2-4(4)碧海サル殻合戦 ④
「くらえええぇぇっ!」
蒼い殻装の主である白神が剣を振るい分身のサル達をぶった斬っていく。殻装をつけていようが、自分より巨軀だろうがお構いなしに蒼い鉄塊を振り回す。中距離から飛びかかるサルに対しては新装備の鉤付きワイヤーを打ち込み、引き寄せ両断。その間に押し寄せる分身には、渡した『桜の命』を存分に振るう。
「一斉射撃!」
真紅の殻装の主である涼香は両肩、無数の両足から小型ミサイルと両腕部についた銃口から弾丸を撒き散らす。ヒト対妖魔の風景が、一気に焼け野原と化した。
「こっちも負けてられねぇ! こいつらを倒しちまうぞ!」
奮起する職員達が、分身サルを押し返し始める。
(やべぇな、あれ)
これからはあんな兵器とやりあうのかよ。南無、妖魔達。
「グ、ググ………人間風情が、そんなガラクタを何度つけたところでェッ!」
サルは矢継ぎ早に分身を生み出していたものの、生産に対してこちらの消滅させるスピードが上回っていた。生命力を奪ったのが、相当効いているようだ。
「ガラクタなんかじゃない! わたしたち人間が、お前たちと戦う為の力だ!」
分身のサルを退け、白神が突撃する。
「夕緋、援護します!」
再度出現する分身を、涼香が射撃・爆撃で援護。一帯が炎に呑まれ、妖魔が淘汰される。
「そんなモノに頼ったところで! 私が負けるわけがないのだァッ──!」
ゆらめく火炎と黒煙をぶち抜き、サルも白神へ踏み込む。
「いけぇ──白神ぃッ────!」
とっとと終わらせちまえ!
「はぁッ────!」
大地を蹴り、少女が跳ぶ。蒼い剣を左手で振りかぶり、サルへ一刀。
が、サルは両手で刃を掴み受け止める。
「ガラクタを改修したところでゴミには変わりないんですよォッ!」
剣ごと少女を投げ飛ばそうとした刹那、
「人間を────」
桜色の刀身が、太陽に照らされる。
「なめるなぁっ!」
サルの左肩から右腰まで一振り、残光が刃の軌跡を描く。
「ぐエェッ……ァ、グ、ギ……!」
殻装用の剣を受け止めていたサルの左手は切り落とされ地面へぼとっと落下した。
「なめるな………? それはこちらのセリフだァッ!」
白神の斬撃後のわずかな硬直に、サルが反撃。『明るさ』──生命力を無理矢理分捕ってもなお、妖魔は白神と伍する以上の力がある。
────まだ足りない。
「夕緋!」
もう一人の少女による掛け声で、白神は後方へバク宙しながら後退する。
「この距離なら────!」
涼香による一斉射撃がサルに追い打ちをかける。銃弾、炸裂弾に小型ミサイル。一挙に押し寄せる火器に、サルは怖じない。
「ムダ────ムダですよォッ!」
弾道から身を逸らし、サルが真紅の殻装へ詰める。
「パイルバンカー、
「ガラクタが────スクラップにして──」
「ブースト、オン!」
重厚な鎧で妖魔の攻撃を受け止め、逆にサルの胸へ杭をぶち込み中空へ打ち上げる。
「追撃────
全武装の口が妖魔へ向き、一斉に火を吹く。鉛弾はサルの身体に無数の穴を空け、爆撃でその身を焼き尽くす。
「こ────こんな、やつらにィイイイイイ!」
爆炎と黒煙がサルを包み、声だけが確認できる。……やったのか?
「ヒャヒャヒャヒャ、お見事! と言っておきましょう!」
否、周囲のサルもまだ消えていない。それどころか煙を突き破るように無数のサルが追加で降下してくる。
「正直ここまで追いつめられるとは思いませんでした………計算外の要素もありましたし、ここは退いて差し上げますよォ、ハイ!」
数は10、20……それ以上! せっかく減らした分身がさらに増え、奴らは東西南北全方向へ走り出した。
「ここで逃走を許せば再度襲撃されます! 一人たりとも逃してはいけません!」
どいつもこいつも片手を失くした実体をうまく模した虚像が走り回っている。既に何体か公園出口へ向かおうとしている。
「んなこと言ったって! どいつが本物なんだ!」
「とにかく撃って! 全部倒せば──!」
職員達が手に持った銃で一体ずつ仕留めていくが、誰もかれも霧散するだけ。本体ではない。
「「「「「ヒャヒャヒャヒャヒャ! 精々同士討ちしないよう丁寧に撃ち抜いてくださいねぇ、ハイ!」」」」」
どう見つける………全部そこそこ『明るい』し………ん?
────目の前を通り抜けるサル達のやや後ろ。体の『明るさ』が激しく、大小に明滅する奴が一人。そこには凛とした背広姿はなく、煤に汚れた量産型殻装をしっかり装備した奴。
無造作に、そのサルの右腕を掴んだ。
「よぉ
「ヒャ────な、なぜ………分身の配分も完璧に」
散々バカにしといて、最後は
「いい加減サルは見飽きたんだ、そろそろお開きにしようぜッ!」
掴んだ手を振りほどこうとサルは暴れるが、今の俺でも十分捕まえていられる!
逃げようとするサルを羽交い絞めにして、残った気力でありったけ叫ぶ。
「白神ィっ────こいつをぶった斬れぇッ────!」
声は人間だけではなく、分身にも聞き届けられる。
「な、なにしてるお前達! このカスをさっさと引き剥がせェッ!」
逃げ惑うだけの分身が、一斉に俺へ押し寄せる。
「残念でしたねェ、分身は簡単にあなたを殴り殺せますよォッ!」
「そうかもな!」
だが
「──涼香ぁッ!」
「了解! 各武装残弾一斉射撃!」
サル本体の盾になる分身、俺に襲い掛かる分身が一人の少女によって撃ち抜かれ、一掃される。霧散していく妖魔を蒼い鎧で押し退け、白神が刀を振り上げる。
「いい加減決めてくれよ、土地神様!」
「了解です!」
抑えるのも、もう限界だ。さっさとやれ。
「────これで」
「こ、こんな雑魚どもにィィィィッ──────────」
「終わりだぁっ────」
桜花一閃。
少女の渾身の一刀が、サルを切り裂く。
斬撃を受けたサルは『明るさ』を失い、地面に伏し──その
◇ ◇ ◇
「ふぃ……終わった…………」
急に脱力してしまい、尻餅をついてしまう。あぁ、疲れた…………
周囲に残っていたサルは消滅し、殻装を装着していた分身はそれだけを残し虚空へ失せた。
「目標、特定妖魔サルの沈黙を確認………」
「ま、まだ他の分身がいるかもしれないです涼香さん!」
ピクリとも動かない妖魔とやや距離を置いて二人の少女は緊張状態を維持している。いきなり分身が消える光景を目の当たりにした職員達も、銃を構えたまま周囲を見渡している。
「いや──終わったぞ」
別に口に出すつもりもなかったんだが、無意識に口から漏れた。
「もうこいつ……『明るく』ないし………」
「………? どういうことですか、漆葉さん?」
あ、そうか……こいつも
公園に植えられていた花も、サルがわざわざ嫌がらせで植えていたミントも等しく『明るさ』を失っていた。
「知らないのか? 命ってのは『明るく』輝いてんだよ、土地神様」
こうして、田舎でのサル騒動はひとまず終結を迎えた。
……終わったはず、である。
視線を下に落とすと、サルの捨てたタバコの吸い殻が目につき、戦闘直後にも関わらず、奇妙にムズムズした感覚に襲われる。
「はぁ……サル退治が終わったら、通常業務ですか」
ホントに土地神の仕事なのかねぇ、ゴミ拾い。
疲労困憊の身体に鞭を討ち、現場の収拾を始めた。
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