2-1(6)猿の襲撃
食後、店を後にした俺たちは歩いて支部へ向かっていた。涼香だけ、乗ってきた車で帰ってしまったらしい。
「ハッハッハ、娘もアレで負けず嫌いな正確でね! いやぁひさしぶりに面白かったよ」
置いて行かれたことにはむしろ喜んでいるようにも見える。
「博士………私と涼香さんで楽しんでませんか?」
「年頃の友人もいない環境で
普通に楽しんでるなこの人。
「つーか博士、何で殻装なんてもん開発したんですか?」
配備されるのは仕方ないにしても作った理由でも聞いておくか。対策のヒントでも聞ければいいんだが。
「妖魔との戦いでは勝つことは最低条件として、『無事』であることも重要な要素だ。土地神の白神クン達と異なり普通の人間では一撃が致命傷になりかねないこともある…………殻装とは戦うための武装であり身を守るための殻でもあるんだ!」
次第に博士のテンションが上がる。が、すぐに平静さを取り戻す。
「とまぁ、理由は並べてみたものの………実のところは娘が傷つかないよう繕ったドレスのようなものだね」
「「………………?」」
言葉の真意は汲み取れず、俺も白神も首を傾げるだけだった。
◇ ◇ ◇
支部に到着したころには口の中のピリピリした感覚はいい具合に消えていた。食後の運動としてはちょうど良いくらい。もう今日は訓練しなくていいな!
「じゃあボクはこれで。二人とも、娘と仲良くしてやってくれたまえ!」
博士は支部であてがわれた仮の研究室へ去っていった。
「………だってよ、土地神様?」
「むー…………自信ないです」
いつになく白神は不貞腐れていた。頬を膨らませて駄々をこねる様子はガキそのものである。
「んだよめんどくせぇ………ちょっと前までは土地神らしくやってただろ?」
無理やり頭をくしゃくしゃに撫で回すが、反応はイマイチ。
「それはそうですけど…………あんな風にお姉ちゃんの戦い方を『非効率』って言われたら…………」
先程の会話である。屈託のない笑みをよく見せつけた朝緋を思い出すと、なんだか気が抜けてしまった。
「アホくさ」
「なっ! なんですか漆葉さんまで!」
「勘違いすんな、お前の姉ちゃんはもっと強かったよ」
朧気な記憶には、相対す妖魔を必ず絶命させる少女をの姿が残っている。まともに関わった人間だからか、今になってなんとなく思い出しつつある。
「………って、それ私が弱いってことですか!」
「やっと気付いたか!」
ガハハ、とわざとらしく笑ってみせると少女はムキーッと叫んだ。
「いいでしょう! なら漆葉さんには是非お姉ちゃんとどのあたりが違うのか! 徹底的に教えてもらいます!」
病み上がりの手で右腕を掴まれる。とても怪我人とは思えない握力。
「おいおい………今日はもう訓練なしで支部長に報告だけで……」
前を歩く少女が振り返って一瞥する。
満面の笑みで額に青筋を立てていた。あ、終わったわこれ。
「さぁ、漆葉さん鍛錬じか──ん?」
ヴヴヴ、と俺の胸ポケットから振動が伝わる。相手は榊支部長だった。身の危険を回避するためスピーカーをオンにする。
『────窓から見えてるわよ、ついでに言うと丸聞こえです』
「ちゃんとしてくれよー土地神様〜」
建物に背を向け、ツンツンと白神を指で突っつくと肘鉄を鳩尾にお返ししてくれた。
「榊支部長、隣の従者が最近素行不良なのでみっちり! 指導したいんですけど〜?」
クリーンヒットしたダメージで悶絶している俺を見下ろしながら、白神がニンマリと微笑みを向ける。
『体の心配する必要もなさそうね………指導は後日やればいいわ。それより二人とも支部長室に来てくれる? 念のため会って欲しい人物がいるのよ』
難を逃れ、ひとまず榊女史に呼ばれたので支部長へ向かう。ノックせず扉を開けると、支部長席に座る榊女史と、その対面で佇む男が一人。
「わざわざ申し訳ありません、土地神様とその従者の方にはどうしても面通りを希望しまして、はい」
目立って特徴のない顔と黒い短髪。細目に銀縁のメガネを付け口角は常に上がり気味。
黒スーツに黒ベスト、赤いネクタイを締め──どっかでみたような──ビジネスマンとでも表現すべき男が俺たちに名刺を渡す。
「初めまして──人材派遣会社『
「土地神の白神夕緋です」
営業スマイルに戻った白神に軽く突かれる。
「あ〜、従者の漆葉境です。どうも」
挨拶こそしたが、猿山とやらは最初から白神の方へ視線を向けていた。
「この度は土地神様へ是非にと思いまして、我が社からご協力を願い出た次第で──」
「す、すみません! 今は組織の規定で特殊な事情がない限り外部の方と協力できないんです」
来栖兄妹のゴタゴタがあってから二人のことは箝口令がしかれ、また以降外部からの招集や俺のように変わった理由で入職すること自体、凍結状態となった。
「そう! こちらの榊支部長にもそうお伺いして、はい! 今すぐには無理かと思いますが、もし! もし人手が足りないときは是非当社にご連絡いただければと、はい! 直接の土地神様にもお伝えしたかったので」
熱心なサラリーマンだことで。
「ひとまずは、我々の熱意が伝わるようこうしてご挨拶と、本日より市内で自主的な清掃活動を行っております、はい!」
そういえば、紅龍に行く前にこの猿山と似たような格好の奴らがいたな。
「あー、昼間のスーツ集団はこう言うことか………」
「おや! 従者の方は既に目にしていただいてましたか! いやー光栄です!」
無理やりに手を掴まれ握手される。
「我々としては妖魔と対峙した時にも対応できるよう、独自のカリキュラムで育成しております! もし早急に必要な場合は是非ご連絡を! では、失礼します!」
会うなり言いたいことをプレゼンして嵐のように消えてしまった。
「はぁ………やっと帰ったわね」
扉が閉まると榊支部長が大きくため息をついた。
「ここまで売り込みに来るなんて変わってますね、あの猿山さんって」
「冗談じゃないわ………来栖さん達の事実でまだ組織内が混乱していると言うのに、本部の人間が来ているこの上に妙な営業マンなんて付き合い切れないわ」
引き出しからなにやら薬瓶を出し、何錠か取り出した榊女史は机の上にあるお茶でそれを胃へ流し込んだ。
ラベルに記されていたのはどこぞの胃腸薬だった。
「でも律儀に応対まではしたんですね」
不意に口から出たのは本音である。いやまったく悪気はない。
「今や簡単に情報が発信できる時代なのよ………黒蜥蜴の騒動を面白がって報道しようとする連中もいるくらいにね。丁重に対応しないと組織の運営にも関わるの」
「難儀だねぇ」
「他人事じゃないでしょう? 貴方達の振る舞いはこの組織への評判に直結するんだから、もう少し自覚を持って頂戴」
「へーい」
いざとなれば白神に押し付けとこう。こういう時に従者と偽っているのは役得。
「そういえば漆葉君、昨日と様子が違うけど…………何か悩みでもあるの?」
唐突な榊女史からの問いにギョッとする。
母さん、あなたは何をしたんですか?
「ちょっとイメチェンに失敗したんですよ、ハハ、ハハハ…………」
疑いの眼差しが飛んでくるものの、白神を盾に防御。
「まぁいいわ。それより夕緋、もう退院して大丈夫なの?」
話題が白神の方に変わり、少女は元気に敬礼の真似をしてみせる。
「もう大丈夫、へっちゃらだよ! それに、また妖魔が出てるんだもん、土地神が寝てるわけにもいかないからね!」
時折出てくる素の態度こそ白神夕緋なのだろう。敬語も忘れて支部長に返している。
「まったく…………抜けてるところはそっくりね」
クスリと微笑む支部長。しかし、和んだ空気を切り裂くように支部内の警報が鳴った。
『市街に猿顔の妖魔が多数発生! 建物や車を破壊しています! 至急現場へ向かってください!』
昨日の今日──おまけに白神も万全とは言えない状態で出撃を余儀なくされた。
◇ ◇ ◇
支部から車で五分程度、市街の交差点手前で車が渋滞し、クラクションが飛び交っていた。
先にパトロール中だった職員が向かったらしいが連絡がない。
「妖魔が出てきた割には落ち着いてるな」
車内。隣に座る白神はセーラー服………ではなく、蒼い強化外装──
「通報だと人を襲っているわけではなくて、主に人の乗っていた車を叩き割っているようです」
なんとまぁ迷惑な…………
「いずれにせよ人間を襲う可能性もありますからはやく──」
白神の会話が車外から割って入った悲鳴で途切れる。
『破壊活動をしていた妖魔が人に危害を加え始めました! 至急対処を!』
右耳につけた通信機から切迫した連絡が入る。逃げ惑う人の中、無理矢理ドアを開け社外へ出ると、渋滞の車の上を飛び交う猿顔の妖魔が──
「いち、に、さん…………何体いるんだよ」
目視できるだけでも暴れている人影………妖魔の影は十体程度いる。石だのドライバーだのハサミだの、どこから持ってきたのか各々振り回していた。目を細めてピントを合わせると、スーツ姿にニホンザルの頭をしたあいつらだった。
(あいつらまだいるのか………)
かれこれ似た顔のあいつらをもう何体も始末したが、一体何人この街に入ってきているのか。
「猿に似た妖魔ですね…………とにかく民間人の救出、妖魔は各個撃破していきますよ漆葉さん! これに力の充填、お願いしますね!」
白神が土地神の得物である『桜の命』を無造作に放り投げる。
「お、おい! ………いっちまったよ」
作戦もなく、血気盛んに少女は強化外装とセットの青い両刃剣を持って戦場へ繰り出た。あの見境のなさ、なんとかならないのか。
とはいえ、いざというときのために力を注いでおかなくては洒落にならない。
「頼むぞなまくら」
喧騒の中、目を閉じて刀を握る。足元から大地の生命がながれこ────まない。
『現在、充填できる生命力がありません』
刀から無慈悲な宣告。仕方ない、急場凌ぎだ、俺の寿命をいれ──られない。
『現在、土地神・漆葉境の生命力は充填できません』
「おいおいおい! 俺の命なら緊急充填できるんだろ! さっさとやれ!」
『繰り返します。現在、漆葉境の生命力は充填できません。繰り返します──』
本当の
「なんてこった…………」
既に前方の交差点では車を踏み台にして白神が飛びながら猿顔妖魔の相手をしていた。妖魔達が車を踏み台に飛び上がるのに合わせ、自分も跳躍して斬撃でひたすらに妖魔を薙ぎ払う。しかし決定打にはならず囲まれていた。
『漆葉さん、こいつら中々すばしっこいですよ。刀で一気に蹴散らしましょう!』
通信機から白神の呼び掛け。
「あー、白神! 悪い、力使えないわ」
逃げる市民を後方へ誘導しつつ、走りながら少女へ応答する。前方からの避難者はほとんど消えたようだ。
『え、ちょっと! 嘘ですよね!』
一瞬動揺しつつも、白神は眼前の猿を押し退ける。
「嘘じゃねぇ! よくわかんねぇけど土地神の力が制限されてる! ここは今ある武器だけで凌げ──ってうおっ!」
放置された車の隙間を通りつつ白神の下へ向かっていると、脇からレンチを構えた猿妖魔が突進してきた。振り上げられたレンチをなまくらの刀で受け、妖魔の腹を蹴り飛ばす。擬態の出力では多少よろめかせるだけ。
「ッ──めんどい、な!」
のけぞった猿妖魔の額に刀を突き刺す。白目を剝いて地面に伏した妖魔は徐々に全身が黒く染まり中空に霧散した。
「消えた………次!」
敢えて走らず、早歩きで交差点へ向かう。前方から再度猿妖魔が三体。どれもハサミや包丁など、普通日常で扱うものを凶器として持っている。
「おい白神、そっちは大丈夫か!」
通信を入れる。向かう先、ちらっと見えた蒼い鎧を纏う少女は、脇腹辺りを押さえていた。
『大丈夫ですッ! ちょっと昨日のダメージはありますが──ッづ!』
応答を聞いている間に、眼前へ三体の妖魔が迫る。やはり見分けがつかない。前の続きだ、猿I、J、Kでいい!
「キィェェー」
真正面から奇声を上げつつハサミの刃を俺の顔に向けた猿Iが詰め寄る。膝を曲げて身を屈め踏み込む。相手の懐に入った刹那に刀の切っ先を猿Iの顎に向け、一気に突き刺す。
「ギェ!」
脳天を貫通した刀を引き抜き、そのまま右肩で体当たりをして絶命した猿Iを吹っ飛ばす。
「ふぃ〜──ってぅあッ!」
右側面から包丁で切りかかる猿妖魔Jが間髪入れず襲い掛かる。反応が遅れ、刀を握る右手を抑えられる。相手の得物を持つ右腕を左手で掴み、刃を鼻先の距離で止める。
「それは料理道具だろ……」
「ウルセェ! さっさと死ね従者がッ!」
相手の腕に入る力が増す。右腕が軋む。擬態ではまだ圧倒できない、なら今できる範囲で切り抜けるしかない!
「言ってろ!」
開いていた相手の股を右足で思い切り蹴り上げる。確かな手ごたえの直後、猿妖魔Jは明らかに悶絶。掴まれていた右腕を振りほどき、そのまま掌で相手の顔面を叩きつける。
「ァ………ギ、ギギギ!」
口から涎を垂らし、股間と顔を押さえて猿Jは倒れた。止めを刺そうとしたのも束の間、もう一方から猿Kが持つバタフライナイフが左腕を切り裂いた。
「いッ、つ──!」
緑色の袖が赤黒く染まり、手の甲に鮮血が滴る。わずかに熱を帯びる。
「キキキ! 抉られた感想はどうだァ?」
左腕を押さえるが、出血は止まらない。倒れていた猿妖魔Jもよろけながら立ち上がった。
「もう立ち直りますか──」
白神の方を一瞥すると、やはり先日の攻撃が残っているのかどこか動きが緩慢になり始めていた。残りの数体が少女を包囲している。
「よそ見してんじゃねぇッ!」
視線を戻した時には、ナイフの切っ先が眉間に差し迫っていた。
やば────
これ、普通に
「い、今のは……!」
元来た支部の方向に視線を移す。乗り捨てられた乗用車のルーフで、ライフルを構えた涼香が佇んでいた。殻装は一切装備しておらず、栗色の髪をポニーテールにして纏めた生身の姿。
『
通信機からでも感じる冷たい少女の声。と同時に残っていた猿妖魔Jが飛び掛かる。悪あがきと言わんばかりに大口を開け迫る。
「俺はいい! この猿は何とかするから先にいる白神を援護してくれ!」
刀の柄で妖魔の頭を殴り、一旦怯ませる。
『──了解。ソレは処理を任せます』
通信が終わる。白神の心配をしたいところだが、目の前でキツい口臭を振り撒く猿妖魔Jが鬱陶しい。
「舐めんなよ………マトモな武器があればテメェみたいな人間ワケねぇんだ!」
………同族なんだが。
「キェーッ!」
唾液で汚れた猿の顔の距離が詰まる。恐れずこちらも飛び込む。
大口の空いた妖魔の顔を押さえ、心臓に刀を突きたてる。一度引き抜き空いたままの口、その喉奥に得物で再び刺突する。
「ガ──ァ!」
力なく崩れる妖魔は、膝をつく前に黒く染まりバラバラとなって霧散した。
「ふぅ………はぁ………」
左腕の痛みなど忘れ脱力する。その目の前を涼香が飛び越えていった。車から車へ、八艘飛びよろしく、跳躍しながら白神を囲む猿の妖魔達を狙撃した。
「ギぃッ」「キエェ!」「ギァイァ!」
必中。一撃で射抜いている。
『りょ、涼香さん!』
『狙撃します。妖魔から距離を取って下さい』
「白神ィッ! 一旦退け!」
疲労した身体に気合を入れ、交差点へ向かう。弱点を見抜かれたのか、白神は残っていた三体の妖魔から執拗に腹部を狙われている。
『だ、大丈夫です!』
接近する猿の妖魔に応戦しているが、剣捌きは明らかに鈍い。
「あのバカ──」
中空から重い衝撃音が二発、涼香が撃ち抜く。
『────残り一体』
と、最後に残った猿の妖魔は白神から剣を奪おうと揉み合っていた。抵抗する気力も失っているのか、明らかに様子が変だ。
『狙撃不能──漆葉境、土地神のサポートに回ってください』
「はっ?」
交差点に入った涼香はギアを上げ全速力で妖魔へ駆ける。ライフルの銃身部分を持ち────そのままグリップの部位で妖魔を殴打。
「ギャ!」
妖魔が吹っ飛ばされている間に、俺も到着。
「白神、大丈夫か?」
「あはは────ドジっちゃいました」
強化外装のフルフェイスで作られた兜からは表情が読めない。きっと気まずそうな顔だろう。
「白神夕緋、少し借ります」
涼香はそう言うと、ライフルを捨て白神の握っていた蒼い両刃剣を手に取った。重たい印象もなく、軽々と持ち上げる。
「ギギギギ────邪魔スンじゃねぇ!」
体勢を立て直した妖魔が地面を蹴り上げこちらへ飛び掛かる。
「ハァッ────!」
飛来する猿を涼香は回し蹴りで迎撃し、中空に浮かぶそれを剣で両断した。悲鳴を上げる間もなく、妖魔は霧散した。
「目標の掃討を確認。周囲の安全は確保しました…………やはり近接武器での戦闘は効率に問題あり」
事務的に涼香が呟く。
時間にしてほんの数分。いや数分もない。
「つえぇ…………」
何が『普通の人間』だよ博士。とんでもねぇバケモンじゃねぇか。
「二人とも、負傷の程度は?」
表情を変えず、ライフルを拾い上げながら涼香がこちらへ確認を取る。俺は左腕の出血を見せる。しかし、最初に戦うことになったのが
「さっき切られた………けどまぁさっさと止血すれば大丈夫だ、それより────」
足元で膝をつく鎧娘を指さす。
「病み上がりで無理するからだ、このバカ」
「バ、バカって何ですか────ぁつ!」
立ち上がって反論する少女は、脇腹の辺りを押さえた。その様子を見ていたもうひとりの少女は、白神の腕を掴んだ。
「内臓を痛めているかもしれません、急ぎ病院へ」
「大丈夫です、これくらい────」
「何かあってからでは遅いんです!」
この二日、桧室涼香の見たことのない怒りの表情が一瞬垣間見えた。突然の怒声に、白神は狼狽え言葉に詰まる。
「………失礼…………ですがあなたが病み上がりであることは確かです。わたしも同行します、行きましょう」
無言のまま白神は涼香に連れていかれた。
その後応援の職員達が来て、現場の撤収が始まった。民間人の負傷者は数人出たが、重傷者はゼロ。俺の手当ても終わり、渋滞の交通整理は警察が対応していた。
あの後涼香から連絡があり、白神の身体に異常はなかったとのこと。ただしもうしばらくは安静にするよう命令が出された。
………涼香の奴、意外と世話焼きなのでは?
なんて、どうでもいいことは置いといて。
「……………」
土地神の力を使っての治癒もできず、刀に生命力を充填することもできなくなった。本格的にまずい。それに倒した猿の妖魔達は、回収する間もなくすべて霧散して消えてしまった。普通の妖魔ならまずありえない。何より
いずれにせよ、せっかく平和だったのに課題が山積みに戻ってしまった。しかも前より面倒な状況である。考えを巡らせても今は無駄だな。
「…………あー、アホくさ。帰ろ」
と、今までならスッと退散できたのだが。現場に散乱したガラスの破片やらゴミを目にして何とも言えないむず痒さを覚える。
「………わぁーったよ。やるよ、やりますよ!」
土地神の力は溜まらないが、とりあえず目の前にあるゴミを拾い始めた。
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