第4話 過去と未来と現在の交差点

 お姉さんと少女と俺でポストがある場所へと向かっている。

 きっとお姉さんは困惑しているだろう。それもそのはず、急に妹が知り合った謎の男と歩いているのだ。襲われないか心配で仕方がなさそうにしている。

 一応間に少女を挟んでいるが、少し気まずそうだ。

 その空気をなんとか変えようと、少女が果敢に話をし始めた。


「それでね、」


 意外と話は盛り上がり、少しずつ楽しい雰囲気が出来上がっていた。


 だがそんな楽しい会話の中で、ふと思った。

 本当にこの人が病んでしまうのだろうか、そんな疑問が俺の中には提示された。

 とても気さくで明るく、笑顔が素敵なお姉さんが病むとすればーー


 俺はあるひとつの答えが思い浮かんだ。

 その答えは確かに的を射ている気がした。これまでの少女の言動などから察すれば、分かっていたことだ。

 そんなことを考えている内に、横断歩道は赤になり、そこで止まった。その時、少女はポケットにいれていた百円玉を落とし、それを拾っていた。


 ーー何か嫌な予感がする。


 その予感が引き寄せるように、一台の自動車が歩道へ向かって走ってきていた。それも俺たちが今立っているこの場所に向かってきている。

 それを見て、少女は俺の方を向いて小さく微笑んだ。

 その時、俺は少女が言っていたとある言葉を思い出した。



 ーーきっとこれから病むからさ、その時はお兄さんの出番ってことになるからよろしくね



 この時、俺はようやく少女が言っていた言葉を理解した。

 そういうことか、そういうことだったのか。なあ、お前は最初から自分が死ぬことでお姉ちゃんを護ろうとしていたんだ。

 それを気づかせてくれる伏線はたくさんあったーーなのに、どうして俺は今になってそれに気づいた。


 既に車と少女との距離は10メートル、俺と少女の距離も10メートル。

 救わなければ、ここで少女を救わなければ。

 救う方法はひとつだけあった。少女はかすり傷くらいは負うだろう。それでもこの方法しかない。


 俺は少女の方へと走り、少女を突き飛ばす。その直後、車は俺に激しく衝突した。

 少女はかすり傷を負ったが、その程度で済んだ。

 そして俺はーー




 ーー気づけば未来に返っていた。

 そこはベッドの上。

 状況が理解できぬまま起き上がり、俺は周囲を見渡していた。

 いつものようなボロいアパートの二階、そこで俺は今生きている。


「やっぱ未来に返ってきたのか」


 車に轢かれてから記憶がない。

 過去で死んだら強制的に未来へ返ってくるのか?それとも車に轢かれて意識を失ったまま一週間が経ったから未来へ戻ってきたのか?

 どちらにしろ、俺は過去を変えられたのだろうか。

 その答えは未だ分からない。


 何か飲もうとキッチンに行くと、冷蔵庫には何かが書かれた付箋が貼られていた。

 日付と時間と場所が書かれており、その下に大きな文字で"仕事"と書かれていた。


「これは今日の日付か。それにこの場所、あのバーか!?」


 俺は恐る恐るバーへと足を運ぶ。

 扉の前で大きく息を吸い、吐き、吸い、吐きを繰り返し、呼吸を整えていざ中へと入る。

 入るなり、見えたのは熊のぬいぐるみを抱える女性。そしてその隣で静かにカクテルを作る女性だ。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたよ」


 そうか、どうやら俺は夢を見ていたようだった。

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カクテルガールのタイムリープカクテル 総督琉 @soutokuryu

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