第7話『犯人は誰だ?、失われた希望』

陽介は帰宅すると、真っ先に清瀬の所に向かった。

プレハブ小屋、リビング、屋上を探したが、清瀬は見当たらない。

仕方がないので、Rin にメッセージを送っておいた。



 Rin には清瀬からの返信や既読が付かないまま、それから1ヶ月が経った。


季節は秋を迎え、朝の気温は冬の足音を感じさせる。 

世の中が寂しさを感じ始めた頃、あの最悪は起こった。



ある日、今日は祝日もあってか、起きるのが遅かった。

陽介は普段早起きだが、祭日や祝日等は起きるのが遅い。


時計見てみると、12時を回っていた。


 無駄に休みを使うわけにはいかないので、陽介は普段着に着替えた。

陽介が身支度を整えていると、何やらリビングで、誰かが騒いでいた。

様子を見に陽介はリビングへと向かった。


リビングに着くと、そこには椅子に座るオーナーとあの、異人アデティの姿があった。

何やらアデティが、オーナーに詰め寄っている。

直ぐ様陽介は仲裁に入り、事の事情を聞いた。


「ナンデワタシのナイダヨ!、、ドコナノヨ。」


「そんな事言われても知らないな、君のせいだろ!。」


 「どうしたんですか!二人とも、やめてください、何があったんですか?」


「漆原君、丁度良い時に来てくれたね、

実はね、彼が自転車を盗まれたらしいんだ、

でね、責任を取れって言ってるんだよ。」


「ソウデスワタシのジテンシャオイトキマス

タラ、タレカニヌスマレタ!」


「カキツケテタ、デモヌスマレタ、イッカイオイテタ。」


「マチガナイ、ココノヒトタチアヤシイ、ワタシのジテンシャヌスン!」


 「落ち着けよ!、アデティ、まだそうと決まった訳じゃないだろ。」


 「きっと、他の外部から来た奴が盗んだんだ。」


「チガウ、ココノヒトタチマチガナイ、ワタシワカル。」


「アデティ、そうまで言うなら、全員集めて、犯人探ししようじゃないか、ねえ?漆原君。」


 「そうするしか無いですね、流石にこのままじゃ。」


 「じゃあ俺、全員を集めてきます。」


「頼んだよ、漆原君。」




陽介はこの自転車泥棒騒動を、納めるべく、住人集めを始めた。


先ず向かったのは、4階の部屋だ。


ここには園田果奈と樽井 涼が住んでいる。



ノックをし、在宅を一人ずつ確かめる。


すると、女の声が聴こえ、陽介が事情を説明しリビングへと集まるように促す。


「どなたですか?。」


 「俺です、漆原です、、これこれこういう事が起こって、急いでリビングへ集まって下さい、それと、樽井さんにも声を掛けといて下さい。」


「わかりました。」


 陽介は園田に頼むと、次は1階のプレハブ小屋に向かった。


プレハブ小屋には、清瀬、河西、海原が住んでいる。



だが、清瀬はあれから一度も帰って居なかった。


家賃は納めてるらしいが。


陽介は海原と、河西に事情を説明し、集まる様に言った。


残りは、大月と、樽井健太と、大山に生天目だ。

3階に住んでいる、大月と樽井はその頃屋上に居た。


「し、しかし、一体誰が盗んだんでしょうか?。」


「うーん、わからんわ、このマンションにそないなことするひとはおらへんよ。」


 「それにな、あの問題児やった金井はおらへんし。」


「こ、困りましたね、、青木さんは夏に出ていきましたからね、実家の都合で。」



 「とりあえず、漆原君とおうて、犯人見つけるしかないやろうな。」


 一方陽介は、大山、生天目の部屋を訪れ、事情を説明し、集まるように言った。


大山は、相変わらず無愛想だ。


生天目は逆に楽しそうだった。



「よし、残りは知世さんと、樽井だ。」


陽介は急いで、屋上へ向かい二人に合流した。


「ここにいたのか、部屋に二人共居ないから探しましたよ、その様子だと何が起きてるか知ってるみたいですね。」 


「お、オーナーに朝から叩き起こされました、大体把握してます。」


「せやで、朝からしんどかったわ、アデティさんが血相変えて来てな。」


「そうでしたか、つか二人共、今すぐリビングへ集まって下さい、オーナーが犯人探しをするようです。」



こうして、全住人はリビングに集まった。


まるで探偵が推理を披露する場の様に。

皆お互いを牽制し合い、疑心暗鬼に捕らわれていた。


 歓迎会でさえ、こんなに住人が勢揃いした事はない、必ず誰かが欠席していたのだから。


集められた住人、樽井健太、大月、園田、樽井涼、大山、生天目、海原、河西、8人と、オーナー、アデティ、陽介を含め総勢11人。


一体この中にアデティの自転車を盗んだ犯人が果たして居るのだろうか?



時刻13時15分。


犯人探しが始まった。


今回頼りの青木広大は居ない。


陽介は自らが、戦陣を切るしか無いのだ。


「皆さんに集まって頂いたのは他でもありません、アデティさんの自転車が盗まれた件です。」


「アデティさんが、1階のスペースに鍵を付け停めてあった自転車が何者かに盗まれました。」


「外部からの犯行にも思えますが、皆さんも御存じ、このマンションには、防犯用として、ライトが点灯する仕様になっています。」


「そして、この通りを通る人は限られていて、近くに住む者、通り掛かりの通行人、等ですが、殆んどの者がこのマンションには近付きません。」 


「それは何故か?、、このマンションが、周りから嫌われてるからです、騒音、異臭、只でさえ、マンションの形を取っていない、工場に見えるからです。」


 「漆原君、君ちょっと言い過ぎだよ、工場とはなんだ、工場とは。」


「あ、、すいません。、要するに、端から見たら、工場にしか見えないので、盗む物も無いと言いたいんです。」



オーナーは、陽介の物言いに反論した。



「自転車が置いてあっても、それは従業員の物、、盗めば簡単に解ります。」



「それに、工場にはあるものが有ります、防犯カメラです、、自転車を盗んだ犯人が、カメラを警戒しないのは、府に落ちません。」


「実際、防犯カメラみたいな物は設置されていますが、アレはダミーです!。」



「したがって、外部からの犯行ではないと、立証出来ます。」


「ど、どうして、外部じゃないと、言えるんですか?」


「せやな、だれかが、しんどくなって、キーがついてた、アデティさんの自転車に乗って行ったと思うのが自然やん。」


 「確かにそれあるよ、俺も昔パクった事あったから。」


「海原さんもあるんや、俺もあるわ、田舎じゃ日常茶飯事やで。」


陽介の推理に、大月、樽井健太、海原、河西が、それぞれ意見を述べた。


陽介は、それぞれの意見を聞き、一呼吸してから、ゆっくり話し始めた。


「いいですか、皆さん、俺はカメラはダミーと言ったんです、それがどういう事を示しているか解りますか?」


「それは、カメラがダミーなのを知ってるのはマンションの住人だけです、、外部からの人間はダミーとは解りません、人がマンションに近付けば点灯するライトの防犯完備、そのうえにカメラがあれば、それを偽物と決め付け、事を起こすのは無理です。」



「確かに言われてみればそうだわ、入居する時オーナーから教えてもらったから。」


「見れば解る」


「本当にね、私なんか教えてもらわなかったら、本物に思えたわ。」


陽介の問いに、園田、大山、生天目が答えた。


 「じゃあ、漆原君は、この中に犯人が居ると、そう言うんだね?」


「はい、間違いありません。」


 「証拠はあるんだろうね?、流石に無い状態で疑われても、気分悪いよ。」


「確実な証拠はありません、ですが、状況証拠は有ります。」


食い気味に話し掛けたのは、樽井 涼だった。


「続けます、先程状況証拠と言いましたが、あります、それは、時間です。」


「そう、犯人がマンションの住人の理由、それは、皆さんの動きを把握出来るからです。」


「何ヵ月間ここに住んで来ましたが、俺は全員の大体の動きを把握してます。」


「例えば、知世さんの行動パターン」


「知世さんは、朝7時に起き、スカウトの仕事に行き、帰って来るのが18時、その後屋上で、過ごした後就寝。」



「ですよね?知世さん。」


「あってるで!、、ようみとるな~、なんやきっしょい感じするけどな。」


「年がら年中別に見てませんよ、ただ、人の行動パターンは、ずっと張り付いていなくても、解るようになるんですよ。」



「どうするかって?、パターンを一つずつ

当てはめていけば良いんです。」


「じゃあ、知世さんを月曜日朝に見たとしましょう、そこで起床時間が大体解る。」


「続いて、火曜日に今度は帰宅した所を見掛けた。」


「で、金曜日には屋上に居た所を目撃する。」


「後は簡単、知世さんを目撃した時間や曜日を計算すれば、知世さんの一週間の行動パターンを解析出来ます。」


「凄いね!漆原君、確かにうちの住人じゃないと把握出来ないね。」


「いかがですか?樽井 涼さん。」


「…」


オーナーは陽介の考えに称賛した。


樽井 涼は黙ってしまった。


「ですから最初に言ったんです、これは外部からの犯行ではなく、住人の犯行だと。」


「そう、この行動パターンを一人ずつ分析すれば、無人の時間を探す事が出来るんです。」


「ナルホドワタシノジテンシャ、ナクナルタノハ、ココノヒトタチマチガナイ。」


「そう考えると、恐らく犯人は普段とは違う行動をその日にしていた人物だと思われます。」


「全員にアリバイを聞く必要がありますよ、オーナー。」


「確かにそうだね、漆原君、じゃあこうしようか、一同全員退室してもらって、一人ずつ聞こうじゃないか?」


「ただし、アデティ、漆原君を除く者とする。」


「アデティ、漆原君、と精査しよう、、では解散。」




オーナーは陽介の提案を飲み、住人一人ずつにアリバイを聞く事にした。


══════════════════


推理パート 第2幕の始まりだ。



時刻14時30分



オーナーはリビングにある長テーブルを、まるで就活の面接の場みたいに。


横長に置き、椅子を3つ配置した。

座るのは、オーナー、アデティ、陽介の三人だ。


本格的に犯人探しが始まった。


「それでは、一人ずつアリバイを聞いていきますので、呼ばれたら入室して下さい。」


「では、樽井健太君どうぞ。」


「は、はい。」


「樽井君は自転車が盗まれた日は何をしていましたか?。」


「お、俺は、朝7時にバイトに行って、帰って来たのが、夜19時でリビングに行き、夕食を取りました。」


「その時に誰か居ませんでしたか?」


「た、確か海原さんが、居たと思います、テレビを観ていました。」


「分かりました、では、部屋で待機していてください。」


 「次の方、園田さんどうぞ。」


「はい。」


「自転車が盗まれた日、園田さんは何をしていましたか?。」


 「朝7時に介護のバスが来て、それに乗って、帰ってきたのは夕方18時です、その後にシャワーを浴びて、部屋に戻りました。」


「それを証明する人は?」


 「樽井 涼さんです、、シャワーに行くとき、1階から上がってくるのを見たし、挨拶を交わしました。」


「分かりました、部屋で待機していてください。」


「河西君、どうぞ。」


 「はい、俺は朝寝てました、、昼に起きて、夜にリーソンで、弁当こうて食べました。」


「証明する人は?」


「おらへんよ。」


 「具体的じゃないね、大丈夫かな。」


 「この前の事もあるし、漆原君、慎重に行こう。」


オーナーは慎重になっている。


「次、海原さんどうぞ。」


 「俺は朝に起きて、昼に買い物行って、夜はキャバクラに行ったよ、漆原さんなら知ってるよな?」


「なるほど、確かに俺しか知らないですね。」


「因みに、その日樽井健太君に会ってますか?」


 「ああ、リビングで会ったよ。」


「次、大月さんどうぞ。」


「…」


「あれ?大月さん?」


「寝ちゃったのか?」


「しょうがない、順番変えて、樽井 涼さん。」


 「その日は、朝から出勤して、帰りに会社で飲んで、帰ってきたのは夜だな。」


 「アリバイなら、園田が知ってるよ、夜に会ったから。」


「確かに、園田さんは夜に会ってると言ってます。」


「続いて大山さん。」


「…」


「その日はずっと部屋に居た。」


 「部屋で何をしていたんですか?」


「何だっていいだろ?」


「…そうだ、生天目さんに会ったよ、廊下で。」


 「分かりました。」


「生天目さん、貴女はアデティさんの自転車が盗まれた日何をしていたんですか?。」


 「あたしは、朝起きた後、洗濯して、その後に銭湯に行ったわよ、それで、大月さんに会ったわ、、大山さんには、その後に会ったわ。」


「分かりました。」


「オーナー、これで大月さん以外、全員のアリバイが聞けました。」


 「そうだね、漆原君、何か見えてきたかね?。」


「ワタシノジテンシャヌスンダヤツイマシタカ?」



「はい、俺が知ってる皆さんの行動パターンと多少ずれがある位ですが、検討は付きました。」


「しっかし、おっそいな知世さん、、あの人が犯人な訳無いからな、自転車持ってるし、建前で犯人の中に入れたに過ぎないし。」


オーナー、陽介、アデティが、大月を待っていると、何処からか叫び声が聴こえた。


「ギャー!」


「!」


「知世さんの声だ!」



急いで三人は、知世の部屋へ向かった。


そこで見たものは衝撃的な光景だった。


 大月は涙を流しながら佇んでいる。


周りを見てみると、そこには知世が大切にしていた、ジョニーズグッズや、カントウキッズのポスターが破かれ、切り刻まれ、無惨な姿を晒していたのだ。


「もう、、、ややわ、、なんでや、、なんでこないなひどいことを、、、。」


「だれが、こないなことを、、、。」


 「大丈夫ですか!、知世さん、、しっかりしてください!。」


知世が命より大切にしていたものが、壊された。


相当ショックに違いない。


陽介は掛ける言葉も見付からなかった。


陽介、オーナー、アデティの三人は一旦、リビングへ戻り、再度考える事になった。




「くそっ!どうして知世さんが、犠牲に!」


「なんで!、、何故なんだ、、。」


「一体誰がこんな事を、、。」



 「漆原君ね、多分同じ犯人だよ、外部からの犯行ではない事がお陰で解ったね。」


「つっ!」


陽介はオーナーの物言いにカチンときたが、堪えた。


「大胆にも犯人は、この犯人捜しに乗じて、知世さんの部屋を荒らした。」


「捕まらない自信が相当ある奴みたいですね、、。」


「いいぜ、犯人さんよ、必ず俺がこの手で犯人を捕まえてみせる、俺自身の正義にかけて!」

════════════════════


時刻16時40分




推理  疑惑パート



陽介、オーナー、アデティは、あれから

互いに考えを述べ、考えたが、良い案が浮かばなかった。


「知世さんの部屋を荒らした奴は、皆が解散した後に、犯行を行った。」


「それは解る、、そうなると、部屋に戻った皆にアリバイがある事になる。」


「話を聞いた限り、その頃、樽井健太、河西、海原、大月さんは屋上に居たらしい。」


「となると、園田、樽井 涼、大山、生天目の四人に絞られる訳か。」


 「漆原君、生天目さんが怪しいと思うけどね、ずっと笑っていたし、考えられないよ。」


「ワタシハタルイガアヤシイオモウレマス。」


 陽介は考えていた、いや、引っ掛かっていた


この嫌がらせに似た行為、何処かで感じた

覚えが、違和感があった。

例えるならば、喉に小骨が刺さり、取れそうで取れない様なジレンマ、違和感を。


「何処かで、、前にも、、あったような、。」


ガシャン!


何かが割れた様な音がする、陽介は音の出た方向へ足を向けた。


「もうややわ、、こんな事になるなら、もうでたるわ、こんなところ!」



 「どうしたんですか、知世さん!。」


「もう、でたるわ、こんなところ、、ほなな、漆原君。」


 知世が荷物をまとめて、出る用意をしている。


流石に宝物をあんな風にされたら、頭に来るのだろう。


例によってオーナーはなにもしてくれない


警察すら呼ばないのだから。


それから、知世はマンションを出て行った。


なんでも、実家に戻るらしい。


この日を皮切りに、マンション内では問題が色々発生した。


ある者は冷蔵庫の食料を取られ、ある者は

部屋の前に画ビョウを撒かれ、ある者は大切にしていた、鉢植えを破壊された。


そして、園田が下着を盗まれた。


干してあった、パンツ、ブラジャー一式が盗まれた。


一体誰が、何の為に、、


あれから、住人が次々と退去していった。


下着を盗まれた、園田、画ビョウを撒かれ、踏んで足を痛めた、樽井 涼


 残った住人は、樽井健太、海原、河西、大山、生天目、アデティ、陽介。


8人だけだ。


 例の事件から、アリバイを考えると、河西、海原、樽井健太、そして、陽介、被害者のアデティを抜かせば、大山、生天目の二人だけ。


容疑者は二人に絞られた。


一体どっちだ。


═══════════════════




推理  解答パート


陽介は樽井健太と屋上に居た。


今回は頼みの綱の青木広大が居ない。


前回とは違うのだ。


「やっぱり、、そうなんだよな、似てるんだよ、やり方が、、。」


「な、何が似てるんですか?。」


「金井彰久だよ。」


「か、金井ですか!」


「だが、アイツはあれ以来、現れてないし、生死も不明だ、、だから考えられない。」


「それに、手口が、似てるだけでアイツが標的にするなら俺だろうしな。」


「た、確かに漆原さんに、恨みを持ってますからね。」


「残った二人、大山、生天目は、あの事件以降に、入ってきた連中だ、、それにあの二人は他の住人と特別仲が良かった訳ではない。」


「二人、、同じ時期、、、アリバイが無い、、笑っていた、、無愛想。」



「そうか!解ったぞ、一連の犯人が!」


「ほ、本当ですか!」


「ああ、謎は全て解った。」


「皆をリビングに集めるぞ!」


「は、はい!」


その時だった、けたたましいサイレンの音と共に、消防車一台、救急車二台が、マンションへと、止まった。


「な、なんだ!この音は!」


「う、漆原さん!、見て下さい、、きゅ、救急車が!」


「何かあったのか!」


「とにかく、リビングへ急ごう!」


 陽介達が、リビングへ向かう頃、オーナーは消防の隊員に呼び出され、通報時の録音された声を聴いていた。


それを、聴くなりオーナーは、みるみる顔色が赤くなり、怒りが全身を支配した。


 一方、リビングへ向かう陽介、樽井健太は。


途中、逃げ出す様な素振りを見せた、生天目と遭遇、追跡は樽井に任せて、陽介はリビングへ


オーナーの元へ急いだ。



陽介がリビングへ辿り着いた時、全てが終わっていた、いや、本当の始まりだったのかも知れない。



そこには物凄い形相に変わったオーナーが居た。


そして、陽介を見るなり怒り狂うのだった。



「オーナー!、解ったんです犯人が!」


「漆原!、やっぱり、お前がやったんだな!」


「何をいっているんですか?」


「とぼけるな!、通報したのはお前だろ!」



「消防車、救急車、呼んだのはお前だ!」



「俺じゃない!、どうしたんですか、オーナー!」


 「通報した時の録音された音声を聴いた、漆原、お前の声だ!」


「!」


「お、俺が?、、通報?、、いや、そんな事をしてない!」


「なら聴いてみろ!」


消防隊員が、陽介に音声を聞かせた。


それは紛れもなく陽介の声だった。


「そ、そんな、、俺の声だ。」


 通報内容は、古びたマンションから、ガスが漏れてる、そこのオーナーは自分でなんでもやり、ガス管が劣化したままだ。


だから助けてくれと。


消防は消防点検も兼ねて、出動した。


救急車は万一を備えて。


陽介は何が何だか解らず、消防隊員に怒られ、


注意され、挙げ句オーナーに退去通告をされてしまった。


「解ったろ漆原!、、退去だ!退去、退去、退去、退去、退去、退去、退去、退去!」


陽介は逃げる様に屋上へと向かった。


屋上には樽井健太が居た。



「嘘だ、、俺じゃない、、。」


「お、オーナーから聞きました、本当に漆原さんだったんですか!」


「俺の声だった、、あり得ない、、、きっと俺の声を加工したんだろう。」



「どちらにせよ、先を越された、、確信に近付いた瞬間にこれだ。」


「生天目は?」


「す、すいません、見失いました。」


「そうだろうな、、今回の一連の事件は生天目と大山が仕組んだ事だったんだ。」


「覚えてるか?、、林藤 修の事を。」


「は、はい。」


「金井じゃない、アイツの、、林藤の手口にそっくりだった、、嫌がらせにより、住人がどんどん居無くなって行った。」


「あの頃の住人回収事件にそっくりだ。」


「た、確かにそうですね。」


「潜入されていたんだな、、俺が入院してる間に、、復讐の機会を伺っていたのか、、林藤らしい。」


「多分、樽井 涼、園田は林藤のシェアハウスだろうな。」


「解った所で、もう、、全てが遅いな。」


「そうですね、、お、おれ実家に帰ります、知世さんが居なくなり、漆原さんも居なくなるんじゃ、ここは楽しくないです。」


「ああ、俺も完全に信用を失った以上、此処に留まる訳にはいかない。」



「残念だけど、お別れだ樽井君。」



「と、時々Rin 送ります。」



「ああ、、待ってるよ。」



「そ、それではさようなら。」



「さようなら。」



 陽介は樽井と別れた、次々に居なくなっていく住人達。


それを見ていると、世の中の出会いと別れのそれに思えてくる。


 ふとした事がきっかけで、関係性が壊れていく、失っていく。


陽介には、もう抗う気力も、怒りも、林藤に対する、気持ちも無い。


そして、思ってしまった、、人間として歩みを止めるその言葉を、、




「もう、、疲れた、、、」



陽介はその日ずっと屋上にうなだれていたという。


絶望に染まったその顔は、あの日このマンションを、訪れた陽介の太陽の様な笑顔を、曇りに変えた。


 翌朝、陽介は荷物をまとめて、ビジネスホテルに泊まる事になった。


オーナーとは一言も交わさず。


海原と、河西は残念がっていたが、彼等もあのマンションを出るそうだ。


全てが林藤の掌に踊されてる様だった。


「もう、、考えるのはよそう。」


「もう、、疲れた、、極力他人に関わるのはよそう。」


「清瀬、、お前は今頃どこで、何をやっているんだ?、、俺は本当にこれから、、変われるのか?、、変わっていけるのか、、。」



ピロリン




Rin が鳴った。



陽介が携帯画面を見てみると、そこには、

笹山からのメッセージが送られていた。


{おはようございます先輩~色々大変だったでしょうが、今は疲れを癒して下さい、会社にはまた俺が伝えておきますから。}




{しかし、先輩有給有りすぎですよ~俺なんか残ってないですよとりあえず、今後は他人と距離を取る事を覚えて下さいね。}



{今度飯食べましょう~、、いや、てかおごってください~}


「ははっ、笹山らしいな。、、アイツの言う通りだな、、これからは、新しく知り合った奴らとは距離を置こう、、、もう、、疲れた、、巻き込まれるのは沢山だ、、、。」



 その後陽介は、1ヶ月間ビジネスホテル暮らしをした。


会社に通いながら、慣れないホテル暮らしをした。


 会社での陽介は、笹山をからかう程、上司にた頼りにされる程、その性格は変わらなかった。


だが、独りになった途端に、どうしようもない孤独感が襲ってきた。


同時に、プライベートで新しく知り合った者達とは上手くいかなかった。


常に元気が無く、くたびれた感じだった。


今思い出すと、きっとそれを彼女は見抜いて、感じていたのかもしれない。


この先出逢う、運命のあの子が。


 陽介は、ビジネスホテル暮らしの後、都会から少し離れた、静かなマンションに引っ越していた。


そのマンションは防音完備なうえに、住人は殆んど居なかった。


陽介としては、理想の環境だった。



そんなある日の事。


 陽介は起床してから、パソコンを付け、『ツイチャーを』開いた。


ツイチャーとは、SNS で、ツイーチャと呼ばれる、メッセージを発信して、それにコメントやいいねが付く、コミュニケーションツールの事だ。



 陽介が、ツイチャーのニュース欄を見ていると、そこには衝撃の見出しがあった。


夫婦自殺か?また、悲しい事件が起きたのかと、他人事で記事を見てみると、見覚えのあるマンションが。


 そう、、夫婦とはあのマンションのオーナーと奥さんだった。奥さんは、あの事件があった頃、実家に帰っていたのだ、恐らく帰ってきて住人が次々居なくなり、、経営が出来なくなり、夢だったシェアハウスが潰れた事に傷付いたのだろう。


実質、林藤が夫婦の命を奪った。


「!」


「もう、、考えるのは辞めたんだ、、俺は。」


ピロリン


Rin が鳴った。


「誰からだろう?、樽井か?、海原、河西か?、、。」


 画面を見ると、見慣れないアカウントからの友達申請だった。


だが、陽介のアカウントを知ってると言うことは、十中八九知り合いだと思う。


とりあえず許可してみる事にした。


ピロリン


直ぐに、そのアカウントからメッセージが届いた。


陽介はその画面を見てビックリした。


何故ならば思いもよらない、人物からのメッセージだったからだ。


陽介はそのメッセージを見た後、急いで支度をし、最寄りの駅へと向かったのだった。



切れない縁、切れる縁、世の中には様々あるが、前者なのか?、後者なのか?


今は陽介だけしか知らない事だった。


この後陽介の人生は二転三転する。




運命の歯車はさらに廻りだした。


════════════════════

推理で犯人を追い詰めたのも束の間、

陽介は逆に犯人にされちゃいましたね、、

世の中には様々なボタンの掛け違いがあります、皆さんも気を付けて下さいね。


さぁて、次話から、新たな展開


エステ編がようやく始まります!


8話にして、やっとですね~


Rin の送り主は一体誰だ!?


陽介は果たして変わる事が出来るのか?


新展開 エステ編を楽しみに。


それでは、次話で会いましょう。

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君と出逢えて俺は変われた 自分次第でどうとでもなれますっ! 如月 歩 @kisaragiayumu

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