月刊デスロード

双六トウジ

1−1

 上司がした三億の横領を押し付けられた。

 何度違うと言っても誰にも信じてもらえず、僕はもうすぐ警察に事情聴取されることになった。

 昔から僕はこうなんだ。

 小学校の頃も、隣の女の子のリコーダーを盗んだのは僕だって疑われたり、秀才君のノートを破ったのは僕だと決めつけられたり。

 ……会社からの帰り道、僕はこんな人生に何の意味があるのだろうとふと考えた。

 こんな不幸続きの人生、長く生きてても悲しいだけだ。もう、嫌だ。

 僕はため息をつきながらとぼとぼ歩いた。

 その時、空き缶が僕の頭、右の側頭部に当たった。

 いてぇ。

 誰だ!

 投げられた方向を睨みつけると、大きなビルだけが立っていた。

 ……この道にこんなビルあったかな? 今まで気付かなかっただけ? 

 そのビルはなんだかおどろおどろしい雰囲気で、ツルが生えていて人の手が入っていなさそうだった。それに、とても高く見えた。

 そうだ、ここで飛び降り自殺をしよう。

 僕は直感的にそう思った。

 そして、屋上に登った。



「お前、自殺したいんだな?」

 ニヤリと笑う男が、いつの間にか目の前にいた。


 ……いや、いるはずない。ありえない。

 だって僕は今、屋上のフェンスを越えたところに立っているんだから。

 僕は男の足元を見る。地面はない。すなわち彼は宙に浮いていた。

「車も標識も人間が歩いている道路も、ここから見たらミニチュアのようだ。なあ、そう思わないか?」

 男はクックッと笑う。

 彼の服装は赤いシャツに黒いズボン。シルエットが細くてきれいだった。

 対して、僕はクタクタのスーツだった。これが新品なときは、親から「似合わないな〜」などとよく言われた。

「で、だ。契約をしないか?」

 契約? 死に際に?

「俺様は悪魔だ。お前にいくつか契約プランを持ってきた」

 悪魔。なんか、保険会社のプランナーみたいだ。

 と思ったら、実際彼は脇にクリップボードを挟んでいた。

 悪魔はそれを僕に差し出す。

 クリップボードに貼られていたのはごわごわした触感の紙だった。読み難い文字が書かれている。

「羊皮紙だ。下の方に名前を書いてもらえば契約完了となる」

 へぇ。

 とりあえずどんな契約だろうか、聞いてみることにした。

「まず一つ。人を越えた力を貰って、元

 の会社をぶっ壊すか」

 ……。

「嫌か?」

 会社にはもう戻りたくないなぁ。

「ふむ。では、お前を陥れた上司をぶっ殺すってのはどうだ?」

 上司の顔はもう見たくない。

 他には?

「二つ目。この世界の支配者に君臨する」

 …………僕には無理。すぐ裏切られそう。

「そうか。まあそんな感じの面してるからなァ」

 悪魔にもそんな風に見えるのか、僕は。

「そんじゃ最後。俺様がお前を殺してやる」

 え? なんで?

「自殺すると天国には行けなくなる。でも殺される場合はそうじゃない。

 お前、どうせ今まで散々な人生送ってきたんだろ? ならせっかくだから天国に行こうぜ」

 ……君のメリットは? 魂は取らないの?

「フッフッフ……、見ろ! これを!」

 悪魔はいつの間にか手にしていた雑誌を僕に見せた。

『月刊デスロード』

「こりゃ悪魔の世界で有名な雑誌だ。人間の面白い死に方の記事が沢山詰まってる。大悪魔たちもかなり投稿しているらしい」

 ……その雑誌が、どうしたの?

「俺様も、これに投稿したいんだ」

 悪魔が、ニヤリと笑った。



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