1-3(4)偽黒蜥蜴の正体



 作戦で行動する予定の職員が移動し、夕日が暮れる前の時間帯に翠山の前に集合していた。


『これより作戦を開始します。先頭は白神、漆葉の二人で。可能な限り戦闘は避けて進んでください』


 戦える職員が三十人ほど集まり、碧海市の山──もとい、父親の山の麓にいた。榊は支部から通信を行なっている。

 会議の内容は至極簡素なものだった。ハルトは幸いにも通信機を持っていた状態でさらわれたため、それに内蔵されているGPSで所在自体は判明していた。現在もゆっくりでああるが山奥へ移動している。


(可能な限りっつーか、山にいる妖魔で人間に挑もうとする奴なんていないけどなぁ)


 住み慣れた山に、というか実家の庭に擬態の姿で踏み込むのも新鮮である。周りの職員は緊張感でピリピリしていると言うのに、随分場違いな感じ。


(父さんたちに電話しとくんだったな)


 まぁあの二人のことだからとっくに手を回しているだろうけども。山に棲む妖魔は他の所から追いやられてここに来たわけだから、怯えて隠れていてくれればと祈るしかない。


「漆葉さん、大丈夫ですか?」

「え? あ、あぁ。ちょっと考え事をな」

「心配いりません! いざとなれば漆葉さんがまた覚醒すればいいだけですから!」


 頼みの綱が希望的観測とは………冗談だろうがあまり笑えない。刀への充填が四割しかないことを告げても白神は『なんとかなる』の一点張りだったし。


「………アホくさ」


 いざとなったら妖魔もとに戻ればいいか。聞こえないようにぼやき、入山口から足を踏み入れた。


「静かですね………」

「もうすぐ夜になるしな。動物も寝るだろ」


 ほとんど妖魔の擬態だけどな。


「………暗くなって来ましたし、気をつけないとですね」


 今更ながらの発言だが、たしかに周りの見通しが悪くなりつつあった。


『だれ、か………』


 ふと、耳につけていた通信機からノイズ混じりの声が繋がる。


「この声、サナさん!」


 後続の人間達も騒然とする。生きてはいるようだが、どうにも声色がおかしい。通信を続けて、白神が応答する。


「サナさん、大丈夫ですか! 今どこですか!」


 白神の呼びかけに、機械越しの声は弱々しい声が返ってくる。


『土地神、さま………兄さん、を……大きい、木のところに………』


 サナが所在を伝える前に、通信はプツンと切れてしまった。


「サナさん? サナさん!」

「……切れたな。大きい木か」


 最初に偽物の黒蜥蜴と会った所かな。確か人間の登山道を歩いていれば行けた気がするが………というより、通信機持ってるなら場所も分かるか。


『変ね。サナさんの場所が特定できないわ』


 榊からの通信が割って入る。


「大きい木なら心当たりがあります。サナさんが心配です。とにかく急ぎましょう!」


 歩調を上げ、手がかりの木の下へ向かう。翠山自体登りやすい山の為、山の中腹にある巨木に辿り着くまでは時間はかからなかった。時刻は午後六時を回ろうとしている頃。


「いました! サナさん!」


 件の巨木を背に、サナは土まみれで倒れていた。幸い出血などはない。


「あ……土地神、さま」


 サナが重そうに瞼を開け、白神を見る。少し安堵したように口角を上げた。


「よかった……急いで手当を!」


 白神の指示で一旦小休止となる。


「あの後攫われた兄を追いかけて、妖魔を見つけたんですが……全く歯が立たず軽くあしらわれて……」


 サナが腕や足に痣が浮かんでいるのを見せる。


「土地神様………兄さんを、助けてください………!」


 大粒の涙を浮かべ、サナは白神に寄りかかる。


「心配しないでくださいサナさん。ハルトさんは必ず助け出しますから!」


 白神はサナを優しく抱きしめた。偽物とはいえ、その姿は紛れもなく土地神の有り様とも言えるだろう。だが、


 何かがおかしい。


「…………………」


 森にいる妖魔の気配を感じられないこと? 違うな。人間相手にノコノコ出てくるわけがない。先に出た来栖サナがあっさり見つかったことか? これも否、いや不自然か。


(そもそも、ハルトを攫った妖魔やつに追いつけるのか……?)


 偽黒蜥蜴がゆっくりハイキングでもやればサナが追いつくことも可能か。にしても出来過ぎ。まるでサナが到着することを待っていたかのような。


「うーむ」


 形だけ思案してみるものの、状況証拠しかないままでは憶測の域を出ない。傷ついたサナに何かを問い詰めたところで、周囲から顰蹙を買うだけだしな。


(……アホくさ)


 いつもの言葉で思考を止める。

 十分ほど経ってサナの手当てが終わり、支部と連絡を繋ぐ。


『そのままサナさんを含めての戦闘は危険ね………じゃあ、サナさんは何人かと下山。白神さんと漆葉君、あと残りは引き続き作戦を遂行して』

「あたしはこのまま行けます!」


『負傷者を抱えて黒蜥蜴を討伐なんて無謀です。勝手に行動して迷惑をかけのだから、素直にいうことを聞きなさい』

「サナさん、後は任せてください!」

「………了解しました」


 苦虫を噛み潰したような顔で、サナは職員数人と歩きはじめた。見送る白神をよそに、俺とすれ違う寸前、こちらを一瞥した。


「……」


 特に言い交わすでもなく、視線を向けた後、サナの口角はわずかに上がっていた。

 一人勝手に飛び出して痛い目を見たから大人しく引き下がった、にしてはできすぎているような。肉親のことを想って飛び出したなら、無理にでも同行しそうだがなぁ。


「流石に疑いが過ぎるか?」


 自虐気味に呟く。今まで誰かを疑う、なんてことしなかったものだから深読みになっている。


「うーん」

「さっきからどうしたんですか、漆葉さん」


 腕組みして見た目だけ悩んでいると、白神が寄ってきた。


「サナはそのまま一緒でも良かったんじゃないかなーと」

「だ、ダメですよ! 負傷している上もしものことがあったらハルトさんが悲しみます! それに──」

「それに?」

「サナさんは、大切な友達で仲間ですから!」


 その友達を疑っているとは言うまい。


「健気だねぇ」

「というより、何で漆葉さんはサナさんやハルトさんは下の名前で呼ぶのに私は苗字なんですか?」

「こんな時に何言ってんだ。単純にあいつらは来栖で呼ぶと紛らわしいだろ。お前は白神でいいんだよ」

「むぅ……全然信頼されてる感じがしないです」


 兜で表情は汲み取れないが、おそらくムスッとしているのだろうか。知らないとはいえ、真の黒蜥蜴である俺を容赦なくぶった斬る存在を信頼などできようか、いやできない。


「アホらし。ちゃんと頼りにしてるから安心しろ、土地神様」


 兜を小突いて適当に流す。

 偽物退治が終われば本格的に刀を奪わなければならない。結果として、こいつを裏切ることになる。人間の小娘一人の心情なんてほんっとうにどうでも良いが、何か胸につっかえている。


「先急ぐぞ、ハルトを見つけなきゃな」

「は、はい!」


 小休止を終え、再び森の奥へ進む。日は完全に暮れ、街の喧騒や光も届かなくなるほど翠山の奥へ入っている。しかし山奥へ進むにつれて、胸に引っかかったものがより気になる。


「結構来るとこまで来たような気がするんだけどな。支部長、ハルトはどの辺にいるんですか?」

『それがおかしいの。反応している地点はあなた達の今いる場所とほぼ同じよ』


 そもそも翠山という漠然とした指定が曖昧だった。山頂か、とりあえず行き止まりまでなのか。GPSの反応がここで途切れてるということは……


「土地神様! ハルトさんの通信機が落ちていました!」


 職員の一人が白神に見せる。見るも無残に壊れてはいるが、GPSの機能は生きていたようだ。


「どうするんだ? 妖魔の言う通りに従ってこのまま山登るか?」


 手がかりがなくなった以上、あとは妖魔の言葉をどう解釈するかによってどこを目指すか変わる。その間にもハルトの命は一刻の猶予を争う。暗闇の中、鬱蒼とした森が職員の不安を駆り立てる。ただのざわめきに慄く。


『とち、がみさま! ………きこえ』


 サナから通信が入る。他には連続した銃声。


「サナさん! どうしたんですか、よく聞こえません!」

「ヤツが! 妖魔が出て────きゃぁっ────」


 短い通信だったが、状況が悪い方向へ転がっていることは理解できた。


「う……うぅ……」


 不意に道の先、暗闇から小さなうめき声と共に足音が迫る。後ろの職員達は銃器を構え、白神が剣を構えた。臨戦態勢の人間たちはさておき、俺はライトで前方を照らした。


「う、漆葉!」


 目的のハルトだった。顔や体からは血が滲み左足を引きずっていた。


「ハルトさん!」


 一目散に駆け寄ったのは白神だった。


「すみません、土地神様……ご迷惑を……ぐっ」

「止血を、急いでください! 漆葉さん、力を使って治療を!」

「い、いえ土地神様………力は妖魔との戦闘に使ってください。応急処置だけで結構です」


 俺が力を使えば回復できることはハルトも知っていたが、少年はあえて拒否した。職員が応急処置を行う傍ら、ハルトを交えて状況を整理していた。


「どうやって妖魔から逃げたんだ?」

「森の奥の方に着いたら痛めつけられて。その後奴は仲間を呼びにどこかに消えたんだ。その隙を狙って出たが、この有様だ」

「とにかく無事で良かったです。漆葉さん、早くサナさんを助けに行きましょう!」

「ま、待ってください土地神様。サナに何かあったんですか!」


 ハルト発見までの事のあらましを説明するが、少年は意外にも冷静だった。


「オレは大丈夫です。後を追いますから、土地神様と漆葉だけでもサナのところへ!」


 こちらに噛み付くでもなく、至極真っ当な意見だった。


「いや、ハルトも一緒に……だ。サナを先に戻したから今こうなってるんだしな。これでお前に何かあったらまずいだろ」

「で、でも! 妖魔は仲間を呼んで」

「尚更だ。相手が何を企ててるか知らないが、怪我人置いて行けるか」


 無理やりハルトの肩を支える。銀髪の少年は気まずそうに息を吐いた。


「……すまない、漆葉」

「ま、気にするな」


 ひとまず人質だったハルトの確保を支部へ報告する。


『了解。通信の途切れたサナさん達が心配だわ。できるだけ早く向かって』


 状況は予断を許さない。俺たち一行は来た道を戻る。その最中、ハルトは毅然とした表情で周囲に気取られないよう努力していた。


(…………)


 ここに来ても何かおかしいという違和感が思考を逡巡させた。妖魔がサナ達を襲い分断を図ったことは理解できる。ただ、サナごと人質に取った方がこちらに手出しさせにくかったんじゃないのか?


(なんだかなぁ………あんまり頭を働かせるものじゃないな)


 白神含め他人が極限状態の中、一人心ここに在らず。むしろこの状態を作った偽黒蜥蜴のことに気が向いていた。


「お前が従者でよかったよ、漆葉」

「なんだよ、こんな時に」

「いや、ただそう思っただけだ」


 今まで結構失礼なこと言ってたわりに短い間で丸くなったものだ。


『聞こえる? 大変よ!』

「支部長? どうしたんですか?」


 榊の声はさっきと比べて切迫しているようだった。


『近隣の市に妖魔が多数出現したのよ! 各支部はその対応に追われている。碧海市はまだなにもないけど、できるだけ急いでサナさん達も回収して戻ってきて!』

「わかりました!」


 サナの安否、そして碧海市そのものに危険が忍び寄っている上で、白神は返事だけ応答した。


「ハルトさん、すみません。少し急ぎますね」

「大丈夫ですよ、土地神様」


 白神が俺を一瞥する。歩調を上げ、下山を急ぐ。流石に短時間で登り下りを往復して他の職員達は行きの上がっている者も出始めた。


「さすがに、ちょっと疲れるな」


 白神に鍛えられたから自信はあったが、俺自身も疲労が蓄積していた。


「あれは!」


 先刻サナと先に下山した職員が全員血まみれで倒れていた。一目散に白神が駆ける。


「ひどい……重症です。やむをえません、漆葉さん! 力を使ってください!」


 白神が桜色の刀を引き抜く。土地神の力で治癒させようと言うのだろうが、躊躇いが先走る。


「ハルトも言ってたけど、妖魔が襲って来たら対抗できなくなるぞ」


 念のため釘を刺したが、白神が納得することはなかった。


「………お願いします、漆葉さん!」


 土地神が従者に頼む光景は周りの人間にとっては異様に見えただろう。ハルトを他の職員に任せ、白神から刀を受け取る。


「そう言うと思ったよ」


 倒れていた職員に触れると、体が脱力を起こす。握った刀の光が減少するとは反比例して、触れた職員の体が癒えていく。


『充填残り三十二パーセントです』


 素っ気ない機械音声が土地神パワーの残量を知らせた。周りの、それに刀の声にも耳は貸さず、倒れていた者は残らず回復させた。


「良かった………ありがとうございます、漆葉さん!」

「決断したお前の手柄だよ、土地神様」


 感嘆の声が湧いていたがほぼ銀色の刀身を見てしまうと不安が先行する。心配から目を遠ざけるように刀を白神へ戻した。


『充填残り十二パーセントです』


 考えてみれば、今までは完全に力が込められた状態で妖魔を相手にして来た。今伝えられた残量で心許ないのは道理だ。


「そうだ! 皆さん、サナさんは一体どこに!」


 回復した職員達は傷こそ治っているものの、疲労困憊の様子だった。


「そ、それが……黒蜥蜴が急に現れて………気がついたらこの有様で……申し訳ありません」

「いえ、皆さんが無事で良かったです。サナさんを探しましょう!」


 またサナの捜索か……と一人でため息を吐いて地面を見ると潰れた空き缶が一つ。視界に入れた途端、腹の底から胃液の込み上げる感覚に襲われる。


「ったく、拾えばいいんだろ………」


 真っ平らなアルミ缶を拾った瞬間、先日の会話がフラッシュバックする。



『だがそんなことは些細な事だ。もうすぐ各地から同胞がこの街に集結する。まずはここを、オレ達のための国にする為土地神と、目障りな従者を葬る』



 まさに今じゃないのか?


「いたぞ、奴だ! 黒蜥蜴だ!」


 職員の一声で振り返る。暗闇の先、ライトを照らした位置に、直立不動で偽黒蜥蜴がいつの間にか静かに佇んでいた。

 直後、白神が踏み出すよりも疾く職員の首根っこを掴み、体を爪で切り裂き白神の前に投げ捨てた。


「貴様ぁッ!」


 白神が叫び、刀を振り上げ妖魔に踏み込む。斬撃は妖魔の横を掠めるだけで終わる。


「なっ……!」


 最小限の動きだけで妖魔は白神の一太刀を回避し、無防備になった身体へ腕をしならせ叩きつける。


「ぐはぁっ!」


 白神が反撃を受けたと同時に、幾人かの職員が銃器を構え、妖魔に発砲。地面を蹴り上げ、照明のある範囲から身を消し、上空から白神以外の人間達を襲う。


「ひ、怯むな! 撃て、撃てぇっ!」


 乾いた破裂音が連続して鳴るが、薬莢が地面を叩く音だけが虚しく続く。


「逃がすか!」


 暗黒の中、白神は独りで妖魔と応戦する。その中で俺は指揮が取れそうなハルトを優先した。


「ハルト、できるだけ下がって他の連中に指示してくれ」

「わ、わかった! お前は早く土地神のフォローを!」


 翻って戦闘の中心を見据えるが、マズルフラッシュと各々が持つ懐中電灯だけで状況は読めない。ただライトを持てば絶好の的になるのはわかりきっている。白神に加勢したいがスピードについていけない。少女の攻める声だけが戦いの様相を想像させた。


「考えても仕方ない!」


 混戦の中に足を踏み入れる。耳につけている通信機からハルトの声が職員達の指揮を取り始めていた。


「はぁぁっ!」


 最前線に合流したが、戦闘は膠着していた。白神が何度斬撃を繰り出しても、偽黒蜥蜴は見切っているように攻撃を避ける。


「なんで……私の太刀筋が」

「所詮子供の一振り。直線的で芸がない!」

「このぉっ!」


 手数こそ白神が多いが妖魔はそれを受け流し他の職員に爪で確実に傷を負わせていく。今加勢しても逆に同士討ちを招くだけ。


「ハルト! 白神の攻撃が見切られてる! なんか策ないか!」


 通信を促したが返答はない。


「……ハルト………?」


 ハルトの指揮が消えたのを引き金に、職員達の悲鳴が上がる。


「おいハルト! どうした、返事しろ!」


 目の前では攻めあぐねる白神と妖魔は視認できる。なのに聞こえる悲鳴は何だ? 来た道を振り返るが暗闇に閉ざされている。


「くそっ! 白神、気をつけろ! そいつ以外に何かが襲って来るぞ!」


 戦いの最前線に立つ少女に呼びかけるがこれも返答がない。状況がかなり傾いていることを支部に繋ごうとするが、ノイズに掻き消される。


「おい支部長! 誰か! 応答しないのかこのポンコツが!」


 通信機を地面に投げ捨て、前へ走る。なんとかして妖魔の隙を作らなければ勝機はない。


「はっ! くっ──なんで!」


 夜目が効いてきたのか、ライトなしでもある程度視界が広がる。蒼色の鎧を纏った少女は、妖魔に弄ばれていた。


「白神! 一旦下がれ!」


 体力を無駄に消費させる前に態勢の立て直しを図ろうとするが、肝心の少女に声が届かない。偽黒蜥蜴は軽やかに飛び、鎧の少女と距離を取った。他の戦える職員が銃弾を散らして退けるが、嘲るように跳躍しながらかく乱する。


「白神ッ!」


 ようやく声に気づいたのか、兜の正面がこちらを向いた。その背後から、暗闇に紛れてハルトが静かに姿を現わし、輪郭が浮かび上がる。その顔はいつもの表情とは全く異なる、邪悪な笑みを浮かべていた。



 刹那、山に入ってからの違和感を消し去るように、稲妻のように思考が駆け巡る。


『逃げる必要はない。ここで土地神もろとも消し去ってくれる!』


 土地神の力が目覚めた戦い。偽物の黒蜥蜴の一撃ひとつひとつが重く、強力だった。

 ────どこぞの兄の攻撃のように


『従者風情が!』


 電車での戦いで何故あいつは俺の事を従者と見破っていたのか。

 ────既に知っていたから


 奴は速く、しかし攻撃は軽かった。

 ────まるでどこかの少女のように


 なぜあいつはハルトをこの翠山に攫ったのか?

 ────碧海市に土地神がいたままでは行動に移せないから?



『もうすぐ各地から同胞がこの街に集結する。まずはここを、オレ達の為の土地にする』



 コンマ数秒の逡巡の間に、ハルトの左腕は、黒蜥蜴のそれに変わっていた。眼前の妖魔に集中していた白神にとって死角だ。


 銃声の響く中、漆葉は無意識に叫ぶ。



「夕緋ッ────後ろだ!」



 なぜ偽黒蜥蜴がいるのに、ハルトの腕も化け物になっているのか──簡単な話である。


 最初から偽物は二体だった。

 それが誰なのかは、目の前のハルトが答え合わせになっていた。

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