

中にはほんのわずかに何か液が入っている。

え?

え、私、吸収されちゃうの?

目の前で『引き金』みたいに構えたそれが、一気に引かれると私の身体に『薄い黒』が付着した。


「――やっぱり、死なない」


死!?

いや、まって、身体がなんだか燃えるように熱い。

なにこれ、死なない、というより今から死ぬのでは!?

平気なの?

なに、今のは毒ですか!?


私が慌てているうちに、アリンが近くまできて、包帯で私を巻いて、すぐ離れた。


「――?」


「包帯では、絡めとれないみたいだな」


「ふむ」


リアリスト、がナイフを構える。

(12:495月5日)




それ確か、幻を切ることができるけど人は切れないやつだ!でもたまに精神まで切れるやつだ!


グサッ。

キャアアアアアア、と悲鳴を挙げる間もなく刺されたが、あっけないほど、痛くなかった。


「確かに、死なん。これは『リアル』だ。寄生物ではなさそうだな」


 みんなして私の身体になんてことしてるの。

何か確かめてるみたいだけど泣きたくなった。


「あなた、なんでここに」


「わ、わたしも、知らないわよ」


「幽体離脱みたいに、魂の一部が身体から、抜け出てしまう経験、今まである?」

「あるわけないでしょ」


「これも博士が前に言ってた、ワクチンの『副作用』かもしれないな」


アリンが神妙な顔をして呟くとエチルも「そうかもしれないわね」と納得を見せる。


寄生物が人に完全に適することはなかったということ、運命がそれを選ぶしかなかったこと、アリンが何か辛そうな表情な理由もそこにあるようだ。


「まあ、細かいことは、これから戻るから聞きましょ」


「だな!」



ここで言い合ってもらちが明かないと判断して、二人はうなずきあう。少年は、博士に会うのが楽しみなのか少し足取りが軽い気がした。


13:35

 エチルによると、さっきのは寄生物を刻んで結構薄めた液体らしい……

普通の人間は数分間発狂し、幽霊は『寄生物が』実体化(ただし弱い、数分間)するというが、私はどちらでもなかった。


「いや~、幽霊なんだか、寄生物なんだかってたまにわかんないのよね、ヒトガタだと特に」


「きむちちゃんのときは大変だったよな……」


アリンがげんなりした顔をする。緑河きむちちゃんというのは彼女のクラスの子だったという。


◆◇


アリンの頭に、

少し前の教室の風景が浮かぶ……



「きむちも!」


ハキハキした声が、クラスに響く。黒板には係委員決めの表が書いてあった。

行われた選挙は席順に黒板の、希望の委員に棒を書いてくるというやつで、

真ん前の席のきむちちゃん、はその月の間中ずっと『先に』書きに行かなかった。

誰かが、どこに票をいれるかを、きょろきょろ探している。

それがずっとなもんだから、みんながきむちちゃんに構わず、次々前へ出ていく。

素早く、まだ定員になっていない委員の『女子』の名前を見つけると……


「きむちも!」


 きむちちゃんは今まで、机からわざとノートをおとしたり、席のほこりを払ったりして巧妙で繊細な時間稼ぎをしていたのを放置して、素早くそっちに突撃する。


 きむちちゃん、独りになることが全く出来ない子だった。


 それで特に気に入っていたのが「さっさと決めてしまいたいしないならあまりでいいや」という感じのアリンだ。


係だとか「こういうもの」にたいしてはあまりこだわりがなかったため、争わなくて良さそうで特に人気が無さそうなところにさっさと書きに行く。

アリンは人付き合いもさほどしてなかったし、全てが面倒だったから。


「アリンちゃんが行くなら、きむちも!」13:33

アリンもアリンで、何もかも面倒だから「いいけど」と適当に頷いてたりしていた。

 むちちゃんの扱いは「教室に巣食う悪霊」

此処じゃ存在が不確定で、その癖に鬱陶しい。

「自立心をもって行動できない」というのは、既にある種の社会だった学校生活では何度も疎ましがられる。

 しかし本人は周りが悪いとしか思わなかった。

その無責任さを悪用して、何度も他人に絡んでいるのだから、友達、としては相手にされないと決まっていた。

 「きむちも!」をやらずに、居たことはない。

周りの視線や評価に耐えきれずに、教室を去るとかの神経は無くて、『彼女の思う友達』に強引に依存にする形――……


アリンは彼女のなかですでに『友達』だ。

周りのように否定しないから。

「自立もしない半人前以下の人間が、一人前だと思い上がってる」

「あいつ叩いても堪えないよな」


周りがボソボソいいながらも、アリンも常に一人でいるし、と、きむちちゃんとお似合いだと最終的に勝手に押し付けてしまう。

これが、この教室だった。5月8日9:21

いつも、放課後もアリンは遅くまで学校に居た。

家では引きこもりの姉が暴れているので、親が帰宅するまで校内にこもっているしかないのだ。

 引きこもりは、どんな言葉を使ったところで恵まれていることや、甘えには変わりがないことだと思う。


それはやっぱり仕方のないくらい、現実であって事実なのだ。確固たる差別だとも思う。


 彼女だってもうボロボロだったし、早く帰って食事をして寝てと平穏に一日を終えたいが、結局一日がギリギリ終わるまで外を歩く以外がない。

会いたくない友達のどんな視線んに晒されようが、どんな傷つくことがあろうが、足が固まって動けなくなるようなショックがあろうが登校している。

まともに黒板の文字が見えず、授業中に失神して、教師に寝ていると怒られたことも数知れなかった。


ぼやーっとした頭で、どうにかすみませんと発して、また起きる。

そんな一日が、その日も終わった。


「うわー、腕、傷だらけ!」



みんながいない教室で寝ていたアリンはきむちちゃんの声で、ハッと目覚める。


「ケガしたの? いたそう~」


「あぁ、うん……眠いから、寝ないように、腕を突き刺してるんだ」


2019/6/4/20:12



アリンは教室で常に過呼吸と失神を繰り返しながら、もうろうと授業を受けている。

腕を突き刺したり、カッターをさりげなく駆使して、授業を受ける以外がない状態だった。


「なんかいつもアリンちゃんて、青白いよね、ちゃんと食べてる?」


「あぁ……うん」


引きこもり、体力を回復する隙さえないことをアリンは恨んでは居ないが、仲良く会話する体力がないのも事実だったので、正直面倒だ。


委員会が一緒になったりすると、きむちちゃんはこうやって話しにくる。



なぜ帰らない!

帰って飯食えよ!

心の声は出さずに、自分と話したがる変な人物に内心引いていた。

2019.8.9.03.37



 恋愛に対してやがて国が強制力を持つようになると、生まれたのが『恋人税』だった。

恋愛は贅沢の一種であって、あらゆる格差も助長する。



――いわゆる美人やそれ以外、天才と凡人というのも恋愛の差から生まれる子どもによるものだから、これを取り締まれない限りに置いてはあらゆる保守が無力と言える。


 対象への差別などを国が責めたりしないで受け入れるかわりに責任を持って彼氏彼女その他パートナーの一人辺りに規定の恋人税を払うことが義務付けられた。

最初は導入に反対していた者たちもやがては恋人税を払う恋人に慎重になるようになったし。払うものだからとうかつな選択をするのは一部の富裕層だけになっていた。別れたい人とは、税金を理由にすることもできた。


 恋愛に反対するものたちも、している彼らに物質的な等価条件が存在する制度はわかりやすく、税金はやがて給料の代わりにもなるのでなんだかんだで受け入れるむきも増えていた。


恋人税は、主に結婚資金や育児支援などのサービスに使われる。

自由恋愛は見つかると罰せられ、それがまた、若き一部のものを逆に燃え上がらせた。


が。




「きむちね、アリンちゃんのこと、好きなの」



「はい?」


放課後の教室で二人きりかと思えばこの展開に、アリンは目をぱちくりとさせた。

戸惑いはした、だが、それを否定しやすいだけのありがたい台詞があるのは嬉しいことだった。

「恋人には、税金が必要だ!これは学生間でも本気であればかかる! そんな金ないし、勉強に集中したい」


「きむちの家、政治家なの」


「はい?」


「きむち、愛し合う二人が、お金を出すなんて、贅沢だなんておかしいって思う! パパが当選したら恋人税を撤廃させて、自由な恋愛するもん、だから無問題」



アリンはぞっとした。

きむちは本気なのだ。しかしその本気はどこか、おかしい。


「アリンちゃんときむちに、恋人税がかかるなんて、許せないんだから」



こういう人が居るからこそ、恋人税があって助かる、とアリンは逆に実感した。


恋人に税でもかからなきゃ、未来は保守できない。

今までの国は甘すぎた。

従来のストーカー規制じゃ追い付かないんだよ。表向き、ロリコンやショタコンの犯罪も減った、んだから」



きむちが変だ。


ねっとりとした、くもった目をして、アリンに近づいてくる。

「きむちちゃんは、長女だから、跡継ぎ問題で、税金が上乗せされるんだからさらに高いぞ……なんだその目」


ちなみに恋人税が一番高いのは長男だ。


「きむち、こんなロマンがない国はむりむりむりむり!」


「ロマンって、恋愛無法地帯が?」


そのとき、きむちちゃんの身体が、ぱあああっと発光した。8/2912:14

さっき携帯の電源が落ちたが……

アリンの目の前できむちはみるみるうちに牛へかわった。

背後にたくさんの人をつれている。


「いや。人なんか、居なかったぞ!?」


一瞬で、取り囲めるような複数の人間がわいてくるわけがない。先ほどまで視線をそらしたくて辺りを見渡していたアリンは、人が隠れて待機していたということもなかった、と思っている。


咆哮をあげたきむちちゃんが、何やら唱え始める。


「アイシテル……ヤッパリキライニナレナイカモォ!」



「国が決めた税金だっ! 恋愛には税金をかける、何にもおかしいことじゃないね。

そうでもしないと野生にもどっちまう」



アリンは、こんなやつを見たのは初めてだった、気がする。

不思議と懐かしい気がした。

何かを、呼び起こされるような…… なんだろう。

なぜか冷静で居る自分もあるのだ。12:56

牛が鳴くと、それに共鳴するように人が次々と現れる。

アリンは囲まれていた。


「どう、なって、やがる……今は放課後だぞ」


アリンはこんなにたくさんの人に囲まれたことはない。全員が敵意を持っているようだった。


「――――セッツ!」


びし、ときむちちゃんが指を、天井を指すように掲げ、降り下ろすとぞろぞろとアリンめがけて群れが手を伸ばしてきた。


「ひっ……」



彼女はただ怖いだけではなく驚いてもいた。

なぜか、その中に、引きこもりの姉が混ざっていたのだ!


「なん、で?  学校、来られる、のかよ……はは……」





ダイスキーーー!

スキスキスキスキスキスキ!!


気味の悪い甲高い声が、ばらまかれ、アリンの身体からかくりと力が抜けてくる。


「ぐ、っ……やめて!」



「きむちは、アリンちゃんを誰にも渡さない!」


「あたしの意思は、どうなる」



「そんなの関係ないわ……家に引きこもっている私は、アリンちゃんしか話し相手が居ないの。お願いわかってね。アリンちゃん以外、誰も会話してくれないの!」


姉のすがるような声がする。

アリンは泣き叫びたかった。


「それは……学校に、行かないからだっ!」


「だってぇ、いじめられたら、困るし」



「あたしは! あたしや、他の子はどうなるんだ……! 家に引きこもることすらみんな許されないんだっ……お前みたいに、

逃げてるだけのやつ、一生そのままなんだよ! あたしにつきまとうな、あたしの足を……これ以上引きずるなあっ!」


2019.10/1.16:49

姉はぽろぽろと泣き出した。


「だぁってー! アリンちゃんみたいに強くないし……アリンちゃんみたいに優しい人ばかりじゃないし、みんないじめるし」


「将来やりたいこともないのかよ」


「アリンちゃん、私と一緒に居よ? 二人なら乗り越えられる。私アリンちゃんの為なら頑張れる気がするから、私に命令して! 私命令なら聞くから!」


 寒気がする。

アリンは今までにあちこち周りを見てきて、姉を見てきて、むやみに泣くばかりで未来を考えられない存在が一生トンネルから抜け出す道標すらないってことを知っていた。悪い霊に憑かれてるようなものだ。


恐怖だけで、他に何も持っていない。

何も持っていないことすら、恐怖が忘れさせる。

プライドを隠して、他人を引き摺っていくだけ。

昔見たホラー映画の、来た人を暗闇に引きずる女の霊を思い出す。

ただの怨念はずっとそのまま怨念となり、周りも不幸にしていく。


「学校こられるんなら、こんなことしねーで、普通にっ」


何か言いかけたアリンは、ふと気付いた。一斉に襲いかかるわけではなくこちらの出方をうかがっているようだ。

牛は、まだ鳴かない。アリンは姉を見据えた。



「家族に命令しろとか、キモいんだよドM! 何もかも決めてやるまで泣きわめくのか!」




何かアクションを起こしたときに動こうかと叫んだときだった。きむちが共鳴して鳴いた。


――ワタシモォ……アリンチャンと恋人になったら、



ガンバレルカモォ!!!




空気が震える。

頭が痛くなりそうだ。


「くっ!!」



(こいつら、現実が、見えてない……これが極まったロマンチストというのか)


2019.11/8.22:10


姉が近づいてくるので、アリンは一歩下がった。下がると近づいてくる。ウシ――きむちはなぜか葉っぱを咀嚼していた。

(いや、反芻?)


「小松菜……食べる?」


きむちが鳴くと、小松菜がわらわらと溢れてくる。

普通そんな超常現象をすぐに受け入れられないが、きむちがウシになってるくらいなのでもはや言葉もない。


「きむち、ちゃん……」


姉が近づくにつれて、周りの人たちも近づいてくる。

ただ、違和感があった。

圧倒的な。


(顔ぶれが、変だ……)



「福田……確かお前、学校来てないよな? 孝之も……学校に行くくらいなら死んでやるとか騒いだんじゃなかったか」


クラスに、五人不登校が居る。正確にはあまり毎日は来ない人が居るのだが……


学校に来ていないやつや、いじめられているやつがここには来られることが変だ。


彼らの行きたくない度合いは半端じゃないのだから。


「福田、ついに、学校が好きになったんだな!

あたしも学校は好きなんだよ。変な人間は居るけど基本的には良い場所じゃないか? 食事はあるし、冷暖房設置されてて、本や漫画も沢山あるし、家よりも広いしさ」


なんだかんだで学校というのはいいところだと思う。こんな状況でこの場所にばかり来ていることは気になるけれど……



2019.11/20.11:18

焦るアリン。福田たちは、アリンの声を聞いていないようだった。


「みーんな、きむちのお友だち!」


きむちが鳴く。


「セッツ!!



タヲ・タガヤスナ────!」


何か呪文を唱えたとたん、牛の身体が光りだした。

スキスキスキスキスキスキ──!タヲタガヤスナ────!!スキスキスキスキスキスキ──スキスキスキスキスキスキ──甲高い声が響き、波のようにうねる。


ぞろぞろ集まっている人たちが一斉にアリンに飛びかかる。


「っ!!」





「会話で時間稼ぎなんて、小賢しい!」


(やはり、全員が強固な意思を持つわけでは、ないのか?)


「まさかアリンちゃんへの執着がきむちの術に被さってくるなんてね!

 もう大丈夫! 周りよりキツめに調教したから!」



なるほど、さっき彼らがなぜ、ばらばらに襲いかからないか考えていたが、姉を呼び止めたために隊列が崩され動きようがなかったのか。


「つまりきむちちゃんが、全員を動かしてるんだな」


 いくらかの学校を休んでいる者たちは洗脳するのにも、慌ただしくなくちょうど良かったのかもしれない。


スキスキスキスキスキスキ──!タヲタガヤスナ────!!スキスキスキスキスキスキ──スキスキスキスキスキスキ──甲高い声。


「この音を聞くとね、だんだん、気持ちがよくなるよぉ……」


タヲ・タガヤスナ────!


姉と、福田の腕が、両側からアリンの腕をつかむ。恐ろしくひんやりしている。


「ひっ!!」


じりじりと、集団が囲み始める。まっくらに淀んだ目をして、黒いマスクのようなものを身につけていた。


「タヲ・タガヤスナ……ァア」


アリンは、どうにかして逃げなければと思った。しかし、こうも囲まれていれば、跳ぶこともままならない。着地点が見つからない。


「なんだ、タヲタガヤスナって……」


「おかしいなあ、おかしいなあ!! まだ消えないの? まだ、きかないの?」



きむちちゃんは、何かにいらついていた。



12/219:16















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Eternal たくひあい @aijiyoshi

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