ルージュ

あおいろ

第1話

決して外にはつけてはいかない、お気に入りのルージュがある。


少しの黄味も含んでいない真っ赤なそのルージュは、甘い匂いと相まって、塗るたびにクラクラとめまいがした。


キャップを開ければ、ショコラの香りが鼻先をかすめる。ルージュを滑らせると、ローズがかった唇が真紅に変わる。

顔を引いて鏡を見れば、普段と違う自分がそこにいた。


滑稽な姿だ。まるで似合っていない。



薄い顔に真っ赤なルージュを引いたその姿は、いつかテレビで見た人食いの化け物のようだった。


この似合わない濃いリップを、指でぼかす。こうすればこの化け物のような姿よりはマシになることができた。


自分の顔と馴染むまで、何度も何度も指で唇をなぞらせながら、愛しいあの人のことを想った。そして同時にあの人に愛される憎い女を思い出すのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルージュ あおいろ @aoiroaoiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ