2-3(2)疑問と派遣



「碧海市でのサル出現は止まりましたが入れ替わるように隣接市町村で通報が増加、我々が苦心していたように他市でも後手に回る対応を余儀なくされており応援の要請が続いています」


 ミントとの激闘除草を終えた後、支部会議室では事態の進展について報告会が行われていた。土いじりで遅刻して部屋に入ると視線が集まる。


「漆葉君、遅いわよ」

「へいへい、すんませんね」


 榊支部長の小言も慣れたものである。憎まれ口を叩きながら空いていた涼香の隣に着席。


「戻ってたのか」

「えぇ……出現したサル自体は若干異なっていましたが大したことなかったので」


 違う……? 猿山じゃないってことか?


「そういや白神は?」

「殻装の動きに違和感があると、お父さんのところへ行っています」

「もう言い直さないのな……」

「これから碧海市の従者になるなら呼びやすく言っていた方が楽なので」


 開き直った涼香との雑談を終え、前のスクリーンへ視線を移す。

 そこに映っているのはいつものサルのような、しかしもう少しゴツいゴリラに近い妖魔。綺麗に着こなされていた背広は内側から隆起する筋肉に押し上げられ窮屈な印象。


「サルの通報に併せて類似した妖魔も報告が上がっています。これも討伐自体は滞りなく行えましたがやはり肉体が消滅。異なる点としては見た目以外には攻撃性が増し、筋力もサルの倍以上はあると推測されます」


 あれも猿山なのかねぇ。

 しかし……俺の邪魔と白神の命を狙うとは言うが、どうやってやるんだ?


(それに……)


 支部長の報告を他所に、別のことが脳裏を巡る。

 分身の能力がどこかしらの土地神の力だとして、何故対価なしに使えているのか。


(……なにより、力が使えるならそれは土地神と呼んでいいのでは?)


 猿山の言ったことが本当ならもっと妖魔が人間の領域を侵しても不思議ではないのだが。一人二人が持っていたところで数には勝てないのかねぇ。


「つきましては、各市から要請があればこれに対応。基本は土地神と桧室さんを優先して派遣、街は従者である漆葉君と他職員で対応するよう通達がきました」


 さっきの連絡もそうだが、この通達には疑問がある。


「はいはい! 支部長!」

「なんですか漆葉君」

「碧海市のサル出現は止まりましたけど、また出てくる可能性もあるんだから白神と涼香を出すのはおかしいと思いまーす!」


 正直出力の安定しない現状で俺一人置き去りにしないでほしい。余計な仕事したくないし。


「あのね……今は殻装も配備されて碧海市は余裕がある区域だと判断されているの。その上戦闘もないのに土地神と桧室さんまで持て余していると注意が入ったの!」


 やや荒い口調で榊女史に返される。ここ最近のことで相当ストレスが溜まっているらしい。


(……なら偽黒蜥蜴の時はなんで他から応援がなかったんだ?)


 むしろ被害を考慮すると他県からでも余力を引っ張ってくるべきだったのでは? 


「これは全て上層部、特にこの県の統括土地神からの命令です」

「統括ぅ?」


 聞き慣れない言葉に思わず声が上ずる。


「各県に置かれる土地神のトップですよ……入った時に講習を聞かなかったんですか?」


 涼香から座るように促され、補足を受ける。


「ぜーんぜん」


 大袈裟に手を挙げると、涼香は諦めたようにスクリーンへ視線を戻した。


(土地神のトップねぇ)


 その統括とやらが今まで命令を出していたなら余計に不可解である。

 なぜ土地神ではない白神夕緋をずっとそこに据えているのか。上の人間なら看破できるだろうに。


(アホくさ……)


 いつかは対峙するんだろうが今はサル────いや、猿山が先だな。


 いくつか疑問は残るが、涼香と同じく前方のスクリーンをぼぅっと眺めて報告の終わりまで時間を潰した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る