おちちの話、これにておしまい
すっかり立場が弱くなってしまった祖母ですが、まだ完全に力を失ったわけではありません。というのも、伯母だけは「おばあちゃん最高!」という洗脳がとけておらず、祖母に尽くしているからです。
祖父が病気で亡くなった後、一人暮らしはしたくないという祖母のために、伯母夫婦は同居を決めました。祖母は、自分から頼んで同居してもらったくせに伯母の家事にあれこれ文句を言い、出かけるときはいつも伯母の運転する車による送り迎えつきで、にもかかわらず車に酔うと文句を言い、新型コロナが流行る前は月に2回は温泉につれていってもらって旅館の料理や温泉に文句を言うという暮らしぶりでした。お金の心配もなく、体も頭も衰えずしっかりしていて、私から見たらとても幸せな80代だと思うのですが、本人は「この世に私ほど不幸な女はいない」と言っています。自分が幸せだと気づけないというのは、確かに不幸なことでしょうね。どっちかっていうと伯母のほうが「素敵なおばあちゃんと一緒に暮らせて幸せ!」って感じです。多分一生洗脳がとけないタイプ。でも本人は幸せなのかもしれないので、そっとしとこうと思います。
祖母って80代でもこれだけ図々しく暮らしているので、もしかしたらあと300年ぐらい生きるんじゃないかなという気がしてきました。おちち詐欺をかましながら、「私ほど優しくて控え目な人はいない」と本気で言ってのけるようなメンタルの人だから、たとえ死んだとしても生き返るかもしれません。ちなみに祖母からは「私の戒名はお寺さんに頼んで一番値段の高いのにして!」と仰せつかっております。私は「死んだ後のことを私たちに言っても無駄だよ、だって多分私たちのほうが先に死ぬから」って言っておきました。「そんなわけないじゃないの」って祖母は笑っておりましたが、私はわりと本気です。
以上、乳がんサバイバーじゃなかった祖母のお話でした。
あと、いまだに理由を聞けずにいるけど、なんで「おちち」って言うの。やっぱり変だと思うんだけど。
なんなの、おちちって。
<おしまい>
で。
ここから先は後日談なのですが、母が乳がんになりました。
ユリちゃんといい、母といい、やっぱりうちは乳がんの家系なのかも? と思います。だとすると、なぜ祖母だけ無病でいられるのかが本当に不可解ではあるのですが……。
母は手術前、私にこんなことを言いました。
「手術で摘出した腫瘍は写真にとって、あとで見せてほしい」
記念に見ておきたいそうです。なんかもっとこう、涙の出るような、家族ドラマみたいなセリフでも言うのかと思ったら、記念撮影の依頼でしたよ。
手術後、退院するときに私が迎えにいき、「入院生活はどうだった?」と聞いたら、「病院の前に植えられている木は最近植えられたもので、すごくお金がかかったんだって!」ということと、「執刀医の先生のズボンが破けていた」ということを教えてくれました。うーん、そういうことじゃなくてさあ。
変なのは祖母だけではなくて、うちの一族全員なのかもなあと思いました。
☆さらに追記。
その後、私たちは元気に過ごしております。あれですね、やっぱり早期発見、早期治療って大事なんだなって思います。それもこれも自分たちは乳がんの家系なのだと誤解していたからこそ検診を受けるなどして用心していたからなのかも。ということは、結果的に祖母のおかげってことになるんでしょうか。どうも腹が立つなあ。
「アタクシのおかで、あーたたちは元気なのよぉ! あははは! 感謝なさい」と高らかに笑いながらいいそう。想像するだけで腹立つ。素直に感謝する気持ちになれない狭量なワタクシ。
そうそう、私も実はしこりが見つかったんですよ。
以前から月に一度は自分で触診しておりまして、ある日、左胸にしこりを発見!
ついにこのときが来たなと思い、覚悟して乳腺科で診ていただきました。結果は良性のものでした。拍子抜け~。しこりのサイズが1ミリという極小サイズだったので、先生から「こんなの小さすぎて普通触ってもわかりませんよ」と驚かれました。いやいや毎月触ってれば小さくても気づくもんですよ。継続って大事。ちなみに先生は触診では発見できず(ここですって私が場所をお伝えしてもわからんとのことでした)、超音波の技師さんも苦戦しておられて、でもマンモにはばっちり写っておりました。マンモすごい。あと私の指もすごい。えっへん!
検診とセルフ触診、大事!
そんなことを最後に書きまして、こちらはそろそろ締めたいと思います。お読みいただきましてありがとうございました。
<完>
祖母が乳がんサバイバー「じゃなかった」話 ゴオルド @hasupalen
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