第7話
『ねぇ紫穂』
『ん?』
紫穂はまだ熱が治りかけの私を看病してくれている最中だ。
『紫穂、今日の朝までずっと別れようって言ってたのになんでまた付き合う気になってくれたの?』
『あ、それは…』
紫穂に目を逸らされる。
『なんで目を逸らすの?』
『えーと、これ、言ってもいいのかな…?』
『私達の間に秘密はなしでしょ』
『うーん。まぁ、別にいいか。春さんだよ』
『ん?お母さんがどうかしたの?』
『春さん、昔は女の子が好きだったみたいだよ。だから私達のことも応援してくれるって言うから』
『えっ?お母さんってレズだったの?』
『その言い方はちょっと…ていうか、私達もでしょ』
『確かにそうだね』
なんだか意外だ。
拓弥さんとはラブラブそうだったし。
その前…お父さんとだってきっと仲が良かったはずだ。
それなのに昔は女の子が好きだったなんて、私が紫穂を好きじゃなかったらわからないことだ。
『来海ちゃん。そろそろお腹すいてない?お昼も寝てて食べてないし』
『そう言われれば少しすいてるかも。でも、あんまり食欲ないんだよね』
『ダメだよちゃんと食べなきゃ。私なんか持ってくるね』
『うん。ありがとう』
紫穂が部屋を出て行く。
一人残された私は考えに浸ることにする。
お母さんが女好き。
相手が気にならないわけではない。
でも多分イケメン系なんだと思う。
お母さんがリードするとも思えないし。
私もその点お母さんに似たのかな…いや、えっちする時も私がリードするし、大抵生活の中では私の方が大人だと思う。
『お待たせ』
『ありがと』
紫穂が帰ってきた。
持っているお盆の上にはどんぶりが乗っている。
中身は温かいお粥のようだ。
『春さんが用意しててくれたよ。自分で食べれ…そうだけど、ベッドの上に置くわけにもいかないし私が食べさせてあげる』
『えっ?そんな悪いよ』
『いいのいいの。私のせいで熱出したようなもんだし。今日くらいは沢山甘えて』
紫穂がスプーンでお粥を掬う。
『はい。あーん』
少しこそばゆいがここは甘えさせてもらおう。
『あーむ』
『熱いから気をつけてね』
『ほっほっ…ごくんっ…美味しい』
『そんなに?私も食べていい?』
『えっ?でも、スプーン一つしかないよ』
『大丈夫。これで食べるから』
『えっ!?ちょっと待って!熱うつっちゃうよ!』
『うつらないよ。それとも…恥ずかしいの来海?』
『そ、そんなことは…ないけど。ていうか、えっちな気持ちにならないでよ』
『ごめん。恥ずかしがってる来海が可愛くてつい』
『だから恥ずかしがってないってば!』
『そう?なら、私も食べさせて欲しいな。あーん』
『えっ!?ま、まぁ、いいけど』
紫穂からスプーンを受け取りお粥を掬う。
『はい』
『ん…あつっ…ちょっ、一回、ふーふーしてくれる?』
『ええーもう。ふーふー』
『・・・動画撮るからもう一回やってくれない?』
『やるわけないでしょ!?』
紫穂の口にスプーンを入れる。
『ん…美味しいね。春さん料理上手だなぁ。私も教えてもらいたい』
『紫穂って料理とかに興味あるの?』
『興味っていうか、将来来海ちゃんと同棲することになったら私が主婦で来海ちゃんが働くっていうイメージが強いから』
『確かにそうかも。紫穂仕事とか苦手そうだし』
『だから…ね?私も料理がしたい!』
『はいはい。お母さんに言っておく』
紫穂と話してるうちにどんぶりの中のお粥はすぐになくなっていった。
『ごちそうさまでした』
『いっぱい食べたね。私はこれ持ってくから来海ちゃんは休んでいいよ』
『悪いよ。私も下降りる。冷えピタも効果なくなってきたし』
『そっか。じゃ、行こ』
紫穂の手を握って立ち上がる。
『紫穂、私は大丈夫だからお盆持って』
『ダメ。お盆は後で片付けるから取り敢えず一緒に降りよ』
『わかった』
熱のあるせいで頭も回らず私は紫穂に促されてゆっくりと部屋を出て階段を降りて行く。
降りた先にはお母さんがいた。
『あ、体調は大丈夫なの?』
『うん。紫穂のお陰でちょっと良くなってきた…。でも、頭痛がまだひどい』
『そう。それなら、今から病院にいきましょうか……。紫穂ちゃん。来海のこと頼むわね。車に乗せてきて。これ鍵』
『わかりました』
紫穂がお母さんから鍵を受け取る。
『じゃ、行くよ』
『うん…』
紫穂が私の肩を支えてゆっくり歩く。
玄関まで行くと一度私を触らせて靴を履かせてくれる。
『なんか…えっちしてる時の体制みたいじゃない?』
『えっ!?』
たしかに言われてみると紫穂が私の秘部を吸っている時の体制だった。
『えっちなことしちゃダメだからね…』
『大丈夫。・・・キスだけならいいよね?』
『はぁ!?そんなことしたら風邪が…んっ』
『んっ…んっ…はぁ…来海との…久しぶりのキス…ん…はぁ…舌…入れるね』
『んんっ…んん…ん…し、紫穂……んん』
熱と紫穂の吐息で私の頭はいっぱいだ。
頭痛がひどく起こる頭を労りながらも私は紫穂とのキスを続けた。
三分間くらい経った頃。
私たちの頭上に影ができる。
『・・・あなたたち…大胆すぎだから』
いたのは学生時代レズだったお母さん。
『車の中でやったら怒るからね』
『はい』
『は、はい』
私たちが返事をするとお母さんは笑った。
『ラブラブで羨ましいわ』
その言葉が私達の頭から離れなかった。
不眠症の彼女が親の再婚で妹になる百合のお話 ユリィ・フォニー @339lily
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