第39話 チラシ
俺はいつのまにか寝てしまっていたようだ。既に太陽は昇り、窓から暖かな光が入ってきている。
そろそろあの二人の怒りも冷めた頃合いだろう。元気よく挨拶といきますか。
――バタン!
「おはよう皆! 元気か!」
「あ、おはようございます変態」
「おはよう虫けら」
二人は笑顔で挨拶を返してくれた。
だが何かおかしい。俺への呼び方が変だ。俺の名前は京谷のはず。なぜこんな呼ばれ方をしなくてはならないのだろうか。まぁ理由はわかってるんだけどさ。
「おいおい二人とも。俺は京谷だぜ。名前を忘れちまったのか~?」
「衛兵を呼んだ方がいいのではないでしょうか」
「そうね。不審者がこの部屋にいるらしいわ」
「悪かったって! 謝るから! 許して! 実は昨日の指輪を着けたら新しいスキルが手に入ったんだよ。それを試したくて使ってただけなんだ」
これ以上とぼけるのは無理そうだ。俺は素直に謝ることにした。
幸いスキルの話を聞くと、二人ともしょうがないと言った様子で許してくれた。
「それで、どんなスキルだったの?」
「
「はて? わしが使ってた時は金銀財宝盗み放題じゃったけどな」
またどこからともなく現れたゴルディンはそう言った。
ていうかなんでこいつは会話に混ざりたがるんだよ! もう四人目の仲間みたいになってんじゃねーか!
ていうか本当か? 俺には全然盗れる気がしなかったが。
「え? でも俺ガラクタみたいな短剣や枕くらいしか盗めなかったぞ」
「ほほ、練度が足りんのじゃろ~。なんてったってわしは元凄腕の盗賊じゃからの! ひゃっひゃっひゃ」
なんだこいつ。めちゃめちゃウザイじゃないか。
まぁとにかく練度が大事なんだな。コツコツ練習することにしよう。
俺たち三人と幽霊一匹が談笑していると、この家のチャイムが鳴り響いた。
――ポーーン
「郵便です~」
「は~い。この世界にも郵便なんてものが存在するのか」
配達員のお姉さんから一枚のチラシを受け取り、俺はそれを確認した。
『ギャンブル闘技場トーナメント 次期開催日決定!』
チラシの見出しにはそう書かれていた。
ついにか! ついにトーナメントが開催されるらしい。カーヤの家族の謎も気になるな。
「おい二人とも! 闘技場トーナメントの開催日が決定したらしいぞ!」
「え、ほんと!?」
「ようやく来ましたか!?」
一枚のチラシを俺たち三人は覗き込んだ。
開催日は今からちょうど三カ月後らしい。
「三か月か……まだかなり期間があるな」
「そうね……もっと早い物かと思ってたわ」
「まだそれなりに時間あるみたいだし、待ってても仕方ないな。鍛えたり遊んだりして待つことにするか」
「「「さんせー!」」」
なぜかゴルディンもカーヤとリリアの輪に入り、一緒にハイタッチしていた。
ゴルディンに手はないんだが、火を手の様に伸ばしている。
「あっつ!!」
「あ、すまんすまん」
リリアは寸前のところで手を躱していたが、カーヤはもろにハイタッチして熱がっていた。
「てかおまえいつまで居んだよ!」
「わしの家なんじゃからいつまでいたっていいじゃろが!」
「今は俺たちの家だ!」
まぁにぎやかな空間は嫌いではない。別に悪さをしてくるわけでもないから良しとしよう。
二人もゴルディンの事は嫌いでもないらしい。
「よし、じゃあ今夜は贅沢に庭でバーベキューといきますか!」
「いいわね! ゴルディンには火担当になってもらいましょう」
「送風なら任せてください!」
「なんでじゃ! わしも食べたい!」
「お前は食べられないだろ!」
「そうじゃった」
俺たちは街へと買い物に出かけることにした。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
街はお昼間。様々なギャンブルの出店や商店街がにぎわっており、街には活気が感じられる。
「ちょっと京谷! これやりましょうよ!」
カーヤの指さす先には、射的ゲームのような出店が開かれていた。
ほう。おもしろそうじゃないか。だがこれは未来予知でどうにかなるもんでもないな。
「リリアもやりたいか?」
「楽しそうです。やりたいです」
リリアは先客が景品を倒せるかどうかをジィーっと見ている。
懐かしい。他人がやってるUFOキャッチャーを見てアームの力を選別するときの様だ。
「よし。じゃあやるか! おっちゃん! 三人分な!」
「あいよ! 300ぺリスね! 金色の的を倒せたら300ペリス。銀なら100ペリス。その他はおまけだな。弾は三発だよ! 頑張って!」
俺たちはコルクの入った銃を渡された。
ふむ。しかし金色の的はかなり重厚感のある箱だ。ていうかあれ金属じゃないのか!? あんなの倒せんのか!?
「よーし! 金色狙うわよー!」
やめとけバカ。なんでお前はいつもそう考えずに行動するんだ。
――パァン! カン!
金色の箱に当たったコルクは鈍い金属音を当てて弾き返された。やっぱりただの箱じゃねぇなあれ!
「うそ!? あたったわよね!? インチキよインチキ!」
「店の前でやめろ恥ずかしい! おとなしく銀かそれ以下を狙えばいいだろう!」
俺は銅色の箱を狙って撃った。パコンと当たったソレは簡単に倒れ、俺は景品をゲットすることが出来た。
「……なんだこれ」
にゅるにゅるとしたカエルのような形のスライムを渡された。ポケットに入れるともう二度と原型を保って出てこなさそうだ。ひとまず机に置いておこう。
あれからリリアが銀色の箱を一つ。俺が一発外し、カーヤは金色を狙い続け一発無駄にしていた。これで残り全員一つずつだ。
「じゃあ最後は全員で金色狙おうぜ」
「いいわよ! それで倒れなかったら文句言ってやるわ!」
「やめとけって」
「わかりました! せーので行きましょう!」
「おっけー、じゃあいくぞ! せーの!」
――パァン!
三人分のコルクは見事金色の箱に命中した。だが、それはビクともしなかった。
三つのコルクを弾き返し堂々とそこに存在する箱はまるで、地面にくっついているかのようだ。
「おおいおっちゃん! さすがにあれはインチキじゃねぇのか!?」
「おいおいやめてくれよ~! ほら、地面にくっ付いてなんかいね~よ」
俺は思わず文句を言ってしまった。カーヤを止めていた自分が恥ずかしい。
そういって金色の箱を持ったおっちゃんの手は、明らかに血管が浮きまくっている。どんだけ力入れてんだ!
「めちゃめちゃ重そうだなおい!」
「ん~? そんなことねぇよ~?」
――ドスン
置かれた金色の箱からは明らかに重たい音がした。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「いやぁさっきの店は本当にインチキだったようね!」
「俺もびっくりしちまったよ」
「私は銀色を一個倒せたので満足です~!」
あれから俺たちは、今夜のバーベキュー用の食材を買いに商店街へとやってきていた。
「へいらっしゃい! いい肉入ってるよ!」
ガタイのいいおっちゃんがセールストークをかましてくる。
どれがいいか……正直肉の違いなんてわかるわけもない。俺からしてみれば全部赤い肉だ。
「どれがいいんだ?」
「今日のおすすめはこれだな。オークの霜降り肉! たんまりと太ったオークの肉だ。脂身がうめぇぞ~?」
「よし! 京谷これにしましょう! これしかないわ!」
「でも、結構高いですよ?」
カーヤはヨダレをこぼしそうな状態で
リリアもその肉を食べたそうにしているが、駄々はこねなかった。賢い。
「お、お嬢ちゃん見る目あるね! 安くしとくよ!」
「じゃあそれを三枚貰おう」
「毎度あり!」
俺たちはその他にも肉やソーセージ、他の店で野菜もしっかりと買った。
装備を新調しようかとも考えたが、今はそんなこと考えなくてもいいな。
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