第41話 怠惰

 俺たちはあれから一カ月、怠惰に怠惰を極めていた。

 特にスキルを鍛錬するわけでもなく、お金を稼ぎにギャンブルをしに出掛けるわけでもなく、今日もただただ日が昇り落ちていくのをリビングの窓からソファの上で見ているだけだった。

 気候もだんだんと冷えはじめ、木の葉っぱも少なくなってきた。外では寒そうな風が窓を揺らしている。



「だぁぁぁこのままじゃダメだ! こんなんじゃ人間腐っちまうぞ!」


「え~? いいんじゃな~い? 快適すぎて動きたくないわ~……」

「私もなんだかひと段落って感じで、お尻から根っこが生えそうです~」


 何言ってんだ! って俺も今まで怠けてたから人の事は言えんけども! 正直もうお金もあんまりない。

 このままじゃ牧草暮らしに戻っちまうぞ!


 二人ともソファでスライムのように寝そべっている。もしかしたら一体化しているんじゃかろうか。



「二人とも心して聞いてくれ。実はな……もう晩御飯を買うお金が無い」


「「えーー!?」」


 そう、俺たちはこの一カ月お金のことを全く気にせずに食べたいものを食べたいだけ買ってきた。

 そんな使い方をすればあっという間にお金なんてものは消えてなくなるのだ。


「だからだ! そろそろ街にお金を稼ぎに行かねばならん!」


「京谷一人で行ってきてよ。あんたの能力あればちまちま稼げるでしょ」


「なんだその言い方は! 俺たちは仲間だろ!? 苦難を共に乗り越えるんだろ!?」


「え~めんどくさいわよ! 外寒いし!」


 カーヤは反対側のソファの上で寝がえりを打ち、こちらに尻を向けながらそう言った。

 一人で行ってもいいことはいいんだが、何せつまらない。



「なぁリリア、お前は一緒に行きたいよな?」


「は、はい京谷さんが行きたいなら……」


「クズ男に無理やりギャンブルに付き合わされるみたいな返答やめろ!」


 その返しは休日に無理やり彼氏の趣味でパチンコに付き合わされる健気な彼女のセリフだ。

 このギャンブルが蔓延る世界でそんな事を思っていってはいないだろうが、なんだか心が痛い。


「ほら、こっからなんか面白そうなの探そうぜ」

「しょーがないわねー」



 俺はたくさんののチラシをリビングの真ん中にあるテーブルに置く。

 この一週間の間に、色々な闘技場や施設からギャンブルのチラシが届いていたのだ。

 それぞれカラフルなチラシに面白そうな売り文句が並ぶ中、俺たちは一枚一枚見ていった。




「お、これなんて面白そうじゃないか?」



『あなたの料理の腕は何人前!? ステータスアップ料理バトル!』


 チラシには料理を食べてマッチョになっている二匹のスライムの絵と、それぞれ料理している二チームの絵が描かれている。



「二人は料理とかできるのか?」

「う~ん、家ではやったことなかったけど、出来るんじゃない?」

「私は得意ではないかもしれません……」


 カーヤの自信はどこから湧いてくるんだろうか。リリアにも少し見習ってほしい。……いや、逆にこんなのが二人もいたらパーティとして成立しなくなる気がするな。リリアには謙虚なままでいてもらおう。


「俺も家ではカップラーメンとか総菜ばっかりだったからなぁ。でも料理するのもいい経験になりそうだし、この中じゃこれが一番面白そうだな」


 ギャンブルってのは楽しくてなんぼだからな。稼げるがつまらないギャンブルと、稼げないが楽しいギャンブルだったら俺は後者を選ぶね。

 俺は大きな見出しの下にある、ルール説明を読み上げていった。



「なになに……組み合わせることでバフ効果を生み出す食材で料理を作り、それをスライムに食べさせ強化する。二匹のスライムは戦い続けるので、その間料理を作り続けてスライムをどんどん強化しよう! 先に相手のスライムを戦闘不能にすれば勝ち……か」


「スライム強化!? なにそれ面白そうじゃない!」

「ゲームみたいでいいですね! これなら私たちも安全そうですし……」


 カーヤは単純だな、危険なものでも面白そうなことがあればすぐに飛びついてくる。カーヤを相手のスライムに食べさせればアホになって自滅してくれるんじゃないだろうか。


 一方でリリアは慎重派だ。安全なギャンブルであれば乗り気になってくれる。


 確かにこれならリヴァイアサンの水上ロデオとは違って安全そうだ。

 闘技場トーナメントの前に怪我するわけにもいかないしな、これくらいで丁度いいだろう。



 今までの怠惰が嘘のように俺たちはそそくさと用意をはじめ、あっという間に出発する準備が出来た。

 遠足前の子供か俺たちは。楽しいことが待ち受ければすぐに行動できるみたいだ。



   ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



 あれから俺たちは速足で闘技場へと向かった。

 そこにたどり着くまでに出店の小規模なギャンブルに声をかけられ、カーヤは毎回それについていこうとするものだから俺たち二人がかりで止めるのに精いっぱいだった。


 ようやく見えてきた闘技場は今までのように青空天井だが、見た目が今までのような殺風景な物とは違い、少し上品な装飾が施されていたりと、なんとも紳士で清潔な見た目だ。

 入り口は高級料理店かというようなオシャレな見た目をしている。



「はぁ、はぁ! なんで闘技場に着くまでにこんなに疲れなきゃならん!」


「何で止めるのよー! 面白そうな物があったんだからやってもいいじゃない!」


「アホか! 今はそれどころじゃねぇんだよ! 料理バトルやるって言ったろ!」


「二人とも! そんな事言ってないで、早く入りましょう!」


 リリアは闘技場の入り口で手招いていた。

 なんだろう、今日はいつにも増してリリアのやる気が高く見えるぞ。

 料理が好きなんだろうか。……いや、食べるのが好きなんだろう。バーベキューの時も生で野菜を齧るくらいだからな。


 俺とカーヤはそんなリリアのやる気に圧倒され、闘技場の中へと入っていった。


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『異世界ギャンブラーの成り上がり』転生時に得た数秒だけ先を見れる「未来予知」スキルで異世界のギャンブルを攻略します! @okarin777

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