てふの夢

食連星

第1話

花街へ歩く男2人.


向かいから,ふらふらと女が1人.

童謡を繰り返し歌いながら,ゆらりゆらり.

高下駄が足元を更に覚束無くさせる.


赤い着物に蝶と華の模様.

帯は豪華な金飾り.

胸元ははだけて,薔薇のようなバラ疹.

髪は,まだらな脱毛が分かる.


「誰だろうね.」


「あれは…

蝶子さんかもしれませんね.

元花魁の.

最近,梅毒で下げられたとか.


狭いとこに押し込められていると聞いていましたが…

逃げ出てきたのか…」


すれ違いざま,

男の1人が声をかける.


「ねぇ,お嬢さん.」


聞こえていないように,

男の方を一度も見ない.


「蝶子さん?」


「お兄さんが,

わっちを買ってくれるのかい?」


顔を寄せて見れば,

やつれて青白くはあるものの,

目鼻立ちは美しく,

紅をさした唇は紅かった.


「名前を呼ばれたら客だと思うのを,

先ずやめろ.」

呼びかけた男が言う.


これまで,黙って様子を見ていた男が声をかける.

「若旦那.

花街で取り立てて,もう帰りましょう.」


「佐助.

持ってこられないから,

来ないのであって,

持ってこられるなら,

返してるでしょうよ.」


「いいんですよ.

押し問答なんてしてませんから.


もう,そんな端女は置いておきましょう.」


女が笑う.

「わっちは,これから郷里へ帰るのでありんす.

行く当てがない訳ではござりんせん.」


「こんななりで?

どこまで行くかは知らんが,

山越えの辺りで山賊に

身包み剥がれて転がされる.


そのまま,

動物に喰われるか.

その体は,もう意味をなさないからな.」


「意味が無いか有るかは,

わっちが決める.

主さんじゃござりんせん.」


女は,ふらっと進み始める.





「佐助.


連れ帰る.」


「えっ!?」


「見た所,後をつけてる者もいない.


面倒で厄介払いだろう.

野たれ死んで清々する輩しかおらんのだろ.

たわけしかおらんのか.

花街は色ボケた奴らばかりか.」


「若旦那.


それも,どうなる事か…

気が触れてお仕舞かも…


全ては救えませんよ.


こいつを救ったとせぇ,

また,

同じような奴の繰り返しですから.」


「いいんだよ.


落ちてるところに

ちょうど出くわしたんだ.

天命であろうよ.」


「犬猫みたいに…


犬猫みたいには,いかないんですよ!

彼女たちは人ですから.

絶対,厄介な事になる!」


「あっはっは.

面倒な奴らは

全部やっつけちまえばいいんだろ.」


「はぁ…

物騒な…

そして…

厄介な…


面倒なご主人に付いてきてしまった.」


「何だ?

佐助,女,

戻るぞ.」


女のはだけた胸元を直し,

男は元来た道を戻って行った.



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てふの夢 食連星 @kakumi

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