4-2(7)親はバカンス、俺は四苦八苦
「た、ただいまぁ…………」
「あらあら
忙殺されたものの、平和に終わった一日の終わり。ようやく
味のほとんど感じない食事を進めつつ、
「ふむ……泥か」
「やぁねぇ」
他人事の両親へ忘れていた現状の報告をしておく。
「出どころはわからないから、まだ調べないといけないけどね」
「で……その前に我らが自慢の息子は特定妖魔殿や謎の妖魔に弄ばれていいように逃げられた、と?」
「仕方ないだろ。海の中で仕事した経験なんてないし」
「あら、珍しく弱気じゃなぁい? 境くん」
んなこたぁない。
……ないんだが、いつものパフォーマンスを発揮できない空間では勝手が違う。泥沼化した戦闘がさらに間伸びするか、そこで仕留めきれなくて追い詰められず逃げられるかだ。嫌なパターンは後者。土地神である以上、余計な被害を出すわけにはいかない。仙のやつにもありがたいお説教をもらいたくないしな。
厄介なのは海の中で戦わなければいけないという事だ。こちらは陸で生きる妖魔だから、どうやっても大喰らいや
「魚って速いんだなぁ、競争したら負けるぞ」
「なにも真正面からやり合わなくてもいいだろう?」
親父が珍しくアドバイスである。
「そうねぇ、お魚さんの妖魔がいる海の中に合わせる必要はないんじゃなぁい?」
「必要ないって……じゃあどうしたら」
大抵の敵は一発殴ってしまえば解決しまうハイスペックな本体を持ってしまったが故の、実に贅沢な悩みである。
そんな俺に対して、母は無邪気に微笑む。
「境くんがいっつも強いのは、なにも身体のスペックだけじゃないのよぉ?」
「……どういう事?」
「つまりママが言いたいのは、境くんは能力だけではなく常に勝てる環境──戦いやすい土俵でいつもおつかいをこなしていたということさ。今回は突然のハプニングで海に引き摺り込まれて、結果的に相手の有利な環境に持ち込まれたということだ」
「さっすがパパぁ! わかりやすいわぁ~」
いやいや〜と息子の前でイチャつく両親へ冷ややかな眼差しで見つめる。年甲斐もなくバカップルっぽさを見せられるのはなんとも言えない気分になる。碧海市を出た前にも増しているような気もするが、気にしないでおこう。
「つまりぃ!
人差し指を左右に振りながら、もったいぶってゆっくりと母は続ける。
「かわいいかわいい夕緋ちゃんたちを虐める境くんは嫌いだから、今回も
「い゛っ……んなもん誤解! 逃げられる状況じゃなかったから実力差をわからせたまでだよ!」
勘違いも甚だしい。
「んもぅ、照れちゃってぇ。好きな子相手ほど素直になれないってママはわかってるゾ!」
「はぁ……アホくさ」
……なにか根本的に思い違いをしている。
そもそも男子大学生と女子高校生という組み合わせはなかなかに危ない、とは世間の認識である。
「まぁ、境くんの性的趣向は置いておいてママの言うことは最もだ」
「違うと言っておろうに」
「そういうことではなくて……単独で挑む必要のある本体よりも、多くの人間と協力して『相手を自分の土俵に持ち込む』ことがしやすい、擬態の方が合理的だろう?」
土地神の一撃さえ当てれば良いなら飛び道具がある、という点でもそれは一理ある。この
しゃーない、
まずはガバガバな海の規制、それと対策課でもっと細かい海域調査だな。腐海の中身をもっと調べないと、戦うにも準備ができないぞ。……ま、それは明日だな。
それはそれとして。
「あのさ……二人ともその服装はなんか聞いてほしいの?」
「あぁ、これかい?」
両親は顔を見合わせると「ふふふ」と和やかに微笑む。
「境くん、パパとママは明日からバカンスだから留守の間に腐海の件は解決してくれたまえよ」
「はっ⁉︎ こんな状況で息子置いて旅行かよ!」
「う〜ん、何事もなければ境くん今頃東京の方で夏休み中だと思うんだけどなぁ〜?」
「ぬぅ! それは反則……」
実家に戻っている手前、強く出られないことを利用されている。
さすが
「わぁった、わかりましたよ……行ってらっしゃい」
「お土産、期待して待っててね~」
これが相手の有利な環境ってことか……
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