脱学校的人間(新編集版)〈6〉

 全ての人間が関わっていなければならない「学校的なもの」とは、まず第一に「学校という制度そのもの」であるのは言うまでもない。ゆえに、それに常に絶えず関係していなければならない全ての人間の現実生活そのものは、避け難く「制度的なもの」になっていく。

 そして人はその制度にもとづいて、自分自身に対しその制度の立て付けに見合ったさまざまな社会的な有用性を付け加えていく。その作業もまた、その制度の中で、その制度に見合った仕方で一元的になされていくのである。

 イリッチは「教育ばかりでなく現実の社会全体が学校化されてしまっている」(※1)と告発する。しかしそれは当然のことなのだ。それこそが学校の意図するところなのだから。

 学校は「社会そのものを学校化すること」において、その本来の役割とするものなのである。人々の社会的な生活・活動・行動をすべからく制度化し、一元化することによってこそ、学校はその本来の役割を実現する。それは、全ての人間を学校から社会に送り出すことにおいて、現実的に実現されるものなのだ。


 ところで、「全ての人間を学校から社会に送り出すこと」というのは、少し考えてみればそれがいかにも大それたことであるというのがわかるだろう。しかし学校はその自らの意図あるいは野心についてはいたって大真面目なのであり、逆に社会の方でも何の疑いもなくそのことを受け入れている。なぜならそれはすでに現実化されつつあることだからであり、人はすでにその現実を生きているからである。

 ただしそれは、現時点ではまだ「されつつある」というレベルにとどまってはいる。今のところはまだたしかに「全て」と言い切るまでにはいたっていないのだろう。しかし、それをあたかも「もはやすでに、全てであるかのように見せる」ようなマジックが、学校にはある。それは「まず結果から見せること」によって可能なものとなるのである。


 学校は人々に「学校がなくては生きられない社会」をまず見せる。

 「それがなくては生きていられない社会」というのは、「それさえあれば幸福に生きられる社会」という意味のものでもある。そのような、ある一定の結果からさかのぼったプロセスを、人々が共通に必要とする生活様式として、学校はまずそれを「制度的に」人々に示すのである。そのような、「それさえあれば」と考えられるようなものが現実として目の前にあるのなら、人はそれに対する欲望をけっして抑えることなどできはしないだろう。

 そのようにして「学校化」は、「人々がすでに学校がなくては生きられない社会に現実に生きているという前提」にもとづいて、その社会に生きる全ての人間の眼前に立ち上がる。「社会を構成する様々な諸制度を支えていく基盤を学校が作り出し」(※2)、それにより「社会全体の現実を制度化していく」(※3)ことで、それこそがこの現実社会を成り立たせているものだと人々に実感させていく。そのようにして学校は、そして「学校化」は、人々の「現実そのもの」として「その生活そのもの」に具体的に関わっていく。

 人々が具体的・現実的に生きているその社会において、その社会にとって、あるいはその社会に生きている人自身にとって、有用・有益な具体的・現実的なふるまいを、人々がそれぞれに身につけていく社会的な「あり方・仕方」が、それぞれの人に具体的・現実的におよぼす学校化のプロセスを経由して実現されることになる。そしてまさにそのような「社会的なふるまい」をそれぞれに学び取ることが、いかに自分自身の人生にとって有用・有益なものとなるという意識・実感を、人々はそれぞれ自分自身の体験の中で獲得していく。

 そこで人々は、それぞれ自分自身の「欲求や必要を、制度づくりでもって充たす」(※4)ことも同時に学んでいくだろう。人々がそれぞれに学んだ「制度的な振る舞い」をもって、それぞれ自ら進んでさらによりよい制度づくりに奉仕していくことで、彼らそれぞれの欲求や必要に見合った見返りが、やがては制度から与えられるものであるだろうと期待しつつ、人々はそれぞれその具体的・現実的な生活プロセスの中でさらに日々精進して学んでいくことだろう。


〈つづく〉


◎引用・参照

※1 イリッチ「脱学校の社会」

※2 山本哲士「学校の幻想 教育の幻想」

※3 山本哲士「学校の幻想 教育の幻想」

※4 山本哲士「学校の幻想 教育の幻想」

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