2-3(5)『明るい』命



 擬態の状態でも現在いまはかなり調子が良い。むしろ来栖兄弟と戦っていた時よりも冴えている。


「キシャァアアッ!」


 対峙に痺れを切らした眼前の殻装サルが一体、真正面から飛びかかってくる。


「漆葉君、迎撃準備!」

「────はいよっ!」


 待つよりも攻める! 

 右足で地面を踏みしめ蹴り上げる。土地神の力で増幅した脚力で前へ小さく飛ぶ。

 サルの両手の爪が届くよりも前に、刃を空に向け、刀の切っ先を顎に突き立てそのままブッ刺す。肉を抉り、その勢いのまま刀身を振り上げる。


「まず一匹!」


 即座にサルは霧散し、着ていた殻装が地面に転がる。拾う間も無く次が押し寄せる。


「伏せてッ!」


 榊支部長の一声で着地と同時に地面へ伏せる。乾いた発砲音が二発、見上げた先で殻装サルの両目が潰れ、虚空へ消えた。

 ────ナイス支部長!


「これで二匹!」


 続いて支部長が後ろから射撃。殻装サルの胴体に鉛弾が直撃するものの、数歩退くだけでにやりと笑われた。


「無駄だよ榊クン、さっきみたいに肌の露出している部分を狙わないと! 一般職員用の殻装だけど、車でもぶつけないと破壊はできないからね!」

「自慢してる場合かっ!」


 銃弾に効果があろうとなかろうと関係ない、ぶった斬る!


「ウギッ!」


 桜色の閃光がサルの妖魔を両断する。これで二匹目!


「威勢良く啖呵切ったのはいいけど、漆葉君何か策はあるの?」

「へ? 『』がありゃいけるでしょ」

「そりゃあキミはね! 悪いけど隠し持ってただけだからボクも榊クンも予備の弾はほとんどないよ!」


 ……役にたたねぇ


「ヒャヒャヒャヒャ! 反省するのはあなたのようですねぇ、漆葉境!」


 前を振り向くと、ジャンプしたり膝を曲げて構えるサル達。土地神の力で横薙ぎにしたのを警戒しているのか、一度に捉えられないように全員がばらついた動きを見せる。


「うっとうしいなぁ………」


 なぜかは知らんが今は刀に土地神の力が自動で充填され続けてはいるが、闇雲に振り回してガス欠は避けたい。


(何か突破口は────)

「分身の大元がわかればねぇ」

「え! なんすか博士!」


 牽制で襲い掛かる雑魚サルを退けながら博士に問う。


「これだけ分身をして統制を取るなら近くに実体がいてもおかしくないからね。そいつを叩けば────」

「周りのサルも消える────ですか!」


 そんなもん最初から分かれば苦労しない…………そもそもこんな事件も起きてないだろうに。


 あ────そういえば。


「所詮数には勝てませんよ、ヒャヒャヒャヒャ!」


 背広姿のサルだけ、他の奴らよりも強く、大きい光を体の真ん中から放っている。

 いやまさか………なぁ


『ほら見て! すっごく明るい!』


 何故今────朝緋との過去が反芻されたのか。今現実に起きている自分の目に映る光景が少女の言葉と重なる。

 息絶えた妖魔に光なく、地に咲く花が光を放っていたなら────それは生きているということ………なのか?


「博士! 実体って分身より強いんすよね!」

「大抵はそうだよ! なんで!」


 遠方のサルを狙撃していた博士から回答が返ってくる。


「博士、支部長! ちょぉっと自分達だけで凌いでもらって良いすかね!」


 答えを聞く気はない。こちらの様子を伺うサルのことを無視して一気に、一直線に駆ける。


 今見える『明るい』奴が実体なら!


「ちょ、ちょっと漆葉君!」

「ほんの少しだけ! 自分達でなんとかしてください!」


 振り返らない。二人に何かあったらその時はその時だ。

 一瞬で距離を詰めたが、スーツ姿のサルの前に殻装サル二人が立ち塞がる。明度は低く、比べるとその後ろに控えるサルの光がより強く見えた。


「邪魔だぁっッ!」


 雑に刀を振るう。防ぐ間も無く純白の殻装が裂かれ、サルは消滅。その奥で逃げようと踵を返したスーツ姿のサルの頭を左手で鷲掴み。


「────確かに明るいな!」

「ヒッ────ま、ま────」


 後頭部に刺突。そのまま股へ刃を振り下ろす。体から光が消え、『明るくない』ソレは地面へ倒れた。


「ウギッ、ギギエギィ────!」


 予想とは裏腹に眼下のサルが霧散したと同時に博士と支部長に襲い掛かっていた分身も消滅した。


「あらら、こいつも分身?」


 意外と呆気なく倒してしまったが、本物じゃないからか。この程度ならもう白神や涼香がいなくてもイケるな。


「漆葉君、いくらなんでも無茶しすぎ────それに一体どういうことなの!」


 小屋に点いていた火の手が強くなり始める。詰め寄る支部長の間へ博士が割って入ってきた。


「まぁまぁ、とにかく漆葉クンの起点で危機は脱した! おそらくここへ寄越していたのも分身の指揮を任された分身なんだろうね」


 なんとまた面倒な……それじゃあ光ってる奴を見かけても本当の本物ではない可能性が出てきたわけだ。ややこしい話である。


「………それも含めて早く支部に連絡を………」


 二人を含め、場所の特定をしたいのは俺も同じだ。かと言ってこれと言って手がかりはない。まぁ博士の話からするとそんなに時間は経ってないんだろうが……

 相変わらず双眼から捉える光景からは支部長と博士、二人とも光って『明るく』見える。力が冴えているせいか、周りの木々もより一層映えて見える。

 その木陰に隠れ、こちらの様子を伺う小動物を模した妖魔達の光も。


(あーもしかして……もしかしなくても翠山やまか)


 こちらを見る奴ら……リスやウサギ、その他ネズミのような外見をしている奴らがなんとなく妖魔であることはわかる。

 ゆっくり歩み寄ってみても退く素振りはない。


「ちょっと漆葉君! どこいくの?」

「どこっつーか、碧海市に戻らないと」


 いざ見下ろす距離まで近づいてみても、小さな同胞達はこちらを見据えている。静かにしゃがんで耳打ちするように囁く。


「お前ら俺のことわかるか?」


 なんて言ったところで、言語が理解できるほどの知性はないんだが。

 ────驚いたことに、後ろ足で立ちこぞって右足を天へ挙げた。

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