Chapter 2 エピローグ




 空は晴天。


 碧海市は、今日も平和である。

 ひすい公園のど真ん中。持ってきていた水筒の茶が程よく口を湿らせる。


「うるはさーん!」


 あぁ、やかましいのが来た。


「もぅ……またサボってるんですか! そろそろ漆葉さんも涼香さんの訓練出ないと怒られちゃいますよ!」

「まぁまぁ白神さん、面倒な妖魔も倒して平和なんだしいいじゃないのさ」

「もう……すっかり気が抜けちゃってる………黒蜥蜴がまだ野放しなの、忘れてないですよね!」

「そりゃもう、しっかり」


 そんなことを言いつつ、少女も傍にちょこんと座る。


「綾ちゃ──支部長が言ってましたけど……漆葉さん、お姉ちゃんの活動履歴調べてるんですか?」

「んぁ? まぁな……」


 受け継いだ力を使いこなすには、朝緋のことを知っておいた方がいい。何より、俺へ力を託した真相にも近づける……気がする


「それって、ようやく土地神様として本格活動ですか!?」


 目を輝かせて迫る少女に、デコピンを食らわせてやる。


「ばーか、まともな引き継ぎもしなかったんだぞ? なんか力のヒントがねぇか探してんだよ……土地神は、変わらずお前だ白神」


 いつかは、こいつが本当になる……のか?


「むぅ〜……あの、その呼び方なんですけど」

「んだよ、白神」


 空は晴天。


 碧海市は、今日も平和である。

 ひすい公園のど真ん中。雑草は失せ、花壇は色とりどりの花が咲き誇り、命が今この一瞬を生きようと煌めく。人工の照明など不要と──そう言わんばかりの輝き。


「涼香さんのことはずっと下の名前で呼ぶのに…………どうしてわたしはまだ白神なんですか!? 前に名前で呼んでくれたじゃないですか!」


 またかよ………………アホくせぇ

 前に少しだけ呼んだっけなぁ………


「ねぇー漆葉さん!」


 姉妹揃ってやかましい。その姿が、どうしても重なってしまう。

 こんなにも記憶にこびりついていたのに、どうでも良くなる程忘れてしまっていたのか。

 そう考えると、こいつも記憶に残ってしまいそうで──


「……なんかいや!」

「なんですかそれっー!」


 むくれる少女と、もういない彼女の影が重なる。

 もし、再びこいつを夕緋と呼ぶなら。

 それはきっと────


「さぁなんでしょうねぇ」


 それは──妖魔として対峙する時にしよう。


 空は晴天。

 碧海市は、今日も平和である。


 妖魔の土地神は……呑気に茶を啜る。


「んもぅ……ところで漆葉さん、水筒なんて珍しいですね。さっきから何飲んでるんですか?」


 不満げにしつつも、少女が話題を変える。


「あぁ…………これ?」


 とりあえず、やれることをやっていこう。この花達を育てるように。

 こたえまで、そう簡単には辿り着けないだろうしな。


「ミントティー」







  ミミックボランティア chapter 2  

       碧海サル殻合戦


         (了)

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