第2話

「えっ、なになに。」

 男性が何か大声で喚いている。怒号ではなさそうだが、何やら必死さを感じる。只事ではない。隣人が足音を忍ばせて鍵を開ける音がする。野次馬の声が次第に増える。

 田所が野次馬に加わろうと、玄関のノブに手をかけてそっと回した。錆びついた金属の擦れる音がする。数センチの隙間から、田所は外を覗いた、かと思いきや、「おい!」と大声をあげて飛び出していった。戸はバタン!と音を立てて閉まり、私は一人部屋に残される。田所が叫んだあたりから、心臓が鷲掴みされているような息苦しさを覚えていた。

 玄関の照明がチカチカッと瞬いた。深呼吸。

 照明は再び灯ったかと思いきや、眠りに落ちるように消えてゆく。引越してすぐ、変えたんだけどな。

 照明は浅く激しい呼吸を繰り返し、狭い部屋全体がまるで夢の中のようだ。電球を変えよう。私はやっと、一歩踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

へや @DieForChikuwabu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ