1−2

「まずはそうだなァ……、海底で死ぬとかどうだろう」


 瞬間、体全体に鋭い痛みが走る。

 冷たい海に突っ込まれたのだ。

 僕はパニックになって手足を動かして泳ごうとするけれど、重りをつけられたかのようにどんどん沈んでいく。


 空が遠くなる。

 口から空気が抜けていく。


「うーん。あまり絵にはならんかも」


 溺れる……息が、苦し……、なっ、

 ……こ、……は………ヤ………


「嫌? 仕方ないなァ」


背中が摘まれたような感覚がしたあと、体がすごい勢いで空に上がった。


***


「んじゃあ、モンスターを放り込んだ檻に入ってみるとかどうよ」


 僕は目を瞑りつつ檻に足を踏み入れた。

 そこには何だかよく分からない動物が沢山居た。

「色々凶悪なの入れてみたぞ〜。虎にライオンに、キマイラにケルベロス。ぬえ狼狽ろうばい

 狼狽?

「ほら、そこの、二人一組みたいな妖怪だよ」

 ああ、なるほど。

 前足が長い獣に、後ろ足が長い獣が乗っかっている。あれが狼狽か。

 なんか、凶悪そうには見えないな。

「地獄の市場で適当に買ってみただけだからなァー」

 地獄にも市場があるんだ。

 にしても、僕が入ってもモンスターたちは静かに座っているだけだ。

 ケルベロスなんかは他の子と遊びたいらしく、腹を見せたり三つの頭で隣のキマイラに軽く頭突きをしている。

「大人しいのは当たり前さ、売人の悪魔に調教されてるからな。でもちょっと待ってろ、このバーサークスモークっていうのを焚けば皆暴走するからな〜」

 悪魔がバルサンのようなものを懐から取り出す。

 彼がそれの発火準備をしようとしていると、

『キュエッ』

 あ、狼狽がケルベロスに頭突きされて離れてしまった。

 狼狽がバランスの取れていない手足を暴れさせて鳴く。

『キュイッー!』『キュキュッー!』

 ……それを聞いていると、なんだか胸が締め付けられる。

 段々と、涙が出てきた。

「あ、おい! なんで全員泣いてんだよ」

 周りのモンスターたちを見ると、めちゃくちゃ泣いていた。

『キューーーー!!』『キュキューーーー!』

 ああ、僕の心臓がドクンドクンと速く鼓動する。

 息が上手く吸えなくなる。めまいがしてくる。

 まるで、上司に一時間ずっと説教されたときみたいだ。

「はぁ……、デバフかまされてんじゃねーよ」

 悪魔のため息が微かに聞こえた。


 ***

「首吊り」

やだ。

「体中に剣を刺すとか」

やだ。

「リストカットして出血死するまで何分かかるか計測」

絶対やだ。

「じゃあどうすんのがいいんだよ」

…………自殺薬とか、ないかな。

「くっそつまんねー」

***



「やっぱ、最終的にはオーソドックスなこれだな」


また、飛び降り自殺だ。

でも次はスカイツリーのてっぺんに立っている。

「スカイツリーから飛び降りなんてまだ誰もやってないからな、きっといい絵が撮れるに違いない!」

カメラを持ちながら悪魔はキラキラした瞳を僕に向けた。

そして、背中を蹴られる。




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