8、神様を見る子ども
夜中に男の子を社殿の床下で見つけた騒動から半月ほど経った頃、あの時の男の子がおばあさんと一緒に神社にやってきた。寒いからと隆幸さんの住居のほうで話を聞くことになり、見つけたのは俺だからと俺も一緒に話を聞くことになった。
「先日は孫を助けていただきありがとうございました」
そう言って頭を下げたおばあさんは男の子の母方の祖母だと名乗った。
男の子は両親から虐待を受けていた。父親は浮気をしてほとんど帰らず、母親は必要最低限の食べ物だけ与えて遊び歩いていた。
あの日はたまたま帰ってきた父親と母親が鉢合わせ、大喧嘩になったそうだ。父親は家を出て、母親は腹いせに男の子を家から放り出した。
男の子は行くあてもなく、まだ両親の仲が良かった頃、祭りに連れてきてもらった神路神社を思い出してここまでやってきて、少しでも寒くない場所を探して社殿の床下に潜り込んだらしいとおばあさんが説明してくれた。
「この子はわたしが引き取ることになりました。隣町に住んでいるのですが、娘とは喧嘩別れしてしまって。子どもがいるのは知っていたから、もっと気に掛けていればよかったと後悔しかありません」
おばあさんがそう言って涙ぐむと、ずっと黙っていた男の子が俺を見て口を開いた。
「お兄ちゃん、神様にお礼を言いたい。あの時、ずっと神様がそばにいてくれたんだ」
「…わかった。じゃあ俺と行こう」
隆幸さんと顔を見合せ、隆幸さんがうなずいたことから俺は立ち上がって男の子と一緒に社殿に向かった。
「あ、神様!」
社殿が見えると男の子がパッと笑顔になって走っていく。その先には屋根から降りてきた神様が男の子を見て安心したように笑っていた。
「神様、この前はずっとそばにいてくれてありがとうございました!」
元気に礼を言う男の子の頭を神様は優しく撫でた。
「きみは神様が見えるんだな」
「うん。この前、ここの下に潜り込んだとき、すごく寒かったけど神様がそばにいてくれたから怖くなかったんだ。お兄ちゃんも神様見えるの?」
「ああ。見える」
俺がうなずくと男の子は嬉しそうに笑った。
神様にまた来ると言って手を振った男の子は、隆幸さんの住居に戻る途中で和樹と名前を教えてくれた。
「ぼく、これからおばあちゃん家で暮らすんだって。学校も転校しなきゃないんだってさ」
「そうか。でも、また何かあったらここに来るといい。神様は守ってくれるから」
「うん、ありがとう」
俺の言葉に和樹は嬉しそうに笑ってうなずいた。
和樹とおばあさんは改めて社殿に参拝してから帰っていった。
神様は帰っていくふたりを屋根の上からずっと見つめていた。
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