最終話
花火大会の日を境に、付き合うことになった私達だけど、正直何をしたらいいのかわからなかった。
もちろん、連絡は取っているし会ってるから、こんなもんなのかなとも思うけど。
嬉しさはもちろんある。これで私は、文化祭が終わっても卒業しても、ずっと肇と一緒にいることができる。私にとってこんな幸せはないわ!
だけど、今はとにかく恥ずかしくてしょうがない。
付き合う前に出かけていたこと。
明日から会えなくなると思うと耐えられなくて、花火に誘ったこと。
告白も自分からしようと思っていたら花火に邪魔されて逃してしまったこと。
それから、それから…/////////
もうずっとこんな調子。よくないわ。私。
こんなんじゃ学校始まってからも勉強や文化祭準備に集中できる気がしない。
けど、やっぱり嬉しいし、恥ずかしいし、どうしようもない。
そっか、それならいっそのこと思いっきりベタベタしてみるとか…?
気が済むまでベタベタしたら、少しは落ち着くかしら…?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、ベタベタって何するつもりなのよ!!
私!!しっかりしなさいよ!!迷走もいいところよ!!
とにかく落ち着きなさい。嬉しいのも恥ずかしいのも今の私の素直な気持ちじゃない!
だったら、受け入れればいいのよ。
はい、深呼吸。
いいわ。少し落ち着いてきた。
夏休みも残りわずか。
肇ともいっぱい会って、文化祭のこともしっかり詰めていきましょう。
それから、勉強もね。
それにしても、夏休み前とは大違いだわ。
正直、夏休み前には告白しようなんて思ってもみなかった。
でも、夏休みに入って、部活を引退したら、途端に不安になった。
多分、やることがなくなったからだと思う。急に文化祭が終わった後のことを考えるようになり、肇と今までのように一緒にいられなくなると思ったらいてもたってもいられなくなった。
だから、会う約束をしていた最後の日、それで終わりにしたくなった私は、思い切って花火大会に誘ったのだった。
本当は私から告白するつもりだった。もう、抑えきれなくなっていたのだ。
肇のことを想うと胸が熱くなった。これからも一緒にいたいと思った。
それに、これが私には初めての気持ちだったんだけど、女性として見られたい思った。
そうすると、もういてもたってもいられなくなった。肇はとっても素敵な人。
いつも冷静で、周りのことをよく見ていて、頭が良くて、優しい。それでいて真っ直ぐだから。今はまだいいかもしれないけど、そんな肇のいいところにみんなが気付いたら、いつ先を越されるかわかったもんじゃないわ。
だから、どうしてもそうなる前にちゃんと自分の気持ちを伝えて、ちゃんと返事をもらいたかった。
ダメだった時のことは、実は全然考えてなかった。考えても無駄だと思っていたと言った方が正しいかもしれない。そりゃそうよね。答えは、肇にしかわからないんだから。
まぁ、結果的に告白は先を越されてしまったわけなんだけど。笑
肇のあんなに真剣な表情を間近で見たのは初めてだった。私は、息をするのも忘れてただ肇の顔を見ていた。
『夏織。俺は夏織が好きだ。俺と付き合ってくれ。』
その言葉を聞いた瞬間、一瞬意味が分からなくて、ほんの数秒の間に心の中で何度もその言葉を反芻した。一瞬後には嬉しさと、どうすることもできないほど大きくなった肇への気持ちが溢れて、でも言葉にならなくて…。
気づいたら…
って結局あの時のことばっかり考えてるわね。
もう、仕方ないわね。笑
落ち着くまでは何度でも思い直せばいいわ。
幸せな瞬間のことだもん、何度思い出したっていいはずよね!
そうして迎えた始業式の日。
予定通り制作班は買い出しに出た。
「皆、ありがとね。いろんなお店の情報をくれて助かったわ!」
誰に言うでもなく、皆の方を向いて言った。代表して一人の男子が答える。
『いやいや、俺達も自分の空き時間でやっただけだから!それに、近場の店にしてくれて助かったよ!』
皆いい笑顔ね。本当にありがとう。
『よし、文化祭はすぐだ!準備頑張ろうぜ!』
新学期が始まってからの三週間は、本当にあっという間だった。
まず、放課後の限られた時間と人数でカウンターの制作。牛乳パックのカットと組み立て、進みが遅い班には手伝いをお願いした。
幸い制作班には大きな問題はなく、衣装班もさぎりがTシャツの配布や、それ以外の衣装小物もすべて上手くやってくれたし、ウェイター班へのフォローもしてくれている。
調理班ももちろん問題ないようね。
最後の一週間ともなると、いよいよ実感が湧いてくる。
内装用に暗幕を借りに行ったり、出来上がったカウンターを仮組みしたり、調理班全員での試作や、ウェイター班を中心とした接客指導、教室全体の机の細かい配置や、テーブルクロスの配色、全部を皆で作っていった。
制作班男子『ボス、ここの席なんだけど、ちょっと危なくないか?』
私「確かにそうね。そしたら、角の席をなくして少しスペースを広げようかしら?肇、どう思う?」
肇『うん、その方がいいね。早速配置変えをしよう。』
さぎり「あ、そしたらテーブルクロスも一個ずつずらさないと。」
委員長「お客さんが並ぶようなことになった場合、まず後ろのドアを閉鎖して、前のドア側から後ろに向かって並んでもらうようにします。並んでいるお客さんにはこのメニューを渡して、先にオーダーを決めてもらうようにしましょう」
いいわね。委員長、あなたもやればできるのね!
前田「肇ー!とりあえず試作終わったぞー!」
肇「今行く!悪い、紙皿と紙コップとフォークの買い出しを頼む!」
制作班男子「OK!」
こうして、前日には無事にお店の内装も仕上がった。
最後にみんなを集める。
「皆、明日はいよいよ文化祭です!今日まで、準備に協力してくれて本当にありがとう!今年の文化祭が、高校生活の中で一番力を入れて頑張りました。私達実行委員の思いに応えてくれて、嬉しいです!明日からが本番です。頑張っていきましょう!!店長の挨拶は、最後にとっておくとして、まずは私からのお礼の挨拶でした。皆、最後までよろしくお願いします!!」
『ボスー!!最後までついていくぞー!!』
制作班で一番積極的に協力してくれた彼。名前は田中君。ありがとね。
「いいぞー!夏織ー!!」
珍しくテンションが高いさぎり。
『調理は俺たちに任せろー!宣伝にも回るぞー!!』
ムードメーカーの前田君。一番最初に私達に協力してくれた。
そして、肇。無言で頷いている。
ありがとう。
それからは、怒涛の二日間だった。
売り上げは、私達の予想を大幅に上回り、材料はすぐに底をついた。
特例として許可をもらい、午前中のうちには追加の材料や食器を買い出しに出た。
ウェイター班班長の山井さん(委員長)は、ここで力を発揮して、並ぶお客さんを見事に整理し、オーダーをスムーズに通した。もっとも、裏ではさぎりが相当フォローしてくれていたみたいだけど。
ウェイター班だけでは足りず、制作班の男子達までもが協力を申し出てくれた。
言い出してくれたのは、やっぱり田中君だった。急遽「最後尾」と書いた看板まで作ってくれた。
前田君は、予想外の混雑状況を見て休憩時間を返上し、調理班のクラスメイトに的確な指示を出していた。追加の買い出しの材料も、彼の指示で量を決めたんだけど、これが本当にぴったりで、文化祭が終わった時には残りわずかだった。
肇は店長として、行列になったお客さんが隣のクラスの迷惑にならないよう最善の注意を払い、クラスメイトを常にフォローしてくれた。おかげで大変な混雑状況であるにも関わらず、大きな問題も起きなかった。
結果、私達の模擬店【喫茶はじめ堂】は、売上はダントツでトップ。先生曰く「過去最高」らしかった。
生徒会が定めるクラスの出し物コンテストでは、模擬店部門のグランプリと、総合グランプリを受賞した。2部門受賞となったため、私と肇は二人とも壇上に上がり、並んで賞状を受け取った。
文化祭実行委員を引き受けた時は想像もしなかったことだ。私は、肇と並んで壇上にいられることが誇らしかった。ありがとう。ここまで頑張れたのは、肇のおかげよ。
全ての片付けを終え、教室に戻ってきた。
いよいよ、店長からの挨拶だ。
『皆、今日まで協力してくれてありがとう。皆のおかげで、グランプリを受賞することができました。本当に、感謝しています。山本さん。Tシャツのデザインや、小物の制作、当日はウェイター班のフォローまで、ありがとうございました。山井さん。接客指導やメニューの原案、混雑時の対応までしてくれて、ありがとうございました。それから、クラスで一番最初に意見をくれたのも、山井さんでしたね。ありがとうございました。浩司。当日は、休憩を返上してまで班長としていてくれてありがとう。それに、メニューの変更の提案がなければここまで売上は伸びなかったと思う。思えば最初に俺達実行委員を支持してくれたのも浩司だ。おかげで俺達はいいスタートを切れたし、自信を持って取り組んでこられた。ありがとう。心から感謝している。そして、同じ実行委員として、取り組み、俺達のお店の象徴でもあるカウンターを設計してくれた夏織!本当にありがとう。夏織がいなかったら、組んだのが夏織じゃなかったら、ここまでの結果にはならなかった。本当にありがとう。
俺達全員で作った店で、全員で考えたメニューを、全員で売って取れたグランプリです!!実行委員や班長だけじゃなく、全員誇りに思って欲しいです!!俺は、このクラスで最後の文化祭を終えられたことを、誇りに思ってます!!一生の思い出になりました!!本当にありがとう!!!』
肇…。あなたが一番立派よ。
私は、話の途中で涙を堪え切れなくなり、泣きながら話を聞いていた。周りを見ると、委員長や、田中君、前田君や先生まで泣いている。
間違いなくこのクラスが一番だと思った。高校最後がこのクラスで本当に良かったわ。
こうして、私達の高校最後の文化祭は終わった。打ち上げは、焼肉だった。
私は、制作班の男子に囲まれ「肇なら、ボスとお似合いだよな!」などと言われ、肇は肇で、調理班に囲まれて“激励“を受けていた。笑
その後、気持ちも落ち着いた私達は受験に集中し、無事に二人揃って志望校に合格した。
春からは、晴れて大学生ね。これからもずっと肇と一緒にいられると思うと嬉かった。
私は、大学卒業後はホームメーカーに就職。設計士として働いている。
肇とは、社会人になった今も付き合っている。。というよりは…
『夏織、今まで俺と一緒にいてくれてありがとう。これからも、ずっと一緒にいてほしい。俺には、夏織が絶対に必要だって、この7年でよくわかった。』
『結婚しよう』
と、まぁこんな感じよ。笑
卒業してから今までの話は、気が向いたらまた話すわ。
皆、最後まで私と肇の話を読んでくれてありがとう!
人生って、ちょっとしたきっかけで一気に変わるものね!
私達にとってそのきっかけはもちろん
文化祭実行委員!!
文化祭実行委員-Girl's side-「君との恋の物語」spin-off 日月香葉 @novelpinker
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