第5話

やば…………………………

最悪や………………



「……どうしたんっ⁈なんかあったん⁈」


玄関先で頭を抱えている僕に向かって、夕夏が心配そうに駆け寄ってきた。


「……」


「大喜?………寒いし、中入ろ……」

「いや、ごめん。帰るわ……」


僕の手を引く彼女の手をそっと離した。

どうしたらいいかまだ頭の中がパニックだが、“ここにいるべきではない”

それだけは分かった。


夕夏の家とは反対方向へ進もうとしたが、

離したはずの夕夏の手がまた僕を掴んでいた。


「嫌や!」

「ちょっと!」

「一緒に食べるゆーたやん!」

「ゆーたけど………………」

「ゆーたけど、なにっ⁈」


大きな目で睨みつけ、口を尖らせている。

はぁ…………始まった、、

こうなるともう何を言っても無駄だ。


帰宅を諦め、僕は夕夏の家に上がった。



「座って待ってて!もう出来るから!」

楽しそうに嬉しそうにキッチンに立つ彼女とは裏腹に僕はソワソワが止まらない。座ってなんていられない。

彼女がルンルンで料理している隙に、僕はベランダに出た。


「………………はい、どしたー?」

「今どこです?家?オフィスにまだいてはります⁈ お願いあってん!」


須貝さん相手にタメ口を話してしまっている。

分かっている。失礼過ぎる、、

しかし、気持ちが焦る。


「落ち着けって!はい、深呼吸!」

「はい………………すみません。」

「で、どした?」



「実は…………」




「…じゃぁ、、よろしくお願いします………」



「誰と話してん?」

「わぁ!…もぅ、電話中に話しかけんなや…」


「終わってるやん、電話」

「まぁ……そやけど……」

「出来たよ、食べよ!」


彼女は今、僕の事が見えているのだろうか。

こんなに落ち込んでいる僕に、ルンルンで話しかけて、、


テーブルには、どんぶりが二つ。

彼女の得意料理“肉吸いうどん”

『得意料理』と言っても、料理はコレしか作れない。


目玉焼きは、割卵がうまく出来ない。

出来たとしても、焦がしてしまう。


お米を炊いてもべちゃべちゃか、硬いか。


唯一、コレだけは作れて、美味い。


「……いただきます……」


「召し上がれ〜」


ズルルル、、


「なぁ、美味しいやろ?なぁ?どう?」

「……」

「なぁ、どうなん?なんかゆーてよ!美味しい?」

「……」

「なぁ、あのお店の味に似てるやろ?駅の近くの!似てへん??」

「……」

「いつもより上手に出来た思えへん?美味しいやろ?」

「……」

「なぁ、美味しい?聞いてる?なぁ?」

「……ちょっ……食べてんねんから、喋られへんよ……」


「……だって……“美味しい”ゆーてくれへんから……」


「美味しいよ。」

「気持ち入ってへんやん!」


肉吸いは美味い……はずなんだが、

味を感じない……


気が気ではなかった。

心ここに在らず……


それはまさに今だ。

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なぞなぞ @koButa87

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