第42話 次の日常
薬品の開発は各国で急がれ、その間にも、出撃は繰り返されたし、学兵に死傷者は出た。
それでも、世界中で滅力の発現した子供は集められ、戦場へと送り出される。
薬品の開発と同時に、悠理の仮説についても調べられた。
あの蠢くものは彗星から移って来た生物で、地球の生物に寄生していた。そしてそれがヒトならば胸腺に侵入した時、それを異物として排除できる者は普通にそのまま生活し、拒絶反応を起こした者が滅力を発現させる。
動物の場合は、排除できるとそのままだが、拒絶反応を起こしたものが眷属や悪魔になるらしい。
そして、眷属をそのまま放置して観察すると、やがて寄生した動物の細胞を食いつくし、自滅し、消えて行く事がわかった。
女神が説明した内容に誤りはなかったが、女神云々と言えない悠理は、その結論が出てほっとした。
それでも気が咎めた事と、沖川と西條に気になると詰め寄られて、前世の事と腐女神との会話を白状したら、西條は腐女神に爆笑し、沖川は「俺をお人好しと言えないだろう」と呆れた。
そして沖川達が卒業して数か月で薬品は完成し、順次使用される事になって、国立特殊技能訓練校 は4期生の募集がされない事になった。
悠理達が卒業になって1年後には、悪魔や眷属の発生も稀になっていった。
日本の滅力を持つ特殊隊員が除隊となったのは、悠理が20歳の時だった。
「悠理、栄養ドリンクは主食じゃない」
沖川が悠理の顔を覗き込んで言う。
悠理は大学に入り、元々していた宇宙探査の仕事に就いていた。沖川は大学に入り、航空機のエンジニアになった。そして職場が同じ宇宙開発事業団なので、マンションで同居している。
何の事は無い。寮にいたのと変わらないような生活をしていた。
「うん。そうなんだけどね。つい、忙しくて。
おかしいな。猫のような人生はどこへ行ったんだろう」
悠理は首を傾けた。
沖川は小さく笑い、
「悠理が猫みたいなやつだしな」
と言った。
宇宙探査船を打ち上げるために、連日忙しく仕事をする日々だ。それは前世と同じ生活である。
ただ、前世ではこの探査でゼルカを発見したのだが、ゼルカは既に発見されている。
何が見付かるか、どうなるか、ここから先のガイドラインはない。
悠理は、ウキウキするのが止められなかった。
「ああ、楽しみだなあ。人が移住できる惑星とか、高い文明を持った生命体とか、見付かればいいのになあ。
そう言えば和臣、この前送られて来たデータ、どう思う?あれって、高度な文明の跡に見えないか?
あ、1周前のデータと比べてみよう」
「そうやってどんどん仕事が増えるんだな。うん。よくわかった」
沖川が笑いをこらえるように言って、悠理は、しまったという顔をする。
「ま、それも平和になったって事だな」
沖川は肩を竦め、コーヒーを2つ淹れて戻って来た。
「ああ。でもやっぱりねこになりたい」
悠理はそう言って、天井を見上げた。
やっぱりねこになりたい JUN @nunntann
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