第4話 窓を見ながら不敵な笑みを浮かべてる


 なんか、気持ち悪い顔をしている人がいる。容姿は別に悪いわけではない。中性的な顔立ちをしていて整っていた。

 男だったらイケメンと言われ、女性だったら可愛い感じの顔だと思った。


 男の子か女の子格別がつかない可愛らしい中性的な顔立ちだった。


 だが、彼、もしくは彼女が浮かべている表情のせいで私は不快感を覚えていた。その可愛い顔を台無しにするほどの気持ちが悪い笑みを浮かべていたからだ。可愛い顔立ちがさらに不気味さを際立たせていた。自殺をした人は美人やイケメンの方が怖く見えるという話を聞いたことがあった。このことかと私は感じた。


 あの人も多少の自覚はあるみたい。窓の方を虚な眼差しで見つめていた。何か考え事をしているみたいだった。

 だけど、あんな表情をしながら考えることなんて、相当思い悩んでいるんだろう。人生誰にでも悩みがあるんだなぁ〜と私も考えている。

 どんな表情で私は今考え事をしているんだろう。人の表情ってよく見るけど、私の表情ってあまり見ないな。

 鏡の写る自分の顔って、だいたい決まった身支度とか、トイレとか決まった時間しか見ないから、こんな時どんな表情をしているのかわからない。


 普通の顔か、少し呆けてる感じだと私は結論を出した。


 けど、あんな表情をして考えるなんて相当悲しいことがあって、笑うしかないんだろうな。

 小説で胸が締め付けられるって表現があるけど、こんな感じなのかな。


 そう思うと、さらに胸が締め付けられる感じがした。心が引き裂かれるという表現がなされる段階までは程遠い。しかし、私は心に引っかかるものをあの人に感じていた。


 私は今までに一度の恋をしたことがなかったけれども、この感情が恋でないことは直感的にわかった。この感情がなんなのかと、また私は頭を回転させた。


 

 なんかよく言い表せないけど、恋ぽっくはないかな。不思議とそう感じる。母性本能かな。けど、それとは違う。友情かな。けど、喋ったこともないのに、それはないよね。


 心の中で少し笑った。苦笑いという言葉がぴったりの笑いだった。

 

 

 恋じゃなくて、友情でもない。国語の授業で習った「慈しみ」とか「憐れみ」みたいなものかな。う〜ん、わからないや。


 少し時間をおいてから、私はやはりその感情がなんなのかが気になって、また何かしら考え始めた。



 恋じゃない。慈しみとかが一番近いような気がするけど、その言葉の意味は知ってるけど、これだ。という感じで感じたことはないんだよね。けど、あの人カッコいいなぁ〜。かわいいなぁ〜。普通の顔をしていたら、ずっと見てたいぐらい。


 これが、もしかして恋。


 そう思った途端に、私の顔が赤面するのが自分でもわかった。

 

 顔が熱い。火照ってる。これが恋なのかな。お風呂を上がった後とか、ホットミルクを飲んだ時とか、軽い運動した時とは何か違う。さっき、恋じゃないって思ったのに…


 

 なんだか大人の階段を登った気がした。甘い春の匂いがする。だけど、最初は不快感を覚えていた人の顔が急に愛おしくなってきた。

 


私は考えるのをやめた。とても恥ずかしくなったから。


 

 


 

 

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静寂の中でコーヒーを飲む話 うりしゅぎ @urisyugi1316

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