第40話 バーベキュー

 あれから俺たちは多くの店を回り、家の近くへと帰ってきたときにはもう既に日は沈みかけていた。

 オレンジ色になった空はまるでオレンジジュースをぶちまけたかのようだ。



「いや~すっかり遅くなっちまったな」


「もうあたし腹ペコよ~早くバーベキューしましょ~」


「私もお腹すきました~……」


 二人で腹の虫セッションを初めだし、その音を聞いていたら俺の腹の虫まで鳴きだしそうだ。


「とりあえずバーベキューの準備もしなきゃならんし、まだまだ食えるのは先だぞ~」


 俺たちは家にたどり着き、門を開けようとしたその時庭で騒がしく動くものがいた。



「お~! おかえり! バーベキューするんじゃろ? わしが用意しといてやったぞ~!」


「なによあんた! めちゃめちゃ気が利くじゃない! コンロの火じゃなくて焚火として利用してやるわ!」


「あんまり変わっとらんじゃないか!」


「す、すごい豪華なセットです~!」


 庭に広がるのはさぞ高級そうなバーベキューセットが展開されていた。

 なんとテントにタープまで用意されてかなり本格的だ。

 バーベキューコンロは三人には十分すぎるくらい大きい。



「これも全部盗んだものか?」


「そうじゃが? 盗める物は盗んだ方が得じゃろ?」


 盗品と言われるとなんか申し訳ない気持ちになってきてしまうのは、俺が善人だという証拠なのだろうか。


「大丈夫じゃ。ちゃんと許可はとってある」

「盗みの許可ってどういうことだよ!」


「あんたたち~! しょうもないこと言ってないで、さっさと始めるわよ~!」


「お肉たちも待ってます~!」


 カーヤとリリアは買ってきた食材をゴソゴソと漁り、何から焼くかを吟味しているようだ。

 まぁ待て。まずは野菜からだろ? 最後に野菜だけ残ってもしょうがないもんな。



「まずはこの一番いい肉からいきましょう!」

「なんでだよ! それは一番最後だろ普通!」

「なによいいじゃない! 美味しいものから食べるでしょ!」

「お前そんなこと言って、最後に残った野菜食べないつもりだろ!」

「そ、そんなことないわよ!」


 サシの入った一番いい肉をコンロの前で掲げながらそう言うカーヤだったが、間違いなくこいつはいい肉だけ食べて他を食べないつもりだ。こいつの魂胆は分かっている。なんとしてもそれは阻止しなければ。


「リリアもそう思うだろ!? まずは野菜だよな!?」

「リリアちゃんもお腹空いた状態で美味しいお肉食べたいわよね!?」


 俺とカーヤはリリアの意見を聞くために、振り返った。

 するとそこには獣化したリリアが生の野菜をポリポリと齧っていた。



「まずはお野菜からですよね。生のお野菜も美味しいですポリポリ」


「「いやそれはないわ!!!」」


 さすがに俺も野菜は焼いて食べる派だ。

 何でバーベキューなのに生で野菜食べてるんだよ!


 ひとまずカーヤをなだめ、野菜から焼き始めることになった。



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



「そういえば、ゴルディンの火でお肉を焼いたらどうなるのかしら?」


「それはちょっと気になります~」


 あれから俺たちはバーベキューを楽しみつつ、残りは一番いい肉を残すのみとなった。

 あたりはすっかり真っ暗になり、バーベキューの火と傍にある焚火が庭を温かい光で包んでいる。


「お、試してみるかの?」


「おいおい、失敗するんじゃないぞ!?」


「大丈夫じゃて。火加減ならまかせい」


 ゴルディンは自信満々にそう言った。

 お前本当に自分で火加減を調節できるのか? 感情の変化で火の大きさや色が変わるのは見たが、自在に操るのはあまり見てないぞ。手の形に変えたくらいか。



「よし、じゃあみんなで一緒に焼きましょ! ほら、リリアちゃんも京谷も肉持って!」


「あ、あぁ。大丈夫かなぁ」


「なんだかみんなで焼くなんて楽しいですね~!」


 俺たち三人はサシの入った旨そうな肉をトングでつかみ、ゴルディンの頭上へと近づけた。



――ジュゥゥゥゥゥ……



「おぉ! 意外と焼けるじゃねーか!」

「め、めちゃめちゃ美味しそうなんですけど!?」

「ま、待てませぇん!」


 旨そうな油が滴り、ジュウジュウと音を立てながら肉の色が変わっていく。 


「だーから安心せいと言ったじゃろう?」


 俺たちは完全に安心していた。だが、もうすぐ焼き終わると思ったその時だった。



――ゴオオオオオオオウ!



 急にゴルディンの火がとんでもない火力になり、俺たちは思わずトングを放り投げてしまった。


「おわぁ! おいなにしてんだ!」

「す、すまん!? なんか調節が効かなくなってしもうて……」

「ちょ、ちょっと! あたしたちのお肉が!?」

「うわぁぁぁぁん!」


 サシの入った肉の油がゴルディンの火力を強めてしまったのだ。

 ゴルディンの火の勢いはまだ収まらず、全員があたふたしていた。


「と、とりあえず肉を皿に戻すぞい!?」


 ゴルディンは火を手の形にし、肉をつまみ上げた。



――ジュウウワァァァァ!



 手に持った途端、肉はあっという間に黒焦げになり、炭となりボロボロと手から崩れ落ちた。


「ちょ、ちょっとあんたなにやってんのよー!」

「私たちのお肉が無くなっちゃいました!」

「高かったんだぞそれー!」


「す、すまんてー!!」


 結局俺たちはその高級な肉を食べることはできずに、不完全燃焼のままバーベキューは終わってしまった。



 

 

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