美少女×おっぱい

 俺が少し気まずそうな表情をしたからか、北枕はこてりと首を傾げる。


「どうかしたの?」

「初対面の人間とふたりきりということに強い気まずさを覚えている感じだ。……というか、勉強はいいのか?」

「この学校に関しては私が先輩だから色々と教えてあげようと思ってね。聞きたいこととかないの?」


 聞きたいことね…….。今言われてもすぐに出てくるようなものはあまりなく、少し考えてから学校指定っぽいジャージに目を向ける。


「……それについて聞きたいな」

「ふぇっ!? い、いや……な、なかなか唐突に踏み込むね……。ま、まぁ男の子っておっぱい好きだもんね?」

「いや、胸ではなく服装な。なんでジャージなのかとか」

「あ、あー、なるほどね? 分かっていたよ、分かっていたともさ。ジャージなのは自分一人だけだから楽でいいかなぁって思ってこうなった感じかな。こたつに制服だとよれよれになっちゃうし」


 北枕はそう言った後、だらーっとコタツに顔を乗せて不満そうに口を開く。


「来るなら来るって教えてくれてたらちゃんとしてたのにー。年頃の若者みたいにキャピキャピした感じで」


 まぁ流石にジャージは寛ぎすぎだと思う。


 自分で勉強するための道具は持ってきていなかったので先程もらった冊子に目を通していくと、正面に座っていた北枕も勉強をし始める。


 冊子はなんか意識の高いことが延々と書かれていたが、目の前の北枕の様子を見るにその理念やら方針やらが上手くいっていないことは分かり、流し読みだけして閉じた。


 一応持ってきていた筆箱とノートを取り出して、片手にスマホを持って少し考える。


 ……初の手伝いをしようと思う。少なくとも一年間は。

 それ以降は収入がないと生活出来ないので難しいか。


 ……いや、そう言えば迷宮探索者って結構ひと財産を稼いでいる印象があるな。と思いスマホで検索すると、探索者は主に『迷宮内で発生する宝の回収』や『魔物を倒すと出てくるドロップアイテムの売却』や『迷宮発生時に巻き込まれた現世の遺物の売却』で生計を立てているらしい。

 それに加えて『自伝の出版やタレント活動』などもあるようだが、これは例外と考えてもいいだろう。


 つまり、迷宮探索で物を拾って売り捌けば金にはなるらしいし、場合によっては一個で一千万から数億ぐらいの値段が付くものもあるようだ。


 まぁ、そこら辺はよほど運が良くないと無理だろうが……月に一度の探索でコンスタントに数十万程度の収入になっている人も多く、生活費やらはなんとかなるかもしれない。


 それ以上に迷宮の危険性や被害を周知する話や、探索者になるのを引き止める話の方が圧倒的に多いが。

 まぁ手伝いをするなら迷宮探索は必須だからそれは仕方ないか。


 別に死んでも悲しむ人はいないだろうし、危険などは気軽に考えておこう。


 問題はむしろスキル【英雄徒労の遅延行為アウトローチェーン】のせいで魔物を倒すことが出来ないということだ。


 探索する分には問題ないが、ドロップアイテムは手に入れられないので実入りは少なそうだ。まぁ研究の引き継ぎが主な目的なので別にいいか。


 ついでに迷宮のある場所を検索するも、東京周辺は多すぎて参考にならない。昨日の迷宮もネットには載っていない未発見ダンジョンだったし、この辺りは親父の研究資料を漁った方がいいか。

 具体的な内容は見てないが周辺の迷宮の場所ぐらいは載っているだろう。


 今日は帰って親父の書斎を調べて……いや、そう言えば初に街の案内をしてもらうんだったか。

 迷宮の場所を示した地図を見るとしてもある程度土地勘があった方がいいだろうし、明日とかにしようか。


 などと頭の中で簡単な計画を立てていると、北枕がこちらをジッと見ていることに気がつく。


「北枕、どうした?」

「サヤでいいよ。えっと、ヨクくんって勉強得意?」

「勉強? 得意だが」


 俺が答えると彼女は少し驚いた顔をする。


「勉強得意って聞かれて得意って答える人間って存在したんだ……」

「いや……まぁ実際出来る方だしなぁ」

「ほー、この学校一の学力を誇る私によくそんな大口を叩けたね」

「この学校の高校生ってサヤだけだろ」

「ふふ、じゃあ、ヨクくんはこの問題が解けるというのか!」


 そうやって突き出された問題は、中学三年生で習うようなとても簡単なものだった。


「えぇ……今の時期にこれ分からないのか? 大丈夫か? まぁ受ける大学によるだろうけど」

「が、ガチの心配をされた……。この学校一の美少女……いや、この学校一の……う、うーん」

「そこは言い切れよ……」

「いや、初ちゃんの方が可愛いし……」


 それは否定しない。

 昨日初めて初を見たときのことを思い出す。透けるような可憐な雰囲気と綺麗な瞳から流れ落ちる大粒の涙。

 妖精が宝石を零したような光景を思い出して深く頷くと、サヤは少し面白そうに笑う。


「もしかしてヨクくんってシスコン?」

「そんなわけないだろ。それより、その問題なら教えてやるからノートを見ろ」

「あ、はーい。どうしたらいいの?」

「応用にもなってない基礎のところだからまず公式を覚えろ。というか、ここが分からないのって、もっと前のから分かってないところあるだろ。分からないからって変に飛ばしたら余計に分からなくなるぞ」

「軽い気持ちで聞いたらガチで叱られてる……」

「テスト結果の見直しとかしてるか? 点数を見るんじゃなくて間違えたところを見直しするんだぞ?」

「マジの奴だ……。うー、よし、休憩! ちょっと息抜きに遊ぼう!」


 時計を見ると勉強を始めてから一時間は経っていたので休憩するのはいいか。と思ってスマホに目を落とすと、サヤはずいっと俺に顔を近づける。

 綺麗な顔と女性のいい匂いに思わずたじろぐとサヤはしてやったりとばかりにニマーと笑みを浮かべる。


「あれれー、クールな転校生ぶってるのに照れちゃったの?」

「……照れてない」

「まぁ、この学校一の美……あー、んー、お、おっぱいが大きい私が相手だから仕方ないね」


 さっき見たピンク色の下着に包まれたおっぱいは確かにとてもむにむにしていて大きかったけれども……。サヤは自分で言っていて恥ずかしくなったのか顔を赤く染めており、恥ずかしいなら言わなければいいのにと思ってしまう。


「そ、それで何して遊ぶ? トランプする?」

「俺もやるのか……」

「スマホばっかり弄ってたらスマホ脳になっちゃうよ? 恐ろしい病だよ?」

「実在しないし、そんなに怖くないだろ……」

「最終的には全身の穴という穴から緑色の液体を吹き出して死に至る」

「スマホ脳こわっ。……別に遊ぶのはいいんだけど、二人でトランプってのもな」

「じゃあオセロ? チェス? 囲碁や将棋もあるよ」

「なんでもあるな……。じゃあオセロで。他は息抜きにしては時間かかるだろ」


 サヤは立ち上がってロッカーからオセロ板を取り出し、俺がその様子を見ていると少し恥ずかしそうにジャージの裾を引っ張る。


「うー、ちょっと恥ずかしいね。ちゃんとした格好にしてたらよかった……」

「別に俺は気にしないが」

「私が気にするのっ。お昼に食べに帰るついでに着替えて来ようかな……」


 サヤはそう言いながらこたつに戻ってきて机の真ん中にオセロ板を置く。


 そういえば昼食とか持ってきてないな。まぁ一食ぐらい食べないでいいか。

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