1−3

「ねぇ。何してるのかな」

「あァ? 誰だてめ……ウゲッ」


 いつの間にか、悪魔の横に女が立っていた。

 彼女は金髪の頭に天使の輪っかエンジェル・ハイロゥを浮かせながら悪魔を睨みつけていた。

 真っ白なワンピースコートを着ている。


「な、なんでてめぇがここにいんだよ」

「………もう一度訊くよ。君は、何を、しているのかな?」

 女は次は子供相手に言うようにゆっくり喋った。明らかに馬鹿にしている。

 悪魔はカチンときた。

「何って、契約だよ契約! あいつが死にたいっていうから手伝ってやってるんだよ!! 悪いか!?」

「そうかい……」

 女は左手を前に出すと、何かを摘むように人差し指と親指をくっつけた。

 人間の落下が止まる。

「ああ! こんやろう何しやがるっ!」

 次に彼女は、悪魔の頭上に天使の輪っかエンジェル・ハイロゥを移動させた。

「イカヅチよ」

 ――ピシャーンッ

 輪っかから雷の音がしたと同時に、悪魔の体に電撃が走る。

「痺れ、しびびび………」

 黒焦げになって悪魔は倒れた。

「……私に逆らうなんて、馬鹿な子」

 呆れた顔をした女は、摘んだ形のままの左手を上に上げる動作をした。

 落ちたはずの人間が、戻ってきた。


 ***


 …………また引き上げられた。

 と思ったらやったのはあの悪魔ではなかったらしい。焼き焦げた魚みたいになって、る。

 可愛い顔立ちの女性が僕を見つめている。……睨みつけているともいえるけど。でもこんな美人に長時間見られるなんて今までなかった。嬉しいかも?

 彼女は丸い蛍光灯を頭に浮かせているから、もしかしたら悪魔と対の存在、天使なのかな。

「どうして悪魔と契約を? 何かお困りのことがあるの?」

 ……人生に疲れてしまった。

 不運だらけの毎日で、生きる意味も分からなくなってきて、何もやる気がなくなって……

 ネガティブなことをつらつらと彼女に話した。

 すると、天使は僕に顔を近づけた。それは、綺麗な青の瞳だった。

「じゃあ、私と契約しようか」

 え?

「ご飯も服も、お金も住むところも、君にあげる」

 え、ど、どうして? 君にメリットがあるの?

「やだな、私は天使だよ? 人間に優しくするくらい当たり前じゃないか」

 そ、そうなんだ……。

「そうそう」

 それもそうか。天使だもんね。

「ま、多少は仕事を手伝ってもらうんだけどさ。契約する? 死ぬよりも楽しいよ」

 僕は少し迷ったけれど、彼女の頭の上の蛍光灯がピカピカ点滅をしているのを見ていたら、それもいいかななんて思い始めた。

 …………お願いします。

「よし。羊皮紙の契約書はないけれど、ほら、指切りげんまん」

 彼女は小指を立てた拳を僕に向けた。

 僕も同じようにする。

 小指同士が絡まった。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、指切った」


 ***


「あ~あ。アイツ馬鹿だなァ」

 月明かりがスカイツリーを照らす。

 毎夜ライトアップの色が変わるスカイツリーであるが、今日はほのかに赤かった。確か、のぼりという名前があるらしい。

 悪魔はそこの頂上から東京の夜を見下ろしていた。

 闇を蹴散らすビルの明かりが眩しい。だがあれの源は、残業させられた社員だ。

「あの女は『マスティマ』、天使であり悪魔でもある者。あれと契約すると魂が燃え尽きるまで燃料にされる」

 先程彼が食らった攻撃も、人々の魂が原料だ。 

 彼女は甘い言葉で沢山の契約者を作っている。

 悪魔は懐から塵を取り出す。

「くっそー、契約書も月刊デスロードも焼けちまったァ…………」



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月刊デスロード 双六トウジ @rock_54

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