迷宮探索×VS隠しボス
三人で蔦に覆われた門を動かして校門を開けながら気がついたことを口にする。
蔦が門と地面を繋いでいるせいで開けにくかったが、星野の馬鹿力でこじ開けることが出来た。
「……これ、俺たちが開ける前に枯れて千切れた蔦が落ちてたな。この門を誰か前に動かした時に千切れたんだろうが……。それから少し覆われているところを見るに蔦が枯れるような冬前から、蔦が多少伸び出す時期……おおよそ十一月の中頃から三月の中頃までの間に誰かが出入りしたっぽいな」
俺の言葉を聞いた星野は「あー」と合点が言ったような声を出してから俺の方に目を向ける。
「いや、まぁそれはそうなんだろうけど、今関係あるか?」
「この【在りし日の窓】と前の【試練の洞穴】は中層で繋がっているようだから、ここを出入り口に使ってる可能性はあるだろ。まぁ、この様子だと頻繁に出入りはしていなさそうだな」
以前に出入りしたものはツツを狙っている探索者たちではないだろう。……というか、多分、初の父親だ。
こんな辺境なところにある迷宮に潜るものは限られているし、初の父親はここのデータを取っていたわけだから可能性は高い。
「ふたりとも、もう迷宮の中なんだからあんまり気を抜かないようにね。あと、基本的に私が前に出て戦うからね。不死身だから」
ふたりとも、と、新子は言うが明らかに俺の方に目を向けていて俺への言葉である。特に後半の方は。
まぁ、情報の収集はほどほどにするか。と考えはするがどうしても視線は勝手に動く。
空を飛ぶ鳥は妙に大きく、それに東京に生息していなさそうな猛禽類の特徴が見える。地面を見るとグラウンドはほとんど草が生えておらず、むしろ地面に敷かれたタイルのところの方が茂っている。
「グラウンドにはあんま生えてないのな、土なのに」
「ああ、まぁ……多分雑草対策みたいなのしてるだろうしな。タイルとかコンクリとかの下はそんなに雑草対策してないだろうから、むしろグラウンドの方が生え難いのかも」
学校という建物はことの他に丈夫なのか、長いこと手入れされていないのに倒壊などはしそうになさそうだ。
「……窓から侵入するということだったが、どこからがいいと思う」
「当然一階の方が侵入しやすいけど、半世紀以上遡るとなると五十回とかになるよな。四階までよじ登るか。……あ、そう言えば迷宮の入り口なのにスキル得られる用紙がないな」
「あー、こういう出入りが簡単なタイプの迷宮は入り口に配置されてないことが多いの。んー、戦力が増えるに越したことないし、一回全部見回ろうか」
早く進みたいが……いや、安全のために退路を確保するのに目で見て把握していた方がいいか。
早い方がいいと言うだけで、確実に今日見つけなければいけないというものでもない。
「北棟と南棟、それにグラウンド、体育館、武道場、プール、飼育小屋、裏庭……ってところか。北棟と南棟は必要にしても他は回る意味あると思うか?」
「んー、そこまで手間でもないから安全の確保って意味で調べた方がいいかも」
まぁ、それはそうか。まず見晴らしのいいグラウンドに立ち入る意味はないので、上空の鳥に注意を払いつつ屋外にあったプールを覗き込む。少し緑とヘドロが混じったような匂いがする。
プールの中にはどこかからか飛んできた枯れ葉が積もってそれが腐っているようだ。あれだと魚などはいないだろうと思っていると、水面に軽い飛沫が立つ。
「……なんかいる」
「なんかいるね」
「なんかいるな。……ここは入らない方がいいっぽいな」
続けて近くの武道場に入ろうと扉に手をかけると、寂れて腐り落ちかけた扉が外れる。
「うわ……」と思いながら中をスマホのライトで照らすと、鎧兜が座るような形で部屋の中央に落ちていた。
星野がそれを見て「あ、刀あるじゃん」と言って近づき、足を踏み入れた瞬間にすっと鎧兜が立ち上がる。
星野が「うわ、動いた」と言って足を戻すと鎧兜はすっと座り直す。
「……ヨク、なんか動くんだけど」
「緊張感ねえな……魔物だろ。武道場に踏み入ったら動くみたいだな」
星野がもう一度足を踏み入れると、また鎧兜は立ち上がり、星野が足を戻すと鎧兜は座る。
「……武器はほしいけど、魔物と戦うのもリスクがありそうだな」
「あ、じゃあ私行こうか? 不死身だしさ」
俺が止める間もなく新子は脚を踏み入れ、そして数歩ゆっくり歩いて鎧兜に近づいた瞬間、鎧兜の手元が残像を残して消える。
「……へ?」
と、新子が気付いた時には鎧兜の刀は抜き放たれていて、その切っ先には赤い血が滴っていた。
「って、いったぁああ!!」
新子は自分のお腹を押さえながらぴょこぴょこと跳ねて後退して俺たちの元に戻ってきて、座り直した鎧兜を恨みを込めた目で睨む。
「お腹から背中にかけて痛い……めっちゃ斬られた……。服も切れた……」
新子が腹から手を離すと、一瞬の間に胴体が真っ二つにされたらしく斜めに切られた服がずり落ちる。
腹を出すような格好になっている新子から目を逸らして鎧兜に目を向ける。動き出す様子はなく、本当に入った奴を攻撃するだけの魔物のようだ。
「……あれは無視した方がいいかな。私なら倒せないこともないけど」
「それより真っ二つにされたのに大丈夫なのか?」
「あ、うん。これぐらいなら平気だよ。多分、あれはなんか倒さなくてもいいけど倒したらいいアイテムを落とす系の敵かな。基本は関わらないのが正解だよ」
それならいいか……それにしても速かったな。あれは俺でも避けるのは大変そうだ。もし躱せなかったら大惨事だしな。
とりあえず上着を新子に渡して白い腹と背中を隠してもらっていると、星野は口元を押さえて考え込む様子を見せる。
「……あれ、すげえいい武器っぽくてほしいな」
「えー、んー、私が頑張って倒してもいいけど……。えっと、じゃあ、二人とも後ろを向いていてほしいな。斬られ続けたら身体は治っても服はそうはいかないから……裸を見られるのは、ちょっと恥ずかしいしさ」
新子はもじもじとしながら俺の渡した上着を脱ごうとして、星野はそれをあまり気にした様子もなく手で止める。
「いや……踏み込まない限りあそこに座ってるなら遠距離攻撃なら案外簡単に倒せるんじゃないか?」
「あー」
まぁダメ元で試してみるかということで、星野は近くに落ちていた石を拾ってきて鎧兜に向かって軽く放った。
鎧兜に石が当たると思った瞬間、鎧兜の周りにガラスのような壁が発生して石が弾かれる。
「遠距離対策もバッチリだね。ギミック系っぽいし、あの光の壁は突破は難しそう」
「武器は諦めて探索に戻るか」
新子に無理をさせたくないしな。そう思っていると、星野は諦めきれない様子で鎧兜を見て、そして脚を踏み入れる。
スッと立ち上がる鎧兜を見て、俺が慌てて星野を止めようとすると星野はそれ以上踏み込むことをせずに足を戻す。
「おい、危ないぞ」
「……いや、もう一つ試したいことがあるからやっていいか?」
「試したいこと?」
星野は頷きながら武道場に足を踏み入れ、足を戻す。そしてまた足を伸ばして縮める。
その星野の動きに合わせて鎧兜は立ち上がろうとして、中腰の姿勢で座り直そうとして、また立ち上がろうとする。
「星野、お前、まさか……」
俺があまりのことに言葉を失うが、星野はそんな俺の様子を気にすることもなく足を入れては出してを繰り返していく。
それに合わせて鎧兜は立ち上がろうとしている途中で座ろうとして、座ろうとしている途中で立ち上がろうとして、まるで不恰好なスクワットのような動きを繰り返していく。
「いや、無理だろ……スクワットで疲れさせるのは」
「いや、待ってヨクくん。あの鎧兜、若干動きが鈍くなってる……!」
付き合わなくてもいいのに、律儀に立って座ってを繰り返している鎧兜はその装備の重さの故にか、回数を重ねる事に疲労を見せていく。
「っ! 頑張ってる! あの鎧兜、頑張ってるよヨクくん!」
「ああ……すごい根性だ」
ひたすらスクワットをしていた鎧兜は立ち上がろうとするが体勢を崩して地面に倒れる。けれども再び星野の足が踏み込まれる。
「っ……! 頑張れ、頑張れ……!」
必死に立ち上がろうとする鎧兜を新子が応援していくが、鎧兜は膝をガクガクと震わせて立ち上がる!
何かやり遂げたような感動を覚え、思わず拍手を送ろうとした瞬間、鎧兜はもはや立ち上がり続ける気力すらないのかガチャンと音を立てて盛大に倒れる。
「っ! 鎧兜!」
俺が彼を心配していると、星野はまた足を戻して、それから踏み込ませる。
鎧兜はもう立ち上がることすら出来ない様子で、グッタリともがくだけだ。倒れた拍子に刀も落としてしまっていて、その刀を拾いにいくことも出来ていない。
「よし、弱らせたし倒すか」
「星野お前、鬼畜って言われないか?」
こんなの人間の所業じゃないだろ……。と思っていると、星野は刀を拾い上げて、痛みに耐えながらも戦おうともがく鎧兜の隙間に突き刺す。
容赦ねえっすね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます